PLANT MORPHOLOGY
Online ISSN : 1884-4154
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ISSN-L : 0918-9726
学会賞受賞者ミニレビュー
重複受精についての考察
東山 哲也福村 薫八廣 遥斗外山 侑穂中島 耕大水上 茜奥田 哲弘
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2026 年 38 巻 1 号 p. 33-45

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Abstract

重複受精は被子植物が獲得した革新的な有性生殖のしくみである。被子植物の生存戦略および繁栄に大きく貢献し、食糧生産を通じて人類の発展にも不可欠な貢献をしている。高校生物の教科書にも記載され、研究者に限らず広く一般に知られる、生物学の基本的仕組みの1つと言える。一方で、19世紀末の1898年に初めて報告され、すぐに多くの被子植物で確認された現象ではあるものの、分子的な仕組みの解明には長い時間を要している。とはいえ重複受精に関する細胞動態や分子基盤の研究は着実に進んでおり、本質的な仕組みの解明も近いのではと期待される。本総説では、重複受精についてよく尋ねられる疑問に答えながら、重複受精の仕組みがどこまで理解され、また研究の最前線で何の理解が求められているのか概説する。

Translated Abstract

Double fertilization is an innovative mechanism and trait of sexual reproduction acquired by flowering plants (angiosperms). This process must have played a pivotal role in the survival strategies and evolutionary success of flowering plants, while also being essential for human development through its contribution to food production. As a fundamental biological mechanism, double fertilization is widely recognized and taught, even at the high school level, underscoring its importance not only to researchers but also to the general public. On the other hand, although the phenomenon was first reported in 1898 and confirmed in many flowering plants subsequently, it has taken a long time to elucidate its molecular mechanism. Our understanding of cellular dynamics and molecular basis of double fertilization is progressing, and it is anticipated that the fundamental molecular and cellular mechanisms may not be far from being elucidated. In this review, we address frequently asked questions about double fertilization, provide an overview of the current understanding of its molecular and cellular mechanisms, and discuss key challenges and future directions at the forefront of research in this field.

はじめに

重複受精とは、花粉管によって運ばれた2つの精細胞がそれぞれ卵細胞および中央細胞と受精するという、被子植物特有の仕組みである。受精した卵細胞は胚を、受精した中央細胞は胚乳を、種子の中につくる。「中央細胞」よりも「極核」が有名かも知れないが、極核とは中央細胞の核のことである。

重複受精という用語は、被子植物の受粉から受精、種子発生にいたる一連の過程を指して広義に使われる場合もある。本総説では、2つの精細胞の卵細胞および中央細胞との受精を指す。重複受精の仕組みについてさらに知りたい場合は、他の総説も参照されたい(東山 2012, Hamamura et al. 2012, 永原と東山 2016, Dresselhaus et al. 2016, Zhong et al. 2025)。

重複受精の発見の背景と経緯については、今も専門家のあいだで利用される古典的教科書An Introduction to the Embryology of Angiosperms(Maheshwari 1950)に詳しく記載されている。簡単に述べると、まずイタリアのアミーチが自作の顕微鏡を用いて被子植物(ポーチュラカ)の花粉が花粉管を伸ばすことを報告した(Amici 1824)。ドイツのホフマイスターは、花粉管が到達すると卵細胞から胚がつくられることを、多くの植物を用いて報告した(Hofmeister 1849)。ドイツのシュトラスブルガー(ストラスブルガー)は菌従属栄養植物のシャクジョウソウ属などを用いて、花粉管が送り届ける精細胞核(精核)が卵細胞核と合一すること、すなわち核融合(karyogamy)まで含めた受精を報告した(Strasburger 1877)。しかし花粉管の中にある2つの精細胞核のうちもう一方がどうなるか明らかではなかった。そのような背景のもと、ロシアのナワシン(Nawaschin 1898)とフランスのギニャール(Guignard 1899)が独立に、ともにユリ科の植物を用いて、精細胞核と極核の合一を報告した。これらの発見はすぐに他の被子植物でも確認され、1900年ごろには「Doppelte Befruchtung」と呼ばれるようになった(e.g. Strasburger 1900)。英語ではdouble fertilization、日本語では重複受精と呼ばれる。なお、日本語の重複受精について、研究現場では「ちょうふくじゅせい」と呼ばれ続けているが、現行の高校の教科書では「じゅうふくじゅせい」と読むようになっている。どちらの読み方でも間違いではないが、我々は研究現場で用いられている「ちょうふくじゅせい」で統一されることを期待している。

以上のとおり重複受精の発見に至る経緯について非常に簡潔にまとめたが、これらの大きな発見には、当時の科学の状況を前提に、現代にも通じる発見の方程式ともいえる要因が見て取れる。独自の顕微鏡光学系の技術開発に加えて、ポーチュラカの柱頭を観察中に花粉が偶然に受粉した幸運(Amici 1824)、「胚珠に到達した花粉管の先端部から胚が形成される」という当時声高に提唱されていた説に惑わされない、圧倒的な量と質の観察結果に基づく洞察(Hofmeister 1849)、「組織が透明」(Strasburger 1884)であったり「核や細胞が大きい」(Nawaschin 1898, Guignard 1899)といった利点をもつ植物材料の選択、などが貢献したと推察する。多くの成果を残したシュトラスブルガーについては、胚嚢が胚珠から突出するトレニア属も材料に用いていた(e.g. Strasburger 1884)。様々な生物種を用いた研究から、体系的かつ正確な形態学的知見を有していたことも重要であろう。

重複受精の過程は、おおよそ次のような流れで進行する(図1)。重複受精を行う雌雄それぞれの配偶子(gamete, 受精する細胞に対する総称)が形成される過程もわかるように説明しよう。

被子植物を含め、植物の配偶子は単相(ハプロイド)世代である配偶体からつくられる。被子植物の配偶体は雌雄それぞれ数細胞にまで単純化されている。雄の配偶体は花粉である。減数分裂後の細胞である小胞子が、花粉第一分裂という不等分裂をおこない、生殖細胞系列である小型の雄原細胞と、花粉管を伸ばす栄養細胞(花粉管細胞とも呼ぶ)をつくる。約7割の被子植物(ユリ、トマト、トレニアなど)では、受粉前の成熟花粉では雄原細胞の状態である。その場合は伸長する花粉管の中で、また残り約3割の被子植物(シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシなど)では花粉が成熟する過程で、雄原細胞が体細胞分裂して2つの精細胞を形成する。つまり、2つの精細胞は基本的には同一の遺伝子型である。

雌の配偶体は胚嚢である。雌性配偶体と呼ばれることも多い。胚嚢形成の細胞分裂パターンは種ごとには一定であるものの、さまざまなパターンが存在する。約7割ともっとも多いPolygonumタイプ(ポリゴナム型またはタデ型とも呼ぶ)では、多くの場合は減数分裂後の縦に並んだ4つの細胞のうち最も合点側(基部側)にある細胞が未知の機構で1つ残り、その細胞の核が細胞質分裂を伴わない分裂を繰り返し、最後の分裂後に細胞化が起こる。ほとんどの場合は8核7細胞の胚嚢となる。卵細胞と中央細胞の2つが、受精を行うことから配偶子と呼ばれる。

花粉から伸びだした花粉管は、花粉発生時にエンドサイトーシスによって内部に取り込んだ雄原細胞、またはその後に分裂した2つの精細胞を先端に向かって輸送し続ける。2つの精細胞を包む膜は、世界的な議論によりperi-germ cell membrane、和名では精包膜と呼ぶと決まった(Sugi et al. 2024, 杉ら 2026)。そして花粉管が胚嚢に到達すると、助細胞との細胞間コミュニケーションによって先端近くで破裂が誘起され、内部の精細胞を放出する(Higashiyama et al. 2000, Hamamura et al. 2011)。放出された2つの精細胞は卵細胞膜と中央細胞膜に挟まれる位置にとどまったのちに、重複受精がはじまる(Hamamura et al. 2011)。はじめに受精する精細胞がとどまる時間は、シロイヌナズナでのライブイメージングで平均7分ほどである(Hamamura et al. 2011)。過去にトレニアで推定された2分という値(Higashiyama et al. 1997)とも大きくは変わらない。それでは以下に重複受精に関する考察を進めていこう。

図1 被子植物における配偶体および配偶子の形成と重複受精

(A)蕾において雌雄それぞれの配偶子が形成される過程。雄の葯の中では多くの小胞子母細胞が減数分裂に進み、生じた4分子の全てが花粉(配偶体)となる。2回の細胞分裂により栄養細胞(花粉管細胞)と精細胞2つが形成される。花粉第2分裂は伸長する花粉管のなかで起こる植物が多い。雌の胚珠の原基で1つの大胞子母細胞(胚嚢母細胞)が減数分裂に進み、多くの場合、生じた4分子のうちの1つが核分裂を繰り返し、8核7細胞からなる胚嚢(配偶体)となる。(B)花における受粉・受精過程。写真は、トレニアの生きた胚嚢で、2つの極核は融合して二次核となっている。スケールバーは10 μm。(C)花粉管から放出された2つの精細胞の重複受精過程。受精した卵細胞は胚に、受精した中央細胞は胚乳になり、それらを包む胚珠の珠皮は種子の種皮となる。雌雄ともに、生殖細胞系列(本文参照)とされる細胞を橙色で示している。

1.重複受精の適応的意義は?

重複受精は適応的にどのように有利なのだろうか。種子をつくるにあたっての重複受精の適応的意義という観点で、現生裸子植物との比較から考察する。現在、被子植物は陸上植物の9割を占め35万種ほど存在するとも言われる(Govaerts et al. 2021)。種数だけで見ても繁栄している。一方の裸子植物は1千種に満たないとされる。

進化をたどると、およそ5億年前に植物が陸上に進出し、そこから1億4千万年のあいだには、コケ植物、シダ植物、裸子植物が誕生したとされる。つまり植物は種子をつくることが可能になった。被子植物の誕生の時期については議論が続いている(e.g. Sauquet et al. 2022, Zuntini et al. 2024, Clark and Donoghue 2025, Luo et al. 2026)。現時点での一般的な説としては、およそ1億4千万年前とされる(2億7千万年前に至るまで幅広い推定がなされている)。この場合、種子植物の誕生から2億年以上という長い時間をかけて被子植物が誕生したことになる。被子植物の進化の過程では、重複受精の獲得だけでなく、雌蕊(子房)、花の形成など、生殖に関わる様々な形質を獲得している。被子植物の繁栄に対し、こうした一連の有性生殖機構の進化が貢献したことは間違いないだろう。

被子植物と裸子植物の受精を比較すると、様々な環境への適応にとって有利と思われる重複受精の主な特徴を、2点挙げられる(図2)。1点目は雄性配偶子が到達するまでにかかる時間の短さである。受粉を起点とした場合、裸子植物ではマオウ属やグネツム属などを除いて数か月から1年を超えるものが一般的である(Williams 2008)。この長い期間、雄性配偶体は花粉管を伸ばし、発達を続けるが、イチョウおよびソテツでは花粉管の中に2つの精子を形成することも知られる(Fernando et al. 2005, Rudall and Bateman 2007, Toyama et al. 2026)。これに対し、被子植物では受粉後1時間未満のものから、1日以内のものをピークとして、数日以内で受精を終えるものが多い(Williams 2008)。被子植物では、花粉は受粉後すぐに発芽し、先端成長により素早く花粉管を伸ばし続け、そのまま胚嚢に到達する。ブナ科植物などのように、雌性配偶体側の発達に合わせて途中で伸長を一時的に停止する例は珍しい(十河と戸部 2005)。花粉管の伸長速度は、種ごとの違いはあるが、平均では被子植物が速い(Williams et al. 2016)。被子植物では胚珠が心皮(雌蕊)に包まれ、花粉管が伸長する距離も長くなっているが、花粉管の伸長速度が速いために受粉から受精に至る時間は短くなっている(Williams et al. 2012)。

図2 裸子植物と被子植物の比較

(A)裸子植物ソテツの花粉管(左)と、その内部に形成される精子(中央と右)。受粉から約3か月経過している。右のパネルでは花粉管から出たあとの鞭毛運動をする生きた精子を示す。中央と右のパネルのスケールバーは、それぞれ100 μmと50 μm。左と中央のパネルはToyama et al. 2026から転載。(B)被子植物トレニアの花粉管と、その内部に形成される精細胞。時間は花粉を培地上で吸水させてからの時間。右の蛍光明視野像では、受粉後10時間の花粉管のDNAを核酸染色色素で生体染色し、2つの精細胞核とその前方の栄養核を可視化している。スケールバーは20 μm。(C)被子植物の種子形成の模式図。受精した中央細胞において、雄ゲノムが胚乳発生を促進するアクセルとして、雌ゲノムはブレーキとしてはたらく。これにより受精依存的に種子を素早く形成する。ゲノムインプリンティングの状態が植物種ごとにバランスを取ることが、正常な種子形成に必須である。

2点目は、中央細胞の受精により、素早く種子のなかに栄養組織である胚乳をつくる点である。裸子植物の種子の栄養組織は、成長した雌性配偶体である。イチョウでは、受粉(東京でおおよそ4月頃)から受精(東京でおおよそ9月頃)のあいだに、雌性配偶体がゆっくりと発生を続ける。8月頃、雌株のイチョウの樹上に、丸々と大きく育った胚珠を目視できる。「受粉」に失敗した胚珠のついた枝は春先に落ちるが、「受精」の成否に関わらず、栄養組織はあらかじめ形成される。卵細胞を形成する造卵器(雌性配偶体内の一区画に形成される器官)とは区別される領域である。なお、被子植物でも裸子植物でも、種子の中の栄養組織は胚乳と呼ばれてきたが(e.g. Maheshwari 1950)、現在では裸子植物において胚乳と呼ぶことを避けて、雌性配偶体と呼ぶ傾向がある。被子植物の胚乳の起源に関する議論もその理由の一つと思われる。

胚乳の起源については、重複受精に類似する現象が裸子植物のマオウ属とグネツム属で見出され、基部被子植物のコウホネ属で2nの胚乳が発見されたことなどから、余剰胚が起源であるとする説が唱えられるようになった(Friedman 1990, Carmichael and Friedman1996, Williams and Friedman 2002)。それらの裸子植物では、精細胞に核が2つ含まれ、一方の核が卵細胞内の腹溝核(ventral canal nucleus)と合一する。この腹溝核由来の核が胚乳のような栄養組織になることはない。

被子植物の中央細胞の分化や胚乳形成に必要な遺伝子CYTOKININ INDEPENDENT 1 (CKI1)がイチョウとゼニゴケで調べられた(Yuan et al. 2018, Bao et al. 2024)。イチョウのCKI1は部分的にシロイヌナズナcki1変異体を相補することができ、シロイヌナズナと同様にイチョウでも卵細胞で発現せず、卵細胞の姉妹細胞(腹溝細胞)を含む造卵器で発現することが確認された(Yuan et al. 2016, 2018)。シロイヌナズナでもイチョウでも、雌性配偶体の発生過程の初期からCKI1の発現が見られる。そしてシロイヌナズナでは4核期から珠孔側(卵細胞をつくる核を含む側)でCKI1タンパク質(蛍光マーカー)が見られなくなるのに対し、イチョウでは造卵器に発現が限局されたのちに卵細胞での発現が見られなくなる(Yuan et al. 2016, 2018)。余剰胚が起源であるとする説とも合わせ、胚乳の起源を考えるうえで興味深い(Yuan et al. 2018)。一方でゼニゴケのCKI1は造卵器での発現がトランスクリプトーム解析で確認されていて、後述するBONOBO遺伝子の造卵器の始原細胞から始まる発現を、卵細胞へと限局していく(Bao et al. 2024)。シロイヌナズナにおいて、BONOBOは卵細胞の形成には関わらないが、CKI1は第2の雌性配偶子である中央細胞分化のマスター制御因子としてはたらき続けている(Yuan et al. 2016)。被子植物の胚乳の起源はまだ明らかではないが、イチョウなどの裸子植物の種子における栄養組織とは異なる起源である可能性には注意が必要である。関連して、雌性配偶体の造卵器は被子植物では見られないが、裸子植物のグネツム属やウェルウィッチア属でも見られないことが報告されている(Carmichael and Friedman1996, Friedman 2015)。

被子植物は、受精により栄養組織である胚乳をつくる。受精に失敗すれば、胚乳はふつう形成されない。興味深いことに、雌雄のゲノムには、父母の利害の対立によるとされるゲノムインプリンティングが見られる(木下 2013, 図2)。これは哺乳類の胎盤(大部分は受精卵由来)での制御と類似する。雌ゲノムは、全ての子への資源の等配分で説明されるよう、抑制的にはたらく。受精前には胚乳形成は起こらないようにし、受精後も胚乳形成にブレーキをかける。具体的には例えばポリコーム群タンパク質をコードする遺伝子が中央細胞で発現してブレーキをかける。一方で雄ゲノムは、自分の子の優先的な成長で説明されるように、受精後に胚乳形成を促進するアクセルとして機能する。この父母によるアクセルとブレーキのバランスが、適切な胚乳形成に必要である。ポリゴナム型の植物での、「極核2つ(1n+1n)と精細胞核1つ(1n)の合一により胚乳(3n)がつくられる」という核相の変化が教科書で強調されるが、核相よりも雌雄のバランスが本質的である。また最近では、花粉管に含まれる精細胞以外の成分が種子発生を促進することも示されていて、この現象はPOEM(pollen tube–dependent ovule enlargement morphology)と呼ばれる(Kasahara et al. 2016)。中央細胞の受精にともなって、胚珠の篩管(師管)末端に蓄積するカロースが分解され、種子の発達を促進することも示された(Liu et al. 2025, 中島と笠原 2026)。

 以上から、被子植物では受粉してから重複受精に依存して素早く栄養組織をもつ種子をつくり、次世代に命をつなぐことができる。重複受精は、被子植物が様々な環境で種子をつくることを可能にしている。胚乳における父母の対立に対し、初期胚では父母の因子が協働して発生軸を確立する転写制御を行う例が報告されており興味深い(Ueda et al. 2017)。なお、受精を介さない種子形成(アポミクシス)についても研究が進展しており、他の総説を参照されたい(Schmidt 2025)。

2. 被子植物にとっての生殖細胞系列とは?

被子植物における生殖細胞系列(germline)の発生は、配偶子をつくる細胞が決定される2つのステージに分けて理解されている(Grossniklaus 2011, 図1, 図3)。第一のステージは、減数分裂に進む細胞が雌雄の胞子体組織で決定されるステージである。この細胞は、雌では大胞子母細胞(megaspore mother cell, 胚嚢母細胞とも呼ばれる)、雄では小胞子母細胞(microspore mother cell, 花粉母細胞とも呼ばれる)と呼ばれる。厳密には胞子(配偶体に発生する)をつくる細胞の決定であり、コケなどの陸上植物との対比においては違和感もある。しかし被子植物では配偶体世代がわずか数回の体細胞分裂しか行わず、雌性配偶体(胚嚢)については胞子体と独立して存在できない。胞子体のなかで配偶子をつくる細胞を決定する(体細胞と生殖細胞系列を分ける)一連の発生プロセスにおいて、最初のステージとみなすことが可能であり、受け入れられている(e.g. Huang et al. 2025)。

第二のステージは、雌雄の配偶体の中で、配偶子をつくる細胞が決定されるステージである(Berger and Twell 2011, Twell 2011, Hisanaga and Berger 2023)。小胞子からの花粉の発生においては、精細胞の前駆細胞として雄原細胞が生じるステージである。小胞子の不等分裂により栄養細胞(体細胞)と配偶子の前駆細胞である雄原細胞にわかれるため、生殖細胞系列の概念に当てはめやすい。大胞子からの胚嚢の発生においては、主要なPolygonumタイプでは多核体(シンシチウム)の最終分裂において細胞板が生じ配偶子がつくられる。前駆細胞としての生殖細胞系列はなく、4核期の珠孔側から2番目の核が卵細胞核と極核の1つに分裂する(Susaki et al. 2021)。

動物との対比においては、動物では受精卵からの発生初期に生殖細胞系列が生じるように進化するなど、多くの違いがある。植物と動物は独立に多細胞化したため、生殖細胞系列の決定機構も独立に確立したと考えられる。植物系統における進化的な理解が重要であろう。その意味でも、ゼニゴケでの研究の進展が興味深い。

ゼニゴケにおいて、生殖細胞系列決定の上流ではたらくBONOBO(BNB)が同定された(Yamaoka et al. 2018)。BNBは陸上植物に存在するbHLH型転写因子であり、ゼニゴケでは造卵器・造精器の元となる始原細胞(配偶子器始原細胞)を分化させるマスター転写因子であった。同じbHLH型転写因子であるLOTUS JAPONICUS ROOTHAIRLESS LIKE (LRL)/DEFECTIVE REGION OF POLLEN1 (DROP)と、ヘテロ二量体としてはたらく(Zhang et al. 2017, Saito et al. 2023)。BNBは陸上植物で保存され、被子植物では花粉第一分裂後に雄原細胞が分化するために必須であった。BNBの発見により不等分裂後の転写制御が生殖細胞系列の確立に必要であることが示され、またその制御を担う転写因子を同定できたことは大きい。また雄性配偶子である精子・精細胞の形成ではMyb転写因子DUO1がはたらく。そのDUO1を中心とした雄性配偶子分化の制御転写モジュールが進化的に保存されている一方で、コケ植物と被子植物ではモジュールが制御する下流の遺伝子群のセットが変化しており、運動性のある精子から運動性のない精細胞への進化に貢献したと考えられる(Higo et al. 2018)。

このように生殖細胞系列や配偶子について、分化の側面からの理解が進んでいる。植物においても配偶子は、形態、機能、細胞内構造、遺伝子発現といった様々な点で特殊な細胞であることは間違いない(東山 2012)。しかし動物における、言わば大切に維持される生殖細胞系列と、遺伝情報の管理という観点でどのような違いや類似性が見られるのだろうか。

被子植物の通常の発生では、雌雄の生殖細胞系列はL2層と呼ばれる、表皮(L1層)の内側の組織から発生すると理解されている。表皮の細胞は分裂組織のL1層にある幹細胞からクローナルに形成され、外界にさらされる。それらは次世代への遺伝情報の継承には用いられない。しかし、動物の生殖細胞系列に比べれば、L2層の細胞のゲノムに突然変異が生じる可能性は高い。植物では幹細胞を含む体細胞で生じた適応的な変異を次世代に伝えやすいと考えることもできるが、ゲノムの冗長性が高く柔軟性も高い植物らしさによるところが大きいだろう。L2層での生殖細胞系列の決定、すなわち減数分裂に進む細胞の決定は、組織内のどこに存在しているかという、細胞の位置が重要であると示唆されている(東山 2012)。雌側では、さらにその選ばれた細胞が細胞分裂および幹細胞化の抑制を受け、胚珠あたり1つに限定される(Zhao et al. 2017, 図3)。限定が破綻すると、機能的な胚嚢が複数形成される(Zhao et al. 2017)。卵細胞の形成においても、助細胞の卵細胞化の抑制が示唆されている。抑制が破綻すると、機能的な2つ目の卵細胞が形成される(Hamamura et al. 2012, Kong et al. 2015, Susaki et al. 2015)。容易に体細胞から生殖細胞系列への運命転換が起こることは、生殖細胞系列の特殊性とは矛盾するようにも感じるが、これも植物の柔軟性が際立っているということだろう。

生殖細胞系列のゲノムの保護について、動物ではPIWI-interacting RNA(piRNA)が生殖細胞のゲノムを保護する(Gil and Meyers 2026)。特にpiRNAによるトランスポゾンからの保護がよく知られる。植物はpiRNAを持たないが、同じくsmall RNA (sRNA)であるphased small interfering RNA(phasiRNA)やepigenetically activated siRNA(easiRNA)などが、生殖細胞系列のゲノムを保護する(小宮 2023, 元村 2024, Gil and Meyers 2026)。植物では、大胞子母細胞および小胞子母細胞を取り囲む体細胞、精細胞を取り囲む栄養細胞(花粉管細胞)、卵細胞の隣にある中央細胞や助細胞でつくられたsRNAが、生殖細胞系列に移動してゲノムを保護すると報告されている(小宮 2023, 元村 2024, Schröder et al. 2023)。この生殖細胞系列のゲノム保護の観点で、雌性配偶子である卵細胞と中央細胞は等価でないことも分かる。花粉の栄養細胞から精細胞へは、特定のmRNAも移動することが知られる(元村 2024, Ishida et al. 2026)。RNAの移動の仕組みも含めて、今後の発展が期待される分野である。

図3 シロイヌナズナにおける生殖細胞系列の決定

(A)胚珠原基における生殖細胞系列(大胞子母細胞)の決定と限定。野生型(左)では原基先端にあるL2層の細胞1つが大胞子母細胞として分化しているのに対し、細胞周期制御の変異体(krp4 krp6 krp7変異体(中央)、rbr1-2変異体(右))では大胞子母細胞が分裂して複数生じている。これらの変異体では、1つの胚珠に複数の胚嚢が生じる。下段の蛍光は大胞子母細胞であることを示すKNUCKLESプロモーターを用いた蛍光マーカーのシグナル。スケールバーは10 μm。Zhao et al. 2017から許可を得て転載。(B)生殖細胞系列(雌性配偶子)の形成過程のライブイメージング。4核期からのタイムラプスイメージングで、パネル下側が珠孔端側を示す。数字は細胞化開始(二重矢尻)からの時間(時間:分)。-1:25のパネルで珠孔端から2番目にある核(矢尻)は、分裂して卵細胞核および極核の1つをつくる(0:25のパネルの矢尻)。一方で珠孔端にある核(矢印)は分裂して2つの助細胞核をつくる。5:15のパネルでは、2つの極核(一方は反対側の極に由来)が近接している様子が確認できる。スケールバーは20 μm。Susaki et al. 2021から転載。

3. 細胞融合の仕組みは?

重複受精がおこる際に、雌雄の配偶子の間には細胞壁は存在しないとされる。また、花粉管内容物を受容する助細胞の細胞膜、そして2つの精細胞を覆う精包膜(杉ら 2026)は、花粉管内容物の放出がおこるとすぐに断片化する(Higashiyama et al. 2000, Sugi et al. 2023)。リリースされた2つの精細胞は、動物と同じように細胞膜を卵細胞・中央細胞の細胞膜に直接接着させ、受精(plasmogamy, 細胞質融合)のプロセスが進む。受精には核融合(karyogamy)のプロセスもあるが、被子植物の核融合や、その過程で見られる父母ゲノムからの遺伝子発現変化のダイナミクスについては他の文献を参照されたい(e.g. Shin et al. 2021, Toda et al. 2025)。

配偶子融合について、テッポウユリで雄原細胞特異的に発現するタンパク質としてGCS1が同定され、これはシロイヌナズナの配偶子融合に必要な精細胞膜タンパク質であるとともに、多くの真核生物に存在することが示された(Mori et al. 2006)。テッポウユリの雄原細胞単離系(田中 2011)を活かした成果であり、被子植物の配偶子融合に必須な遺伝子として初めて同定された。GCS1遺伝子は、シロイヌナズナのハプロイド世代ではたらく遺伝子群のタギングで同定されていたHAPLESS2HAP2)遺伝子(Johnson et al. 2004)と同一だったことから、HAP2/GCS1遺伝子などと呼ばれている。HAP2/GCS1は、クラミドモナス、マラリア原虫、テトラヒメナなどいくつかの生物で、配偶子融合に必須であることが示されている(Brukman et al. 2022)。

2017年にクラミドモナスHAP2タンパク質の立体構造が解かれ、大きな展開があった(Fédry et al. 2017, 図4)。HAP2/GCS1は様々なウイルスがもつクラスⅡ融合タンパク質(エンベロープタンパク質の一種)や、線虫の体細胞融合因子(fusion family (FF), Avinoam et al. 2011, 遺伝子は主に無脊椎動物に見られる)と、細胞外ドメイン構造全体が類似することが示唆された。HAP2/GCS1には融合活性があることや、疎水性ループ領域(fusion loopと呼ばれる)がその活性に必要であることも、様々な実験系で示されている(Brukman et al. 2022, Romero et al. 2024)。HAP2/GCS1は、真核生物が有性生殖を獲得して以来、原生生物や植物系統、その他いくつかの無脊椎動物などで使い続けられる、始原的な融合因子fusogenであると理解されるに至った。HAP2/GCS1遺伝子が植物系統で残り続けたことで、被子植物で発見され、ウイルスまで巻き込んだ議論に発展したことは興味深い。

線虫の体細胞融合因子、ウイルスのクラスⅡ融合タンパク質、受精の融合因子HAP2/GCS1など、構造が類似する一群は、fusexinと名付けられた(Valansi et al. 2017)。構造の類似は、収斂進化ではなく遺伝子の水平伝播によるものと考えられている(Fédry et al. 2017)。さらに構造の類似性をもとにした探索により、真核細胞のホストの起源とされる古細菌ドメインにも、fusexinが見出された(Moi et al. 2022)。ただし真核細胞の起源に近いとされるアスガルド古細菌などでは見出されず、古細菌の主要な分類群であるユーリ古細菌で見出されている。

図4 配偶子の接着および融合の鍵分子

(A)fusexinファミリーのタンパク質。上段の左からアーキア(古細菌)のFsx1、クラミドモナスの接合ではたらく融合タンパク質HAP2(GCS1)、線虫の体細胞融合因子EFF-1、デングウイルスがホスト細胞へ侵入する際にはたらくクラスⅡ融合タンパク質E。それぞれドメインⅡと呼ばれる黄色の領域の先端に、fusion loopと呼ばれる疎水性ループが存在する。下段は、fusion loopを拡大して茶色で示したもので、左からアーキアのFsx1、クラミドモナスHAP2(GCS1)、風疹ウイルスE1。Moi et al. 2022から転載。(B)被子植物の配偶子の融合における接着因子と融合因子。雄の配偶子である精細胞の細胞膜上には接着因子GEX2と融合因子HAP2/GCS1が存在する。雌の配偶子である卵細胞と中央細胞の細胞膜上に、GEX2のパートナー分子が存在すると考えられている。クラミドモナスでは、GEX2と同様に免疫グロブリン様ドメインが複数連なる構造をとるFUS1のパートナー分子としてMAR1が同定されている(陸上植物でホモログは見出されていない)。HAP2/GCS1は膜融合後の構造とされる3量体の構造が解かれているが、3量体化するタイミングには議論がある(Brukman et al. 2022)。HAP2/GCS1のfusion loopが雌の配偶子の細胞膜に刺さると考えられているが、パートナー分子の有無については議論がある(Brukman et al. 2022)。

まとめるとfusexinは以下の4種が発見されている(図4)。①ウイルスのクラスⅡ融合タンパク質、②線虫の体細胞融合因子FF、③原生生物や藻類・植物などの受精因子HAP2/GCS1、④古細菌のfusexinの4種である。これらのfusexinの遺伝子は水平伝播していると考えられることから、起源は明らかでない。古細菌がもつfusexinにも水平伝播の痕跡はある(Moi et al. 2022)。赤の女王仮説が広く受け入れられているように(Solé 2022)、有性生殖がウイルスに対する真核細胞の防御において重要と考えると、真核細胞とウイルスのどちらが先にfusexinを獲得したのか想像をするのは面白い。ウイルスが有性生殖を確立した真核細胞からfusexinを手に入れて新たな感染の手段にしたのか、真核細胞がウイルスからfusexinを手に入れて有性生殖を確立したのか、様々なシナリオが考えられる。また、fusexinとは異なるクラスⅠ融合タンパク質について、レトロウイルスが哺乳動物のゲノムに内在化することで、胎盤形成に必須な膜融合因子シンシチンとして機能するようになったことも知られる(唄ら2022)。

前述のとおり、HAP2/GCS1はfusion loopと呼ばれる疎水性ループ領域をもつ。fusion loopの構造はクラミドモナス、テトラヒメナ、シロイヌナズナにおいて多様であることが示されている(Fedry et al. 2018, Baquero et al. 2019)。被子植物のHAP2/GCS1もこのループ領域が融合活性や、相手の膜に挿入されるのに必要と報告されている(Fedry et al. 2018)。このためHAP2/GCS1はウイルスのクラスⅡ融合タンパク質のように、相手細胞膜上にパートナー分子をもたずに作用する仕組みが提案されている(e.g. Zhang et al. 2021)。しかし相手の細胞膜上の分子と相互作用してはたらく可能性についても依然として議論が続いている(Brukman et al. 2022, 図4)。ウイルスの融合タンパク質は、ウイルスが細胞の小胞(エンドソーム)に取り込まれたあとのpH変化で構造を変えるが、重複受精過程においてHAP2/GCS1がそのようにタンパク質の構造を変化させるかは謎である。卵細胞から分泌されるEC1ペプチドや、精細胞がもつHAP2/GCS1相互作用分子DMP8および9(Takahashi et al. 2018, Cyprys et al. 2019)により、精細胞のHAP2/GCS1が細胞内の小胞から細胞膜に分布を変えることで膜融合が引き起こされるモデルが提唱されている(Wang et al. 2022, Zhong et al. 2025)。しかし、EC1の受容体もまだ同定されておらず、十分にモデルが証明されたとは言い難い。HAP2/GCS1の作動メカニズムに関する研究は、まだまだ進展が期待される。

なお、シロイヌナズナの助細胞(花粉管受容において残った助細胞)と受精後の中央細胞が体細胞融合することが報告されている(Maruyama et al. 2015)。中央細胞の受精にともなって融合が生じるが、受精非依存的に胚乳発生が開始する変異体でも融合は生じた(Motomura et al. 2016)。精細胞からのタンパク質の持ち込みもないことから、HAP2/GCS1非依存的な仕組みで細胞膜が融合している可能性がある。また植物では、細胞分裂に伴ったプロセスによらず原形質連絡がde novoに形成されることや(Tee and Faulkner 2024)、シスト線虫の感染により根の細胞が融合することも知られる(大津2023)。植物における細胞膜融合の制御は未知なことが多く、今後の展開が注目される分野である。

4.精細胞の受精相手の決定機構は?

 受精相手の決定機構は、重複受精の研究において依然として残る大きな謎である。「いかにして2つの精細胞はそれぞれ違う細胞と受精するのか?」という問いは、とてもシンプルであり、これほど長いあいだ根幹的な疑問であり続けるとは意外でもある。2つの精細胞に形態的な差(共生オルガネラの不均等な分配)があるセイロンマツリにおける研究などから、古くは2つの精細胞の受精相手は発生段階であらかじめ決まっており、花粉管のなかでの栄養核(花粉管核とも呼ばれる)との並び順に応じて配置されていると提唱されていた(e.g. Knox et al. 1993, the specific receptor hypothesis)。また一方で、多精拒否により、受精が遅れた残りの精細胞が他方と受精せざるを得ないとする説も提唱されていた(e.g. Knox et al. 1993, the chance hypothesis)。

しかし、シロイヌナズナの配偶子の数が変化する変異体などを用いた複数の分子遺伝学的な研究から、中央細胞としか受精しない精細胞は存在しないことが示された(Hamamura et al. 2012, Kong et al. 2015, 図5)。一方で、胚嚢が裸出するトレニアを用いて確立されたsemi-in vitroの重複受精系(Higashiyama 1999)が、シロイヌナズナのsemi-in vivo法と呼ばれる方法に応用され(Palanivelu and Preuss 2006)、蛍光タンパク質マーカーを用いた重複受精のライブイメージングが可能となった(Hamamura et al. 2011)。これにより、①花粉管の中で栄養核に近い前側の精細胞も、後側の精細胞も、いずれも卵細胞と中央細胞と半々の確率で受精すること、②卵細胞と中央細胞のどちらが先に受精するかは決まっておらず、30秒間隔のタイムラプス撮影で「同時」と判定される例もみられること、などが明らかとなった(Hamamura et al. 2011, 図5)。後者の②については、多精拒否により受精相手が決まるとする仮説では説明しづらい。卵細胞と比べて中央細胞の多精拒否が弱いことが遺伝学的に示唆されており(Scott et al. 2008, Nakel et al. 2017)、ライブイメージング解析でも中央細胞は多精拒否を示すが卵細胞に比べて弱いことが示されたことから(Nagahara et al. 2021)、やはり多精拒否仮説だけで極めて厳密な受精相手の決定を説明することは難しい。つまり、以前に想定されていた2つの仮説(Knox et al. 1993, the specific receptor hypothesisおよびthe chance hypothesis)では、いずれも重複受精の実態をうまく説明できない結果となった。

図5 シロイヌナズナにおける重複受精のダイナミクス

(A)精細胞の挙動のまとめ。左の図では配偶子の核だけ示してある。花粉管から放出された2つの精細胞は重複受精がおこる卵細胞と中央細胞のあいだに約9秒で到達する。はじめの受精がおこるまでの時間は約7分であり、この間に未知の機構により2つの精細胞の受精相手が決まると考えられる。(B)重複受精過程における2つの精細胞(核)のライブイメージング。矢尻は中央細胞と受精した精細胞の核を、二重矢尻は卵細胞と受精した精細胞の核を示す。時間は精細胞の放出開始からの時間。重複受精は5分と20分の間でおこっている。スケールバーは20 μm。Nagahara et al. 2021から転載。

最近、精細胞が1つしか形成されない変異体を「制限受粉」することで、卵細胞が選択的に受精することが示された(Li et al. 2022, Wang et al. 2024, 図5)。制限受粉とは、花粉の数を制限して少量受粉することである。この制限受粉がポイントであり、これまでも同様の変異体を用いた解析はあった。しかし、花粉管受容後に重複受精が不完全な場合に2本目の花粉管が誘引され受精を回復するリカバリー(fertilization recovery, Kasahara et al. 2012)が、この選択性を分かりづらくしていたようである。同じ変異体を用いた結果が過去の報告と一部異なるなど注意も必要であるが、独立に2研究グループから重複受精における卵細胞の選択性(優先性)が示されたことは大きい。なぜ明確な選択性を示すのか理由は明らかではないが、受精相手の決定機構を解明するうえで、重要なヒントとなるに違いない。

今後どのような解析が突破口を開くのだろうか? 細胞融合の素過程として、膜の接着と融合という両プロセスが重要である。クラミドモナスでは雌配偶子(接合型+)の接着因子FUS1と雄配偶子(接合型-)の接着因子MAR1が、それぞれ接合装置先端に存在し、相互作用することで接着する(Pinello et al. 2021)。続いて雄配偶子のHAP2のはたらきで細胞が融合する(Zhang et al. 2021)。マウスの受精では、精子上の接着因子IZUMO1が卵母細胞の受容体JUNOとの相互作用により接着する(Bianchi et al. 2014)。さらに最近、マウスも含めた脊椎動物の接着因子複合体について急速に理解が進んでいる(Deneke et al. 2024)。ただし哺乳類の融合因子については明らかではない(Brukman et al. 2023)。我々はIZUMO1とJUNOをモデルに、動物培養細胞に発現させた接着分子間の相互作用を、ライブイメージングにより検出する手法を確立した(Nakajima et al. 2022)。受精時の分子動態の可視化を達成するためのツール開発に対しても、重要な系となると期待できる。

クラミドモナスFUS1は、被子植物の精細胞の接着因子GEX2(Mori et al. 2014)に構造が類似することが知られる(Pinello et al. 2021)。しかしMAR1についてはアミノ酸配列の相同性からは被子植物におけるホモログが見出されていない。被子植物の卵細胞や中央細胞に存在すると想定されるGEX2パートナー分子を見出して解析を進めることが、重複受精において受精相手を決める仕組みの理解に重要であると筆者らは考えている。卵細胞から分泌され、花粉管誘引物質LUREを分解することで多精拒否(多花粉管拒否)を担うと報告されていたペプチダーゼ(Yu et al. 2021)が、配偶子間の接着を促進して重複受精の効率を高める別の機能ももつと報告されるなど(Jiang et al. 2022, Zhang et al. 2023, Mao et al. 2023)、組織深部で起こる重複受精の理解は依然として容易ではない。重複受精の受精相手が決まる数分のあいだに配偶子同士が接する界面で何が起こるのか、高い時空間分解能で分子動態を可視化することが、謎を解く鍵になるに違いない。

おわりに

被子植物がいかにして誕生したのかは、進化の大きなミッシングリンクである。その謎めいた進化もあり、重複受精は研究者の興味を引き続ける現象である。ほぼ手つかずの課題として、現生裸子植物の有性生殖の機構解明が挙げられる。重複受精の誕生においてどのような試行錯誤があったのかを探るには、裸子植物の有性生殖について分子的な理解を進めることが重要であろう。難しい課題ではあるが、最新の技術を用いた裸子植物での研究が進展することを期待したい(e.g. Toyama and Higashiyama 2024, Toyama et al. 2026)。また、精細胞を1つしか形成せず重複受精を行わなくなったとされるラン科のネジバナ(Terasaka et al. 1979)のような、ユニークな被子植物に着目した研究も重要であろう。他にも、胚嚢が裸出するトレニア属のなかで、日本に多く自生する自殖性のウリクサ(Higashiyama et al. 2006)に注目し、分子遺伝学と高時空間分解能イメージングを合わせた解析を行うことでも、重複受精の研究が大きく進展すると期待される。こうした非モデル植物を駆使した研究、野外と実験室を自在に行き来する研究は、生物学の大きな魅力である。そのさらなる発展と、重複受精の謎の解明を期待したい。

Acknowledgments

本総説は、様々な研究助成による支援のもと、長年に渡り多くの研究室メンバーや国内外の研究者と議論を重ねてきた内容をまとめました。図の一部は、共同研究者のご厚意のもと使用させていただきました(Arp Schnittger博士(図3A)、栗原大輔博士(図3B)、Benjamin Podbilewicz博士(図4A)、永原史織博士(図5B))。また、多くの植物形態学会員、特に重複受精に関わる研究を行ってこられた吉田治先生、田中一朗先生、寺坂治先生、黒岩晴子先生から、多くの知見を教えていただきました。心から感謝申し上げます。

References
 
© 日本植物形態学会

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