2021 年 33 巻 1 号 p. 3-7
葉緑体には独自のゲノム(葉緑体DNA)が存在し, 多彩なタンパク質と相互作用することで葉緑体核様体構造を形成する. 葉緑体核様体は葉緑体における「染色体」として,DNA複製,修復,遺伝子発現の中枢として機能する.蛍光顕微鏡により,葉緑体核様体は葉緑体内のサブミクロンオーダーの球状構造として観察されるが,今回マイクロ流体デバイスをもちいたライブイメージングにより,葉緑体核様体が葉緑体分裂にともなって球状構造からネットワーク状へとその形態を劇的に変化させる様子が捉えられた.このプロセスは,おそらく葉緑体分裂の際に葉緑体核様体を全ての葉緑体に均等分配するために必要な機構だと推定される.葉緑体核様体が凝集してしまう変異体monokaryotic chloroplast (moc) 1の解析から,このプロセスの開始にはmoc1の原因遺伝子であるMOC1 (= Holliday junction resolvase) の活性化が不可欠であることが明らかになった.MOC1の活性は,高速原子間力顕微鏡とDNAオリガミ技術をもちいることで直接可視化することができた.さらにmoc1変異体における葉緑体核様体の挙動を詳細に追跡することにより,葉緑体核様体複製のホットスポットが,葉緑体核様体の中心部ではなく,周辺部にあることが明らかになった.これらより,葉緑体核様体の構造に関してDNA超らせん構造とDNA結合タンパク質により構築される核と,複製の鋳型となりやすいリラックスしたDNAが拡がる周辺部からなるというモデルが考えられた.