PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
核内のセントロメア空間配置を決める分子メカニズムの解明
松永 幸大
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2023 年 35 巻 1 号 p. 43-48

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抄録

細胞が分裂する際,複製されたDNAは凝縮して,染色分体が二本連なった染色体となり,その後,二つの細胞に等しく分配される.染色分体が等しく分配される時,染色分体の結合部位にあるセントロメアという特別なDNA領域が,紡錘糸に引っ張られて両極に移動する.細胞分裂が終了すると,染色体は脱凝縮して細胞核が再構築される.再構築された細胞核において,分裂面から遠位領域に塊となったセントロメアの分布が変わらなければ,セントロメアが片方に偏在した細胞核になる(Rabl構造).一方,セントロメアの偏在が解消され核膜内膜上に分散すれば,セントロメア分散型の細胞核になる(non-Rabl構造).例えば,酵母,ショウジョウバエ,コムギなどのセントロメアの空間配置はRabl構造であるが,ヒトやシロイヌナズナ,線虫などではnon-Rabl構造になる.これまで,セントロメアの細胞核内における空間配置を制御する分子メカニズムは不明であった.Non-Rabl構造の核を持つシロイヌナズナの変異体を用いたイメージング研究や分子細胞生物学的研究により,non-Rabl構造の成立には,二つの分子プロセスが必要であることがわかった.偏在したセントロメアを細胞分裂後期の後に分散させる過程には,コンデンシンII (CII)とLINC(細胞骨格と核骨格をつなぐタンパク質複合体)が結合したCII-LINC複合体が関与する.その後に,分散したセントロメアを核膜内膜近傍に安定化させるために,核ラミナであるCRWNが働く.このような因子の変異体は,発生・分化の表現型は正常であり,野生型と比較しても遺伝子の転写量の変化はほとんど生じない.一方,DNA二本鎖切断誘導剤を添加しDNA損傷ストレスを与えると,CII変異体やCRWN変異体の細胞核におけるDNA二本鎖切断頻度が増加し,器官形成の異常が生じる.このことから,セントロメアの適切な配置は,DNAの二本鎖切断を防ぐ役割があると考えられる.

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© 2023 日本植物形態学会
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