1998 年 1998 巻 p. 1998-1-017-
日本は,1960年代から70年代にかけて深刻な公害を経験し,克服してきた。この過程において,公害対策・環境保全についてさまざな知恵や技術を体得しつつ,高度経済成長を果たした。この経験を我々のものだけにしておくのは不幸なことである。今後同様の経験をするであろう開発途上国にこの貴重な経験を伝達し,「持続可能な開発」を遂げてもらう必要がある。開発途上国にとって,産業公害,都市型環境問題,地球環境問題に同時に対処しなければならないのは困難なことであるが,日本を含めた先進国は開発途上国にのみその負担を負わせるのではなく,互助の精神でできる限りの協力を行い,負担を分担していかなければならない。そのためには,開発途上国の経済社会システムと価値観だけでなく,先進国の経済社会システムと価値観についても変えていく必要がある。日本においても,21世紀を見据えて行政組織をはじめとした諸制度を改革する動きがあるが,その中において環境保全型社会への移行,強力な国際協力体制の整備をぜひとも行わなければならない。日本の公害経験を開発途上国に伝達していく上でも早急にこれらの改革を成し遂げる必要がある。