PLANT MORPHOLOGY
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特集 生命原理を “見る”
単一ミトコンドリア真核生物を用いたミトコンドリア標的タンパク質認証機構の解明
吉田 大和
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2026 年 38 巻 1 号 p. 3-10

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Abstract

細胞内共生を起源とするミトコンドリアは、細胞内で de novo に形成されることはなく、既存のミトコンドリアが分裂することによってのみ、その数を増やす。一方で、ミトコンドリアに含まれる多様なタンパク質の大部分は、ミトコンドリア DNA ではなく、細胞核 DNA にコードされた数百種以上の遺伝子に由来している。このため、細胞質で翻訳された新生ミトコンドリアタンパク質は、アミノ末端に付加されたペプチド配列に基づいて選択され、ミトコンドリア膜上に存在する巨大なタンパク質輸送ゲートを介してミトコンドリア内部へと運ばれる。しかしながら、ミトコンドリアタンパク質前駆体が有するペプチド配列の「情報」は暗号化されており、どのような原理に基づいて選択・識別されているのかについては、いまだ十分に明らかにされていない。我々は、単一ミトコンドリアを有する真核生物である単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeを用いて、ミトコンドリア標的配列に必須な最小構成要素の同定を目指した。解析の結果、予想を超えて単純なルールに基づくミトコンドリアタンパク質の認識機構が明らかとなるとともに、わずかな配列変化によって新たなミトコンドリアタンパク質が創出され得るという、進化的可能性も示唆された。

Translated Abstract

Mitochondria, which originated from an α-proteobacterial ancestor through endosymbiosis, are not formed de novo within the cell but increase in number exclusively through the division of pre-existing mitochondria. In contrast, the vast majority of mitochondrial proteins are not encoded by mitochondrial DNA but are derived from hundreds of genes encoded in the nuclear genome. Consequently, newly synthesized mitochondrial proteins translated by cytosolic ribosomes are selectively recognized based on peptide sequences appended to their amino termini and are transported into mitochondria through large protein translocase complexes embedded in the mitochondrial membranes. However, the “information” contained within these targeting peptides is cryptic, and the fundamental principles by which mitochondrial protein precursors are selected and discriminated remain incompletely understood. Here, we demonstrate that mitochondrial protein import relies on an unexpectedly simple prerequisite encoded within the targeting presequence. Using the unicellular red alga Cyanidioschyzon merolae, a eukaryote possessing a single mitochondrion, we identified the minimal essential elements required for mitochondrial targeting sequences. Our analyses revealed a remarkably simple rule governing mitochondrial protein recognition and further suggest an evolutionary potential by which novel mitochondrial proteins can arise through minimal sequence changes.

真核生物は、原核生物と比べて極めて高い進化的可能性を有しており、その誕生以来、複数のスーパーグループからなる高次分類体系を形成し、複雑な細胞機能を獲得してきた。こうした真核生物の生命デザインの根幹をなし、進化の原動力となっているのは、細胞内共生を通じたオルガネラの獲得による細胞機能の革新である。

αプロテオバクテリアの祖先細胞を取り込むことで、ATP産生能力が飛躍的に向上し、ゲノムの拡張とそれに伴う多様なタンパク質群の産生が可能となった(Mitchell 1961, Lane 2014)。また、葉緑体の獲得は、光合成による炭素固定を通じて、外部からの有機分子の取り込みに依存した生活様式からの脱却をもたらし、エネルギー的自立性の確立に寄与した(Keeling 2010, Jarvis and López-Juez 2013)。

こうした既存の知見に加え、近年の研究により、窒素固定を担うオルガネラとして「ニトロプラスト」が発見され(Coale et al. 2024)、さらに、広く知られている葉緑体とは起源を異にする新たな光合成オルガネラとして「クロマトフォア」も同定されている(Marin et al. 2005)。

即ち、真核生物の生命原理を理解する上で、共生起源オルガネラの制御機構を理解することは極めて重要である。しかしながら、こうした共生起源オルガネラの制御機構には、いまだ多くの未解明な点が残されている。

共生起源オルガネラは、単にバクテリアを取り込むだけでは獲得されない。取り込まれた共生バクテリアの分裂および分配を宿主細胞が適切に制御できなければ、恒久的な維持は不可能であり、オルガネラ化は一過的な現象にとどまる。このことから、著者らの研究グループは、共生起源バクテリアの分裂装置である「オルガネラ分裂リング」が、共生起源オルガネラの誕生および真核生物の進化において極めて重要な意義を持つと考え、その分子機構の解明を目指して研究を継続してきた(Kuroiwa et al. 2008, Yoshida et al. 2010, 2016, 2017)。さらに、こうした分裂制御に関する研究に加え、近年、単純な細胞構造をもつ単細胞紅藻 Cyanidioschyzon merolae(シゾン,図1)を用いた研究により、オルガネラ制御のみならず、ゲノムワイドな遺伝子発現制御に関しても理解を大きく前進させる知見を得ることに成功した(Matsuzaki et al. 2004, Tanaka et al. 2021, Kondo et al. 2024, Mogi et al. 2025)。

本稿では、最小構成のオルガネラを有する光合成真核生物シゾンをモデルとして、真核生物に共通する代表的な共生起源オルガネラであるミトコンドリアの制御機構に着目した著者らの研究成果を紹介する(Hirata et al. 2024)。

図1  Cyanidioschyzon merolaeの蛍光顕微鏡像

シゾンは、細胞核、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソームをそれぞれ 1 つずつ有する単純な細胞構造を示す。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

ミトコンドリアは、自由生活性の α プロテオバクテリアを祖先とする細胞内共生を経て誕生したと考えられており、現在も独自のゲノム DNA を保持している。しかし進化の過程において、多くのミトコンドリア機能が宿主核ゲノムへと移行し、現在の真核生物では、約 99% のミトコンドリアタンパク質が細胞核ゲノム DNA にコードされた遺伝子に由来する(Chacinska et al. 2009)。

生体膜による細胞内コンパートメント化の結果、核ゲノムにコードされたミトコンドリアタンパク質は、前駆体タンパク質として細胞質リボソームで合成される。これらの前駆体タンパク質は、アミノ末端に存在するペプチド配列(ミトコンドリア標的配列)に含まれる情報に従ってミトコンドリアへと輸送され、ミトコンドリア膜に局在するトランスロケーターである TOM–TIM 複合体を介してミトコンドリアマトリクス内へ導入される(Schmidt et al. 2010, Araiso et al. 2019, Pfanner et al. 2019, Su et al. 2022, Zhou et al. 2023)。しかしながら、ミトコンドリア標的配列には明確な共通モチーフが存在せず、同一のゲノム DNA に由来するタンパク質であっても、その標的配列は個々のミトコンドリアタンパク質ごとに大きく異なっている。さらに、もう一つの細胞内共生オルガネラである葉緑体には、ミトコンドリアとは異なる独自のタンパク質移行機構が存在する(Sun and Jarvis 2023, Liu et al. 2023)。このため、「細胞内に無数に存在する新生タンパク質の中から、どのようにしてミトコンドリアタンパク質が正確に識別され、適切に輸送されるのか」という根本的な問いは、いまだ十分に解明されていない。

宿主細胞核が共生起源オルガネラを統合的に制御するためには、正確かつ選択的なオルガネラタンパク質輸送機構の確立が不可欠であり、この問題は真核生物の生命原理を理解する上で特に重要な意味を持つ。多くの真核細胞生物では、1細胞あたりにミトコンドリアや葉緑体が複数存在し、細胞形態やゲノムサイズも多様である。このことから、オルガネラ標的配列に内在する「暗号情報」は、細胞構造やゲノム構成の複雑性と相関して進化してきた可能性が考えられる。そこで本研究では、細胞内にミトコンドリアおよび葉緑体をそれぞれ1つずつしか持たず、光合成真核生物の中でも最も単純な細胞構造およびゲノム構成を有する単細胞紅藻シゾンをモデル生物として用い、ミトコンドリア標的配列に必須な最小構成要素の同定を目指した。

シゾンにおける TOM–TIM 複合体構成因子の推定

ミトコンドリア外膜のトランスロケーターである TOM 複合体は、酵母や動物においては、βバレルタンパク質である TOM40 を中核として、TOM22、TOM70、TOM20、TOM7、TOM6、TOM5 など複数のサブユニットから構成されることが知られている(Araiso et al. 2019)。

一方、シゾンにおいて TOM 複合体の構成因子としてゲノム DNA 上に確認されたのは、TOM40 と TOM22 の 2 種類の遺伝子配列のみであった(図2A)。これに対し、ミトコンドリア内膜のトランスロケーターである TIM 複合体については、シゾンゲノム中にも対応するホモログ遺伝子が広く保存されており、外膜に局在する膜透過装置のみが極度に単純化されていることが明らかとなった。

図2 シゾンゲノム情報に基づくミトコンドリアタンパク質輸送ゲートの構成

(A) シゾンゲノムにコードされているミトコンドリアトランスロケーター複合体の構成因子である TOM タンパク質および TIM タンパク質を示す。点線は、シゾンゲノム中では対応する構成因子が確認されなかったことを示す。(B) ミトコンドリア標的配列および葉緑体標的配列の予測結果。オルガネラ標的タンパク質予測アルゴリズム TargetP2.0 を用いて、シゾンの全タンパク質(4,803 タンパク質)を解析した結果を示す。点線は、予測スコアが 0.5 以上となった領域を示す。(C) ミトコンドリアおよび葉緑体で機能することが実験的に明らかとなっているタンパク質についての TargetP2.0 による予測結果。(D, E) ミトコンドリア FtsZ1A および FtsZ1B における推定ミトコンドリア標的配列領域の立体構造予測。FtsZ1A では N 末端 84 アミノ酸、FtsZ1B では N 末端 93 アミノ酸が、それぞれミトコンドリア標的配列として推定された。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

TOM 複合体のみが顕著に単純化されているという事実は、シゾンにおけるミトコンドリア標的配列の認識機構が、限定的な機能要素によって成立している可能性を示唆する。このことは、シゾンのミトコンドリア標的配列に内在する暗号情報が、比較的単純な構成要素からなるという本研究の予測を強く支持するものである。

しかしながら、単純化が予想されるシゾンのミトコンドリア標的配列であっても、既存の予測判定プログラムによる解析は困難であることが明らかとなった。オルガネラ移行配列の予測プログラムである TargetP 2.0 (Armenteros et al. 2019)を用いて、シゾンゲノムにコードされた 4,803 個のタンパク質を解析したところ、ミトコンドリア標的配列を有すると予測されたタンパク質は 289 個、葉緑体標的配列を有すると予測されたタンパク質は 328 個であった(図2B)。

しかし、ミトコンドリアおよび葉緑体へ局在することが既に実験的に知られている 113 種類のミトコンドリアタンパク質と 97 種類の葉緑体タンパク質について同様の解析を行った結果、Recall はそれぞれ 43.4% および 41.2% にとどまった(図2C)。他の生物種のタンパク質配列では Recall が 80–86% に達することが報告されていることを踏まえると、シゾンのオルガネラ標的配列は、既存の予測アルゴリズムが前提とする基本的な共通ルールを十分には共有していない可能性が示唆された。例えば、ミトコンドリアのマトリクスに局在し、ミトコンドリア分裂増殖に関わる事が良く知られている2つのFtsZについては、TargetP2.0による分析ではFtsZ1A(FtsZ1-1)が約0.93と高いスコアでミトコンドリアへの移行が予測されるのに対して、FtsZ1B(FtsZ1-2)についてはスコアが0となり、ミトコンドリアタンパク質とは予測されない(図2D,E)。

では、シゾンのミトコンドリア標的配列はどのような特徴を持つのだろうか。一般に、ミトコンドリア標的配列は 15–60 アミノ酸からなる両親媒性でアルギニン残基に富む α ヘリックス構造を形成することが知られている。そこで、シゾンにおけるミトコンドリアタンパク質 113 種類について、推定される標的配列領域を対象に二次構造および三次構造のシミュレーションを行った。その結果、75.2% の配列が α ヘリックス構造を形成することが示された。

さらに、これらのヘリックス構造を構成するアミノ酸組成を解析したところ、全タンパク質の平均的なアミノ酸組成とは明確に異なり、アルギニン、セリン、アラニン、ロイシン の割合が高く、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、イソロイシン の割合が低いという特徴が認められた(図3A,B)。この傾向はアミノ酸残基ごとのヘリックス形成能と整合的である(Pace and Scholtz 1998)。だが、全体としてはミトコンドリア標的配列に特異的な組成的特徴を有していることが明らかとなった。

図3 合成ミトコンドリア標的配列

(A, B) 全タンパク質および推定ミトコンドリア標的配列におけるヘリックス領域を構成するアミノ酸組成の比較。(C) 推定ミトコンドリア標的配列のヘリックス領域を構成するアミノ酸組成分布。アスタリスクで示した位置のアルギニン残基を合成標的配列の設計に利用した。(D) 合成ミトコンドリア標的配列の立体構造予測。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

合成ミトコンドリア標的配列の機能検証

ミトコンドリア標的配列の本質的特徴は、αヘリックス構造を形成するアミノ酸組成およびその配列様式にあると考えられた。そこで本研究では、ヘリックス構造中の各位置において最も出現頻度の高いアミノ酸残基を連結した、合成ミトコンドリア標的配列をデザインした(図3C)。この際、過剰な正電荷の付与を避けるため、アルギニン残基の数は 3 残基に制限した。設計した合成配列は α ヘリックス構造を形成すると予測され(図3D)、実際に蛍光レポーターアッセイにより、ミトコンドリア標的配列として機能することが確認された(図4 左)。

次に、ミトコンドリア標的配列における正電荷およびアルギニン残基の重要性を検証するため、合成標的配列中のアルギニン残基を段階的に他のアミノ酸残基へ置換した(図4)。その結果、ミトコンドリアへのタンパク質ターゲティング機能を維持するためには、わずか 1 残基のアルギニンが存在すれば十分であることが明らかとなった。

興味深いことに、単一アルギニン残基型の合成標的配列は、アルギニン残基とグルタミン酸残基の数が等しく、正味電荷が 0 であるにもかかわらず、ミトコンドリア標的配列として機能した。一方、アルギニン残基を全く含まない合成標的配列では、ターゲティング機能は完全に失われた。さらに、アルギニン残基をリジン残基に置換した場合でもターゲティング機能が維持された。これらの結果から、標的配列の認識において、特定のアミノ酸種としてのアルギニンや標的配列全体が示す正味の正電荷が識別されているのではなく、塩基性残基が局所的にもたらす正電荷という物理化学的性質が認識されていると考えられた。

図4 合成標的配列における塩基性残基数の影響

アルギニン残基数を変化させた合成ミトコンドリア標的配列のヘリカルホイールダイアグラムと、それらの配列を用いた蛍光レポーターアッセイによるミトコンドリアターゲティング機能の評価結果を示す。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

アルギニン・スキャニング法による塩基性残基位置とターゲティング機能の解析

一般に、ミトコンドリア標的配列では、アルギニン残基近傍に存在する R-X↓X または R-X-F/T/L↓A/S-X といった配列モチーフにおいて、ミトコンドリア内のプロテアーゼによる切断が生じることが知られている。このことから、ミトコンドリア標的能には正味の正電荷量だけでなく、アルギニン残基の位置も重要な役割を果たすと考えられている。

そこで本研究では、アルギニン・スキャニング法を用いて、アルギニン残基の位置がミトコンドリアターゲティング機能に与える影響を系統的に解析した(図5A)。その結果、開始メチオニンから +2 位に配置された場合を除き、アルギニン残基は配列中の比較的広い領域にわたって許容されることが明らかとなった(図5B)。

以上の結果から、単一ミトコンドリアを有する真核生物であるシゾンにおけるミトコンドリア前駆配列の必須条件は、特定のアミノ酸組成をもつ α ヘリックスの中間領域に、少なくとも 1 つの塩基性残基が存在することであると結論づけられた。一方で、このように極めて単純な要件からなるミトコンドリア標的配列を想定すると、ゲノムにコードされた多数のタンパク質の中には、実際にはミトコンドリアへ移行しないにもかかわらず、これらの特徴を形式的には満たす配列が少なからず存在するようにも思われる。あるいは、これらの要件は見かけ以上に厳密かつ特徴的であり、該当する配列は実際にはミトコンドリアタンパク質に特異的に限られているのだろうか。

図5 アルギニン・スキャニングによる塩基性残基の位置依存性の検証

アルギニン・スキャニング法を用いて、アルギニン残基の配置位置がミトコンドリア標的配列のターゲティング能力に与える影響を解析した。開始メチオニン直後の +2 位に配置した場合を除き、検証したすべての合成標的配列がミトコンドリアへの局在を示した。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

ミトコンドリア標的配列は「特殊な配列」か「よくある配列」か

こうした疑問点を検証するため、人工合成ミトコンドリア標的配列(synTP)と、シゾン全タンパク質の N 末端 24 アミノ酸配列との間で、BLOSUM30 スコアリングマトリックスを用いた配列類似性解析を行った。その結果、高い類似性スコアを示した上位タンパク質の中には、細胞質においてアクチン重合に関与する Formin 様タンパク質(FMNL)や、葉緑体リボソームタンパク質 S1(RPSA)などが含まれていることが明らかとなった(図6A)。

図6 蛍光レポーターアッセイによるFormin様タンパク質と葉緑体リボソームタンパク質S1のミトコンドリア標的配列能力の検証

(A, B) Formin 様タンパク質(FMNL)および葉緑体リボソームタンパク質 S1(RPSA)の N 末端 1–24 アミノ酸配列とヘリカルホイールマップ。(C) FMNL の N 末端 1–24 残基(FMNL₁–₂₄)を用いた蛍光レポーターアッセイ。2 つの酸性残基(グルタミン酸)を中性アミノ酸に置換すると、レポーターはミトコンドリアへの標的能力を獲得した。(D) RPSA の N 末端 1–24 残基(RPSA₁–₂₄)を用いた蛍光レポーターアッセイ。N 末端 1–24 残基はミトコンドリア標的能力を示す一方で、RPSA 全長タンパク質では葉緑体ストロマ領域へと局在した。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

これらタンパク質の N 末端配列を詳細に解析したところ、synTP 配列と同様に α ヘリックス構造を形成する傾向を示した(図6B)。しかし、これらのタンパク質がミトコンドリアへ移行するという報告は存在しないことから、蛍光レポーターを用いた in cellulo 実験により、実際のオルガネラ局在を検証した。

その結果、FMNL の N 末端 1–24 残基(FMNL₁–₂₄)はミトコンドリア標的配列として機能せず、レポータータンパク質は細胞質に局在した(図6C)。FMNL₁–₂₄ には酸性残基が含まれていることから、これらの負電荷がミトコンドリアへの移行を阻害している可能性が考えられた。そこで、FMNL₁–₂₄ に存在する 2 つの酸性残基をアラニンに置換したところ、蛍光レポーターはミトコンドリアへと局在するようになった。すなわち、わずかなアミノ酸置換によって、細胞質タンパク質がミトコンドリアへと再標的化され得ることが示された。

次に、RPSA の N 末端 1–24 残基についても同様にミトコンドリア標的能を検証した。その結果、RPSA₁–₂₄ はミトコンドリアへの移行能力を有することが明らかとなった(図6D)。しかし、RPSA の全長配列を用いた場合には葉緑体へと局在することから、N 末端に内在するミトコンドリア標的情報は、その後方に続くペプチド配列によって上書きされ、葉緑体標的情報へと変換されていると考えられる。

シゾンにおけるミトコンドリア前駆体タンパク質の “シングルステップ認証モデル”

これまでの研究から、ミトコンドリア標的配列に含まれる両親媒性 α ヘリックスの疎水性領域が TOM20 によって認識され、続いてヘリックス上の正電荷領域が TOM22 の負電荷領域によって認識されるという、「二段階」のプロセスを経て前駆体タンパク質が捕捉され、TOM40 へと受け渡されると考えられている。

しかし、シゾンには TOM20 が存在しないことから、TOM22 によるペプチド配列の認識のみが行われている可能性がある。実際に TOM22 の配列および立体構造を比較すると、ヒト TOM22 のサイトゾル側領域には 4 つのヘリックスドメインが存在し、そのうち 1 つのヘリックスドメインには酸性アミノ酸が多く含まれ、強い負電荷を帯びている。一方、シゾン TOM22 のサイトゾル側領域に存在するヘリックスドメインは 2 つに限られており、そこにはわずか 5 つの酸性残基が局在して形成される「酸性側面」が認められるのみである(図7A)。

以上の知見から、シゾンにおいては TOM20 による疎水性領域の認識段階が省略され、標的配列ヘリックス上に存在する少数の塩基性残基と、TOM22 に局在する限られた酸性残基との間のアミノ酸—アミノ酸間静電相互作用による「一段階」の認識機構によって、ミトコンドリアタンパク質が識別されている可能性が示唆された(図7B)。

図7 シゾンにおけるミトコンドリアタンパク質輸送ゲートの「鍵と鍵穴」に基づく標的配列認証機構のモデル

(A) ヒトおよびシゾンにおけるTOM22の構造比較。(B) ミトコンドリアタンパク質輸送ゲートにおける標的配列認識機構のモデル。動物や菌類では、TOM20、TOM22、TOM70などを介した多段階の認識過程によってミトコンドリア標的配列が識別される。一方、シゾンでは、TOM22の細胞質側領域に形成されるヘリックス上の酸性側面において、標的配列中の塩基性残基と酸性残基との間の「鍵と鍵穴」型の静電相互作用による一段階の認識機構によって、ミトコンドリア標的配列が認識されている可能性が示唆される。Hirata et al.(2024)より改変して転載。

シゾンにおけるミトコンドリア標的配列の研究から、極めて単純な「鍵と鍵穴」に基づく認識機構によって、ミトコンドリアへのタンパク質輸送が制御されていること、さらに、わずかなアミノ酸変異によってタンパク質が容易にミトコンドリアへと再標的化され得ることが示された。

RPSA を用いた蛍光レポーター実験の結果に加え、葉緑体標的配列がミトコンドリア標的配列よりも長いペプチド配列から構成されるという特徴は、これらのオルガネラが細胞内共生を経て誕生した順序に起因している可能性を示唆している。すなわち、ミトコンドリア標的配列は、細胞質タンパク質と識別されるだけで十分に機能を果たし得たのに対し、その後に誕生した葉緑体の標的配列には、細胞質タンパク質のみならずミトコンドリアタンパク質とも区別される必要性が生じた。その結果、より多くの情報量を含む長いペプチド配列からなり、ミトコンドリアとは異なる移行先としての葉緑体を指定する追加情報を備えた葉緑体標的配列へと進化したと考えられる。さらに、ミトコンドリアと葉緑体という二種類の細胞内共生オルガネラを併せ持つ光合成真核生物では、標的配列の設計自由度に一定の制約が課されるため、シゾンにおいても進化の過程でミトコンドリア標的配列の過度な複雑化が抑制されてきた可能性がある。

一方で、シゾンにおけるミトコンドリア標的配列の認識機構には、依然として未解明な点が残されている。特に、ミトコンドリア FtsZ の例で示したように、明らかにミトコンドリア内部で機能すると考えられるタンパク質の一部には、典型的な標的配列に見られるヘリックス構造が存在せず、むしろ β シート構造を有するものが認められる(図2E)。これらのタンパク質が TOM22 のヘリックスに形成される酸性側面と相互作用する可能性は考えられるものの、その詳細な分子機構は不明である。

また、シゾンにおけるミトコンドリアタンパク質輸送ゲートの全体像も明らかにはなっていない。TOM40 および TOM22 以外に複合体を構成する因子が存在しないのか、あるいはこれまで同定されていない未知の構成因子が存在する可能性も否定できない。これらの疑問を解明するためには、今後、シゾン TOM 複合体の構成因子の網羅的同定に加え、構造解析的手法を用いた TOM22 と標的配列との結合様式の解明が求められるだろう。

近年の大規模オミクス解析により、ヒトのミトコンドリアには約 950 種類のタンパク質が存在することが明らかとなっている(Baker et al. 2024)。ゲノム構造が単純なシゾンにおいては、ミトコンドリアタンパク質の総数はこれより少ないと予想されるものの、進化の過程において、わずかなアミノ酸変異などを契機として新たにミトコンドリア局在性を獲得したタンパク質は数多く存在すると考えられる。

実際に我々は最近、シゾンにおいてミトコンドリア核様体タンパク質 MDN を同定した(Mogi et al. 2025)。MDN は、バクテリアに広く保存されたグアノシン四リン酸加水分解ドメインを有する一方で、全体のアミノ酸配列の進化的保存性は極めて低く、シゾン特異的な新規タンパク質であると考えられている。MDN がミトコンドリアゲノム DNA の維持に関与することを踏まえると、このような新生ミトコンドリアタンパク質は、ミトコンドリアの生理的・生化学的機能そのものを変化させ得る存在であることが示唆される。

真核生物は、新たな遺伝子を創出し、それらをオルガネラ機能へと組み込むことで、現在もなお細胞機能の拡張と進化を継続していると考えられる。

References
 
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