2026 年 38 巻 1 号 p. 3-10
細胞内共生を起源とするミトコンドリアは、細胞内で de novo に形成されることはなく、既存のミトコンドリアが分裂することによってのみ、その数を増やす。一方で、ミトコンドリアに含まれる多様なタンパク質の大部分は、ミトコンドリア DNA ではなく、細胞核 DNA にコードされた数百種以上の遺伝子に由来している。このため、細胞質で翻訳された新生ミトコンドリアタンパク質は、アミノ末端に付加されたペプチド配列に基づいて選択され、ミトコンドリア膜上に存在する巨大なタンパク質輸送ゲートを介してミトコンドリア内部へと運ばれる。しかしながら、ミトコンドリアタンパク質前駆体が有するペプチド配列の「情報」は暗号化されており、どのような原理に基づいて選択・識別されているのかについては、いまだ十分に明らかにされていない。我々は、単一ミトコンドリアを有する真核生物である単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeを用いて、ミトコンドリア標的配列に必須な最小構成要素の同定を目指した。解析の結果、予想を超えて単純なルールに基づくミトコンドリアタンパク質の認識機構が明らかとなるとともに、わずかな配列変化によって新たなミトコンドリアタンパク質が創出され得るという、進化的可能性も示唆された。