2015 年 27 巻 1 号 p. 3-7
透過型電子顕微鏡法(TEM)は,切片厚さ約80 nmで観察するため,高い分解能で細胞内微細構造を観察できるが,TEMの特性上2次元情報しか得られない.TEMデータによる3次元像を得るためには立体構築技術(電顕3D法)が必要となる.電顕3Dには大きく分けると,コンピュータートモグラフィー法(CT法)と超薄連続切片法がある.本稿で紹介する連続切片法は,高い技量と時間を要するが,大きな細胞でも細胞1個全てを丸ごと立体再構築することが可能である.例えば,ヘマトコッカス藻(Haematococcus pluvialis)は直径約30 µmと緑藻類の中で比較的大きい球状細胞をもつ微細藻類であり,シスト化すると抗酸化物質であるアスタキサンチンを蓄積する.本藻がシスト化するとアスタキサンチンを蓄積することはよく知られていたが,その蓄積前後での微細構造の変化についてはこれまでよくわかっていなかった.本研究ではアスタキサンチンを蓄積する前後の細胞から,1枚80 nm,約370枚もの超薄連続切片を作成し,1枚1枚を電子顕微鏡観察し,TEMの高解像度を保持したまま3D画像に再構築した.光ストレスを受けた細胞は微細構造が劇的に変化し,アスタキサンチンを含むオイルの体積は0.2%から約52%まで増加するが,細胞体積の約42%を占めていた葉緑体は9.7%にまで減少することがわかった.本稿では藻類バイオ研究の中で電顕3Dの有効性や技術的な面について,ヘマトコッカス藻を用いた研究例をもとに紹介したい.