抄録
日本におけるいわゆる「土木バッシング」の背景には、日本の歴史風土に特有の問題が存在しているとの仮説の下、本研究では、土木に対する否定的意識についての、過去から現在に至る日本民族の「歴史的実践の総体」の諸相を、各種の歴史的記述から概観し、再解釈することを通じて、現在の土木バッシングの基底にある日本人の潜在意識を探索した。その結果、日本人の精神に胚胎した「土木に対するケガレ意識」が、日本特有の土木バッシングの民俗学的理由を形作っている、との解釈と整合する歴史的記述が存在することが示された。すなわち、この日本人の精神に古くから胚胎してきたと考えられる「土木に対するケガレ意識」が、呪術を持った河原者などの被差別民が土木事業に携わったという歴史、ならびに、土木に対する「不浄」という精神的忌避の民俗を形成し、現在の日本特有の土木バッシングの民俗学的理由を形作っている、との解釈に複数の歴史事実が整合していることが示された。