2021 年 33 巻 1 号 p. 25-30
イネ科植物に代表される穀粒を利用する作物にとって,穂の形態は収量に直結する重要な形質である.一つの穂は茎の先端に存在するシュート頂メリステムから形成され,その形態は,シュート頂メリステムにおける発生プログラムの転換とシュート頂メリステムから生み出される側生器官の原基の発生運命により決定される.これらの過程では,シュート頂メリステムや側生器官の原基を構成する個々の細胞の形態と配置の時系列変化と,それらがもたらす細胞間相互作用が重要である.3Dイメージングは組織構造を維持したまま細胞の動態変化が解析できる有力な手法の一つだが,シロイヌナズナを除く多くの植物では適切なイメージング解析技術の不足から報告は少なく,特に単子葉植物における解析例は極めて少ない.オオムギ(Hordeum vulgare)はイネ科に属する主要な穀物のひとつで,その穂の形成過程は「シュート頂メリステムの機能転換と消失」,「ユニークな特徴をもつ側生器官の原基の形成と消失」によって成り立ち,ダイナミックな形態変化が伴う.近年の植物組織の透明化技術 (Kurihara and Mizuta 2017) の開発により,オオムギの幼穂の形成過程の観察が可能となってきており,本稿では,オオムギの幼穂形成過程の概要とイメージング手法について紹介する.