PLANT MORPHOLOGY
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特集
種内多型から考える動植物の対称性多様化機構
Safiye E Sarper 北沢 美帆
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2024 年 36 巻 1 号 p. 45-52

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Abstract

多細胞生物の対称性は,その生物が持つ器官の種類・数・配置などに基づき,単一の対象軸を持つ左右相称性と複数の対象軸を持つ放射相称性の二つに大別される.動物・植物それぞれの系統で,左右相称性と放射相称性の切り替わりをはじめとする対称性の変化が起きたことが知られている.現在みられる対称性の多様性は,どのように生まれたのだろうか.本稿では,この問いに対し,動物については刺胞動物,植物については被子植物の花を例として,種内多型から議論する.刺胞動物と花には,左右相称性と放射相称性の両方がみられ,放射相称性についても三放射・四放射など複数のタイプがみられるという共通点がある.放射相称性から左右相称性への切り替わりには,新しい軸を確立する要素が必要である.被子植物において,放射相称花から左右相称花への進化は多数の系統で独立に起きたことが知られており,その多くで CYCLOIDEA (CYC) 相同遺伝子の関与が指摘されている.例えばキンギョソウの CYC 遺伝子は,発生初期に向背軸に関して非対称に発現することで,左右相称性を決定づけると考えられている.刺胞動物においても,イソギンチャクの種内多型の解析から,管溝 siphonoglyph が同様の位置情報源として働くと考えられる.放射相称性の複数のタイプについては,ヒドロ虫類の種内多型から,体のサイズと対象軸の数の間に正の相関が見出された.しかし,刺胞動物全体・被子植物全体といった広い系統に目を向けると,刺胞動物では四放射相称が多く,被子植物では三・五放射相称が多いといった,大きなトレンドがある.放射相称性の対象軸の数は,単にサイズ依存で決まるのではなく,特定の数のロバストネスを確立するような機構の存在が示唆される.この機構の解明が,多細胞生物の対称性の進化の理解につながるだろう.

Translated Abstract

Symmetry in animals and plants is a fundamental aspect of the body morphology. No matter if it is animal or plant, symmetry types in individuals can be evaluated based on organ properties such as types, numbers, and arrangements. There are mainly two types of symmetry, defined by the number of symmetry axes that divide the body into two same parts. Bilateral symmetry is characterized by a single symmetry axis and radial symmetry is characterized by multiple symmetry axes. How are symmetry types diversified? To explore these mechanisms, we mainly focused on intraspecific phenotypic variations. This review broadens its scope to include animals and plants, exploring the mechanisms of symmetry diversification. By comparing animals and plants revealed both commonalities and differences in symmetry diversity mechanisms. Transition between radial symmetry and bilateral symmetry suggests need for elements that establish a new axis, often involving asymmetric positional information along the adaxial-abaxial (directive) axis, as seen in the expression of CYCLOIDEA (CYC) homologues in angiosperm flowers. In the case of sea anemones, intraspecific polymorphism suggested the siphonoglyph establishment as a potential source of positional information, similar to the role of CYC in plants. In hydrozoans with radial symmetry, the number of symmetry axes generally increases as body size expands. Nevertheless, when we focus on larger clades such as cnidarians or eudicots, the number of symmetry axes between species is maintained, suggesting additional mechanism(s) that ensure the robustness of specific numbers. Understanding these mechanisms could provide valuable insights into the evolution and robustness of symmetry in multicellular organisms.

はじめに

対称性は,多細胞生物の体の形態を定義する基本的な特徴である.個体の対称性のタイプは,主として器官の種類や数,配置に基づいて評価できる.動物では対称性の種類は系統ごとに大きく定まっており,後生動物(いわゆる多細胞動物)の多くは左右相称性を示している.一方で,後生動物の系統の初期に分岐した刺胞動物門など,一部には放射相称性がみられる.また,刺胞動物門は左右相称性と放射相称性の両方が含まれる珍しい動物門である.このため,刺胞動物門は対称性の多様化機構の検討に適している.植物においても,体の全体ではなく部分的な構造に,多様な対称性がみられる例がある.その代表例が被子植物の花であり,刺胞動物同様に左右相称性と放射相称性が共存する.さらに,刺胞動物と被子植物の花に共通して,放射相称性の中でも三放射相称・四放射相称といった複数のタイプがみられるほか,一部には種内多型がみられるという共通点がある.私たちは主として野生下にみられる対称性の種内多型に注目し,解析を行ってきた.本稿では,刺胞動物と花それぞれについて,左右相称性と放射相称性の切り替わりと,放射相称性のタイプの多様性の2点に着目し,それぞれについて種間の多様性と種内のばらつきから議論を行う.

動物の対称性

対称性は動物体の器官配置に見られる最も基本的なパターンであり,動物の進化系統に従って多様化してきた.後生動物の対称性は,体を対称に分ける対称軸の数によって,2種類に大別される (Manuel 2009).ヒトを含む多くの後生動物(三胚葉動物)は一つの対称軸をもつ左右相称性を示す.一方で刺胞動物門のクラゲ(二胚葉動物)などは複数の対称軸をもつ放射相称性を示す.二胚葉動物は動物系統の初期に分岐した動物群である.そのため,後生動物全体としては,現存の刺胞動物に似た単純な形態を持つ放射相称の動物から複雑な形態を持つ左右相称の三胚葉動物が進化したと推測されている (Toxvaerd 2021).つまり,二胚葉動物から三胚葉動物への進化に伴い左右相称性が現れたと考えられる.この考えの下,伝統的には,方向性のある運動においては左右相称の体が放射相称に比べ有利であることが,対称性の多様化を促したとされてきた (Finnerty 2005).しかし,最近の分子生物学的解析は,進化の結果と考えられていた左右相称性を,放射相称動物を含む刺胞動物と左右相称動物の共通祖先がすでに有していたことを示唆した (He et al. 2018).祖先的な二胚葉動物が左右相称性を持っていたとすれば,対称性はどう多様化したのか?そして,放射相称性は何に対する適応として出現したのだろうか?

刺胞動物門における左右・放射相称性と管溝器官数の関係

刺胞動物門は動物界の初期に分岐した門の一つであり,体の表面や触手に獲物の捕獲や防御に特化した刺胞細胞を持つことを特徴とする (Turk and Kem 2009).刺胞動物門は放射相称と左右相称が共存する珍しい動物門である(図1A).このことから刺胞動物門は,これら二つのタイプの対称性の多様化機構を解き明かす手がかりとなると考えられてきた (Finnerty 2005).特に,イソギンチャク(イソギンチャク目),サンゴ(イシサンゴ目)などを含む花虫綱 Anthozoa は左右相称種と放射相称種が混在する (Malakhov 2016).花虫綱の全ての種は外見的には放射相称のみであるが,内部の構造には左右相称を示す種と放射相称を示す種の両方が存在する.この内部の対称性は分節の繰り返し構造から判断される.花虫綱の分節構造は,隔膜 (mesentery) とよばれる膜が個体の内部の胃腔を複数の胃袋 (gastric pouch) へ仕切ることで作られる.これらの隔膜は口道まで届く完全隔膜 (perfect mesentery) と口道まで届かない不完全隔膜 (imperfect mesentery) に区別される.内部の対称性は,これらの二種の隔膜の配置パターンに加え,隔膜に付属している筋肉(牽引筋:retractor muscle)の向きで評価できる(図2A).近年,左右相称のイソギンチャク目の一種である Nematostella vectensis(イソギンチャク目のモデル動物)において胃袋配置形成(分節構造)の分子生物学的な検討が行われた.その結果,N. vectensis の分節構造が,左右相称動物における体節等と同様に,Hox遺伝子によって定まることが示された (He et al. 2018).この結果は,分節構造形成での分子経路が,左右相称動物と刺胞動物に共通することを示唆する.そのため,刺胞動物,特に花虫綱での対称性の多様化の検討は,後生動物全体における対称性多様化機構の解明に繋がると考えられる.

図1 動物と植物でみられる多様な対称性.  (A)動物の系統と対称性.刺胞動物 Cnidaria では左右相称性と放射相称性の両方が観察されるほか,対称性の種内多型もみられる.(B) 被子植物 angiosperms の花にみられる対称性.真正双子葉類 eudicots,単子葉類 monocots,モクレン類 magnoliids それぞれに放射相称花と左右相称花がみられる.左右相称花の例として,それぞれ,マメ科,ラン科,ウマノスズクサ科を示した.点線は対称軸を示す.

花虫綱の一部の種には,咽頭の壁に繊毛で水流を生成する溝状の管溝器官 (siphonoglyph) が存在する.この管溝器官は,その位置の極性から左右相称性の鍵と考えられている (Beklemišev et al. 1969).具体的には,管溝器官は左右相称性における対称軸上に配置されており,その数が種ごとに異なる.左右相称性を示すN. vectensis は,一つの管溝器官を持つ (Williams 1975).一方で,イソギンチャク目には,ウメボシイソギンチャクなど,二つの管溝器官を咽頭の対向する端に持つ種も存在する.このとき,二つの直交する対象軸を持つ,すなわち二放射相称性を示すことになる (Malakhov 2016).このように,種間で現れる対称性と管溝器官数の相関関係から,対称性と管溝数の間には密接なかかわりがあると考えられる.

私たちはイソギンチャク目の一種であるタテジマイソギンチャク Diadumene lineata の対称性を調べ,種内に二放射相称性を示す個体と左右相称性を示す個体が混在することを発見した(図2A).さらに,管溝の数と対称性が相関しており,二放射相称の個体は二つ,左右相称の個体は一つの管溝器官を持つことを見出した.これは花虫綱の種間にみられる対称性と管溝器官の数の相関関係が,種内にもあることを示している.さらに,これらの結果は種内で対称性を決める管溝数の決定機構が種間の対称性の変化に転用され,対称性の多様化を生み出した可能性を示している.私たちはこの機構を理解するために,形態観察に基づき,胃袋配置の数理モデルを構築した(図2B,C).ここで重要となるのは,タテジマイソギンチャクが主に足盤裂片(親体から切除された一部分)による無性生殖で増え,その欠片からの再生過程で器官(完全隔膜,不完全隔膜,胃袋,管溝)の再配置を行うことである.そこで,数理モデルでは,欠片から個体ができる過程で,管溝による側方活性と胃袋同士の側方抑制によって胃袋配置が決まると仮定した.そしてこれらの仮定の下で,個体の対称性が,各個体が由来する欠片に付属していた管溝の数に依存して決定することを導き出した (Sarper et al. 2021).この研究に基づき,今後,種間および種内で胃袋配置を解析することで,管溝数による対称性の制御機構の実証が期待される.

図2 タテジマイソギンチャクの対称性の種内多型.(A) タテジマイソギンチャクの二放射相称個体と左右相称個体の横断面図.完全隔膜,不完全隔膜,筋肉,管溝の位置や数で対称性が判断できる.(B) 親個体から切除された足盤裂片から新たな個体が生じ,対称構造が形成される.(C) 数理モデルによる解析.初期条件として管溝の有無を与えることで,二放射相称・左右相称の個体を再現できる.点線が対称軸を示す.

刺胞動物門内の複数の放射相称性と個体サイズの関係

刺胞動物門で花虫綱の後に分岐した水母亜門 Medusozoa は,ヒドラ,ミズクラゲなどを含み,放射相称の体を持つ (Dzik et al. 2017)(図1A).放射相称性は花虫綱と同様に胃腔を分ける隔壁か,もしくは,触手 (tentacle) の配置や数で判断できる.水母亜門の多くの種は,四つの対称軸を持つ四放射相称性を示す.一方で,五放射相称,三放射相称の種も報告されている (Beklemišev et al. 1969).また,種間だけでなく,種内多型としても様々なタイプの放射相称性がみられる.例えば,ミズクラゲのほとんどの個体では,等距離に位置する四つの隔壁によって胃腔が四つの胃袋に分けられており,四放射相称性を示す(図1A, Berking and Herrmann 2007).しかし,五つの隔壁が等間隔で位置する五放射相称個体や,六つの隔壁が等間隔で位置する六放射相称個体も存在する.ヒドロ虫類でも同様に,触手の配置や数の多様性が報告されている.他の例として,モデル生物であるヒドラでは触手が口の周りに一列で並んでおり,この触手の数が5から10の間で多様性を持つ (Parke 1900).これらの知見から,対称軸の数が異なる放射相称性が種内に共存することがあり,さらにこの種内多型が多種にわたり存在していることが示唆される.しかし,それを立証するために必要な,触手配置について定量的な解析や放射相称な触手配置を生み出す仕組みについての記述は少ない.対称性について記述されている例も,一つのリング状に触手が位置するものに限られており,多数の触手が複数のリング状の配置に並ぶ種については,単なる不規則配置とみなされてきた (Malakhov 2016).

私たちは,多数の触手が複数のリング状配置に並ぶ場合でも,対称性がみられるのではないか,これに加えて,ミズクラゲなどと同様に放射相称性の中での種内多型がみられるのではないかと考えた.またその原理についても,触手配置の多様性から多くの情報を得られるのではないかと考えた.そこで,複数のリング状配置が並ぶ Coryne uchidai(タマウミヒドラの仲間)の触手配置を定量的に解析した.この解析にあたって参考にしたのが,同様のリング状配置を示すことがある植物地上部の器官配置(葉序, phyllotaxis)の解析手法である(図3A).解析の結果,C. uchidai のポリプでは複数の触手が口を囲む円周上の等角度に位置し,さらにそれが複数回繰り返されてリング状(列)のパターンを作っていることがわかった(図3A,B).さらに,連続するリングの間で触手の数は共通であり,個体内では一貫して同じ数の対象軸を持つ放射相称性がみられることを発見した.最も多かったタイプは四つの触手が等角度でリングを作り,各触手の長軸方向の位置について周期4を示す,四放射相称性であった(個体群の中の56.16%).一方,3個または5個の触手がリング状に位置し,周期3または5を示す三放射相称 (17.8%) と五放射相称個体 (16.43%) もみられ,種内多型が確認された.これらの結果から,対称性が無いと思われていた触手配置にも放射相称性があり,三,四,五放射相称性の種内多型がみられることが示された (Sarper et al. 2023).この研究で確立した触手配置の解析方法は,他の放射相称動物にも広く適用可能であり,今後より多くの種で放射相称性の種内多型の解析が進むことが期待される.

それでは,放射相称性のタイプは何によって決まるのだろうか.刺胞動物の対称性は体の外部構造より体内の構造に現れ,栄養吸収と循環の役割を持つ胃袋や管溝器官の配置に顕著である.このことから,個体のサイズによる栄養吸収と循環の効率が,対称性を変える駆動力になることが提案されている (Finnerty 2005).例えば,個体のサイズが比較的大きい花虫綱の種は8個以上の分節構造を持ち,管溝器官の海水を送り込む作用で栄養吸収と循環の効率を上げていると考えられる.これに対し,個体サイズが小さいミズクラゲポリプの場合,胃袋は4つの領域に不完全に隔てられている.さらにこれより小さいヒドロ虫のポリプは,胃袋内部を隔てる構造がまったく存在しない.これらの観察から,刺胞動物はサイズによって対称性を変える表現型可塑性をもつと推定されている.私たちは,C. uchidai の種内多型からこの推定と一致する結果を得た.すなわち,放射相称の多様性は個体のサイズ,特にポリプの直径と相関しており,五放射相称のポリプの直径は四放射相称個体より,四放射相称個体は三放射相称のものよりも大きかった (Sarper et al. 2023).私たちは数理モデルを構築し,触手間の側方抑制と口からの活性・抑制と位置情報に基づいた触手配置の機構を提案した(図3C).このモデルから,個体サイズの変化により放射対称性の対象軸の数が変化することを再現した.これらの結果は,個体サイズの表現型可塑性が多様な対称性を生み出す機構であることを示唆する.触手配置の数理モデルは他の放射対称な生物にも適用可能であり,様々な種におけるサイズと対称性の関係の解明につながると期待される.一方で,このモデルからは,C. uchidai だけでなく,刺胞動物門全体においても四放射相称性が広く見られることの説明はできていない.刺胞動物全体で対称軸の数を4に拘束するロバストな仕組みの存在が予想されるが,この仕組みに関してはまだ解明されておらず,今後さらなる研究が必要である.

図3 C. uchidai対称性の種内多型.(A)三つの個体について,全ての触手の長軸方向の位置(口からの距離)を計測し,近接する触手間で差分をとった(平均距離で標準化).三放射相称を示す個体(点線)では触手3個ごとに大きな値をとっており,葉序における三輪生のような配置を示す.四放射相称(実線)・五放射相称(破線)についても同様に,周期4・周期5がみられる.(B)触手間角度の平均は三放射相称の場合約120度,四放射相称の場合約90度,五放射相称の場合約72度であった.(C)数理モデルによるシミュレーション.個体のサイズ(直径)によって放射相称性のタイプが決まる.

植物の対称性

陸上植物の地上部は,シュート,すなわち一本の枝(茎)とその周りにつく葉などの側方器官を一まとまりとした単位によって構成される.シュートは茎の先端が伸び,その周りに側方器官を形成することで作られる.単純化するため,ここでは茎に沿った間隔を無視し,茎を真上から見たときの二次元で考えることにする(図4A).このとき,シュート内の対称性は,器官の数と角度,各器官の形と大きさによって決まる.同じ器官が一定の角度で形成される状況を考えると,茎を真上から見たときの対称性は放射相称に類するものになると想像されるが,実際には顕著な左右相称性がみられるシュートもある.その代表例が,被子植物の花である.

花は基部から頂部に向かって花被片(萼片・花弁),雄性器官(雄蕊),雌性器官(心皮)の3~4種類の花器官が配列した短いシュートである(図4B).動物と同様に,花にも放射相称と左右相称がみられる(図1).放射相称花の対象軸の数は花器官の基本数から議論できる.最も多いのは真正双子葉植物の五放射相称であり,次いで単子葉植物やモクレン類の三が多い.左右相称花は向背軸に関しては対称だが,向軸側と背軸側に器官の大きさや形の違いがみられる(図1B, 4C, D).被子植物の祖先的な花は放射相称だったと考えられている (Sauquet et al. 2017).放射相称性から左右相称性への進化は複数回起こったことが知られており,真正双子葉植物,単子葉植物,モクレン類のいずれにもみられる(図1B, Hileman 2014).

動物の左右相称性が方向性のある運動によって進化したとされるのに対し,花の左右相称性は昆虫など送粉者に対する適応として進化したと考えられている.例えば,ツリフネソウのような左右相称花は,送粉者の姿勢を制御することで雄蕊や雌蕊が送粉者の体の特定の位置に触れるようにし,受粉効率を上げると考えられてきた(図4C).ただし最近,左右相称性そのものが訪花姿勢を制御するのではなく,花の角度が重要だとする研究も発表されている (Jirgal and Ohashi 2023).

図4 花の構造と左右相称性.(A) 茎と葉の模式図.(B) 花序の側方につく花の例(断面図と花式図).花序軸(IA) につく葉 (B) の腋芽として形成され,外側から萼片 (K),花弁 (C),雄蕊 (A),雌蕊 (G) の4種類の花器官が並ぶ.(C) ツリフネソウに訪れたトラマルハナバチ.(D) キク科の頭花.

放射相称花と左右相称花の切り替わり

左右相称性の発生的要因が最初に突き止められたのは,キンギョソウ Antirrhinum majus においてである.キンギョソウは通常左右相称花を持つが,放射相称になる(整正花 peloria となる)変異が知られている.その原因遺伝子として特定されたのが,花発生の初期に向軸側特異的に発現する遺伝子CYCLOIDEA (CYC) と DICHOTOMA (DICH) であった (Luo et al. 1996, 1999).興味深いことに,その後多くの左右相称花の系統で,CYC の相同遺伝子が向背軸に沿って非対称な発現を示すことがわかってきた (Hileman 2014).

対称性の進化を解くには,刺胞動物のように近縁種間で異なる対称性を示すグループが役に立つ.マメ科はそのようなグループの一つである.マメ科のうち,マメ亜科の多くの種は,Papilionoideaeという名称が表すように,3種類の異なる形態を持つ花弁からなる蝶のような形の花を持つ(図1B右下).一方,同じマメ科でも別の亜科(近年の分類ではジャケツイバラ亜科)に分類されるミモザの仲間や,マメ亜科の Cadia purpurea などは放射相称性を示す.マメ科の左右相称花と放射相称花はそれぞれ,どのような発生を示すのだろうか.Tucker (1989) は花発生初期の萼片の形成順を比較し,放射相称花を持つミモザの仲間の萼片はらせん順または同時に発生し,左右相称花を持つマメ亜科では背軸側から一方向に発生すると指摘した.Prenner (2004) は,マメ亜科の中でも多様な萼片発生順があることを示し,らせん順から一方向,さらに同時発生へと進化してきたのではないかと提案した.マメ亜科においても CYC ホモログが向軸側に発現し,左右相称性に関与することがミヤコグサ Lotus japonicus で示され (Feng et al. 2006),左右相称花から放射相称花に戻ったとされる Cadia purpurea では,二つの CYC パラログのうち一つの発現が弱まり,もう一つが花芽全体で発現することが示された (Citerne et al. 2006).以上より,マメ科においても左右相称性の確立には CYC ホモログの花芽の向背軸に沿って非対称な発現が関与するとともに,放射相称と左右相称の間には発生時の器官形成順の変化がみられることがわかる.

私たちは数理モデルを用いて,対称性の変化に伴う器官原基の発生順の再現を試みた (Nakagawa et al. 2020).設定は単純であり,二次元円盤とみなした花芽分裂組織の周辺部に,一定のルールに従って器官原基形成が行われるというものである(図5B).器官原基形成のルールは Douady と Couder (1996b) の葉原基発生モデルを参考に,既存の原基が抑制場を形成し,その抑制の強さが一定値を下回る場所・タイミングで新たな原基が形成されるとした.また,花芽の成長によってすべての原基の位置は一定速度で花芽の中心から離れること,向軸側・胚軸側それぞれに抑制的な位置情報があることを仮定した(図5B).すると,キンギョソウやマメ科の左右相称花にみられる,左右相称な萼片発生順を再現できることが分かった (Nakagawa et al. 2020, 北沢 2020).ここから,向背軸に沿った非対称な原基形成抑制というシンプルな仮定で,多様で一見複雑な萼片発生順の変化を説明できることが示された.

タテジマイソギンチャク同様,花にも種内で放射相称と左右相称の両者がみられることがある.まず“変異”や“奇形”ではなく通常みられるものとして,花序中の位置によって対称性が異なるキク科の頭花が挙げられる(図4D).頭花には放射相称の筒状花(管状花)と左右相称の舌状花の2種類の小花があり,やはり CYC ホモログによって左右相称性が生じることが知られている (Broholm et al. 2008).遺伝的な変異,確率的ゆらぎ,あるいは光量など環境への応答として,整正花となる例も報告されている.たとえば,キツネノテブクロ Digitalis purpurea は花序の先端に整正花化した頂花 terminal flower をつけることがある (Rudall and Bateman 2003).直感的には,頂花には向背軸の基準となる花序軸がないため,CYC ホモログの発現が異常になりやすいのではないかと考えられる.しかし,そもそもキツネノテブクロの頂花を単独の花とみなしてよいか,といった議論もあり,CYC ホモログがどの程度関わっているかは不明である.一方,キンギョソウと同じオオバコ科に属する Linaria vulgaris は同一の花序において散発的な整正花化を起こすことがあり,CYC ホモログのエピジェネティック変異によることが示されている (Cubas et al. 1999),このようにみていくと,放射相称性と左右相称性の切り替えは,種間・種内によらず,向背軸に沿って非対称性な発現をする遺伝子の働きによるものであり,その実体は CYC ホモログであることが多いといえる.

花器官数の多型とロバストネス

放射相称花において,三放射相称か四放射相称か,といった対称性の種類を区別するときは,基本的に花器官の基本数を見ることになる.花器官数は,近縁種間や種内でも変化することがある.たとえば,バラ科のヤマブキ連には五弁のヤマブキと四弁のシロヤマブキがある.サツキやプリムラは通常五弁花だが,六弁を基本とする園芸品種も存在する.また,同一個体の中に確率的なばらつきがみられる例もある.キキョウは五弁花だが,四弁花が混ざることも珍しくない.イチリンソウ属 Anemone,セツブンソウ属 Eranthis,ウマノアシガタ属 Ranunculus など,キンポウゲ科の多くの花にも,花器官数のばらつきがみられる.不思議なことに,このような小さな範囲で見ると花器官数のばらつきがたやすく見つかるにもかかわらず,真正双子葉植物,単子葉植物,モクレン類のような大きなくくりで見ると基本数(数性)が5と3に偏る傾向がある(図1B).

真正双子葉植物における5の特異性は,実は種内のばらつきからも見出すことができる。例えば,ウマノアシガタ Ranunculus japonicus の花弁数を箕面市某所で数えたところ,249個のうち184個の花は5枚,残りは6~9枚の花弁を持っていた.5が最頻値だから5が特別なのかと思うのは早計で,他の場所で数えると,各数の割合は様々に異なる.416個中400個が五弁花などよりシャープな分布を示す場合もあれば,129個中五弁花が48個で六弁花が50個など,6が最頻値となることもある.これらはてんでバラバラにばらついているように見えるが,いくつかの統計量を見てみると,一定の関係性があることがわかる.横軸に平均μ, 縦軸に標準偏差σをとったとき,両者にμ=√|σ-5|(図5C)の関係が成り立つのである (Kitazawa and Fujimoto 2016).つまり,平均が5から遠い個体群ではばらつきが大きくなり,たとえば平均が6でほとんどばらつかない,といった個体群はウマノアシガタには見当たらない.ここから,最頻値やばらつきの大きさが個体群ごとに異なっても,5を「基準の数」とする単一のルールに従うことが示唆される.いわば“5の縛り”が存在しているのである.

それでは,何が“5の縛り”を生むのだろうか.花は生殖のための構造であるから,送粉者の誘因に有利であるとか,なんらかの適応的意義を持つ可能性もある.しかし,多様な送粉者に共通して,5が有利となるような状況を考えるのは難しい.左右相称花のように向背軸に沿った機能分担があるならば,数の変化が適応度の低下につながると考えられるが,放射相称花でも圧倒的に5が多い.この謎に対し,私たちは数理モデルを用いて,花器官の基本数が5になりやすいのは発生過程の特性によることを提案した (Kitazawa and Fujimoto 2015).

構築した数理モデルは,左右相称花の数理モデルと基本的に同じである.ただし,花器官原基は1個ずつ一定の時間間隔で,既存原基による抑制エネルギー最小の位置にできるとし (Douady and Couder 1996a),原基は形成後一定速度ではなく原基間の反発的相互作用によって移動することとした(図5D).狭い花芽の中に複数の原基が押し込められ,位置が調整されるイメージである.この設定でシミュレーションを行うと,パラメータ(花芽分裂組織のサイズなど)の広い範囲で,茎の周りに4個の原基が並ぶ配置が得られる.4個になるのは,モデルの設定上,最初の2個の原基が花芽の中心を挟んで180°の位置にできるためだと考えられる.この対称性を破るような仮定(図5E)を導入すると,五数性の配置がパラメータの広い範囲で得られることがわかった.

直感的には,ある一周に並ぶ器官の数は,周囲長の増加に比例して増加すると考えられる.実際,シロイヌナズナの clv 変異体では,花芽メリステムの拡大と花器官数の増加が観察されている (Schoof et al. 2000).私たちの数理モデルでも,大まかにいえばサイズの拡大とともに器官数も増加する.しかし,それぞれの数のなりやすさ,パラメータに対する安定性には大きな違いがみられた.ここから,特定の数になりやすい性質が発生過程に存在するため,被子植物全体で特定の数が多くみられるのではないかと考えている.

図5 花器官配置の理論解析.(A) 数理モデルの基本設定.花芽メリステム(FM, 円盤に近似) のまわりに i 番目の器官原基が形成される状況を考える.既存の原基 (i-1, i-2) は新規原基の形成を抑制していると仮定.花芽メリステムの周縁で,抑制の強さがある閾値を下回ったとき(矢頭の位置),その場所に新たな原基が形成される.(B) シュートの成長に伴い,原基は相対的に外に移動する.左右相称花のモデルでは,さらに向軸側と背軸側それぞれから抑制効果の勾配があると仮定した(両脇の矢印).(C) ウマノアシガタ花弁数のばらつきを様々な場所で調査したとき,平均と標準偏差の間にみられた関係.(D) 数理モデルにおける成長過程の検討.中心からの距離が直線的に拡大するのではなく,他の原基から遠ざかるように移動.(E) 既存の原基による新規原基形成の効果が,時間とともに減衰すると仮定.

おわりに

本稿では,刺胞動物と被子植物という,系統樹の上では遠く隔たった二つの系統群に,対称性に関する共通点があることを示した.対称性は多細胞生物の三次元構造を決める根本的な軸であり,系統あるいは種ごとにかたく決まっているように思われがちである.しかし,刺胞動物の体と,被子植物の花に共通して,近縁種間や種内で多様な対称性がみられる.本稿では特に,放射相称性と左右相称性の切り替わりと,放射相称性の複数のタイプについて,種内多型から議論を行った.

放射相称性と左右相称性の切り替わりには,発生過程において左右相称性を確立する,新たな軸を決める要素が必要である.被子植物の花の場合,これは背軸側領域での CYC 遺伝子の発現に代表される,向背軸に沿った非対称な位置情報だと考えられる.イソギンチャクにおいてこれと同等の働きをする位置情報源,あるいはその産物として,本稿では管溝に注目した.さらに,イソギンチャクからは,種内あるいは近縁種といった系統の狭い規模の議論によって,より広い範囲の進化についての予測が立てられることが示唆された.

放射相称性は,対象軸の数によってさらに細分され,C. uchidai の場合は触手数,花の場合は花弁数といったように,器官数から分類できる.C. uchidai では,三放射相称,四放射相称,五放射相称が共存する.これらのタイプ間の切り替わりは,体サイズと相関することが,定量的な形態解析と数理モデルから示唆された.花においても,キンポウゲ科の花器官配置など,放射相称の複数のタイプがみられる例がある.花でも器官数のサイズ依存性を示唆する結果はあるが,花芽の大きさが多様であるにもかかわらず真正双子葉植物の大多数が五数性を示すなど,特定の数のロバストネスも示唆されている.花については,発生過程そのものにロバストネスを生み出すしくみ(発生拘束)があることが,数理モデルから予測された.刺胞動物でも,放射相称の軸の数は4を基本とすることから,サイズによるゆらぎを抑え四放射相称性をロバストに確立する仕組みが存在すると考えられる.その解明が今後の課題である.

References
 
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