2017 年 29 巻 1 号 p. 9-13
セルロースの分解効率を向上させると,植物資源から燃料や化成品を生産することが可能となる.しかしながら,セルラーゼによるセルロースの変換は非常に遅い反応であり,変換プロセスの律速となっている.そこで我々は,一秒以下の時間解像度とナノメートルの空間分解能を持つ高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いてセルラーゼ分子をリアルタイムに可視化した.トリコデルマ属由来のセロビオヒドロラーゼI(TrCel7A)分子は,結晶性セルロースの表面を一方向に進んでいる様子が観察されたが,その動きは他の分子によって妨げられ,基質表面で交通渋滞を起こしていることが明らかとなった.この分子運動と加水分解反応は同時に起こることから,酵素分子の渋滞は分解反応を抑制していると考えられた.セルロースの結晶形を変化させると移動する分子の数が明らかに変化し,さらに他の酵素(TrCel6A)を混ぜることで移動するTrCel7Aの分子数は爆発的に増加し,分解が促進されていた.