抄録
要旨:ミカン状果の子房内に生じる毛状体の発生を研究した。毛状体はミカン状果の成熟に伴い、可食部である粒状の嚢(砂じょう)へと変化する構造体である。観察の結果、毛状体は、子房内腔の背軸側(子房の外に近い側)に面した表皮および次表皮の細胞層を含む内果皮組織から発生を開始した。果実の成熟にしたがい、毛状体は成長し、外側の細胞層を残して内側の柔組織が崩壊し、毛状体内腔は果汁で満たされた。すなわち毛状体は、発生上、多細胞性であるが、内部細胞が崩壊することにより、一見、巨大単細胞状の嚢構造となることがわかった。また、受粉前後において、子房内腔の向軸側(子房の中軸側)に位置する珠柄の基部に、単細胞性の毛状突起が認められた。この毛状突起は、子房が成熟するにつれて退化消失した。この構造については、これまで適当な名称がないため、珠柄の毛と呼ぶこととした