PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
形態形成とそれに伴う力の影響は器官損傷により顕在化する
浅岡 真理子 Ferjani Ali
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2023 年 35 巻 1 号 p. 49-57

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抄録

植物細胞内では高い膨圧が恒常的に維持され,細胞壁内部では膨圧に起因する大きな引張応力が発生している.この高い膨圧は細胞成長の駆動力であるが,植物細胞は細胞壁で互いに接着しているため,細胞の成長は,周囲の細胞の変形を引き起こし,組織レベルでの力学的配置の変化として伝播する.そのため陸上植物の器官の損傷は,物理的な外的要因だけでなく,形態形成過程における器官内の不均衡な細胞成長に起因する内的な要因によっても生じる.円柱状の構造を持つ植物の茎では,最外層に位置する表皮組織が内部組織の膨圧に起因する引張応力への耐性を発揮し,内部組織の伸長と肥大を制限することで,器官の力学的整合性が保たれている.本総説では,前半で,我々が近年報告したシロイヌナズナの花茎に亀裂を生じる変異体に関する研究成果と学術的な基盤についてとりあげる.つづいて後半では,植物器官の力学的整合性の維持が農学上問題となる事例として古くから研究されている,果実の亀裂について紹介する.球状の構造を持つ果実でも,成長に伴い外側組織にかかる張力が高まることが見積もられている.茎と果実という異なる器官において共通して見られる亀裂という現象について,特にその形態学的な原因に着目して議論する.

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© 2023 日本植物形態学会
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