実践政策学
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  • 柳川 篤志, 沼尻 了俊, 山田 慎太郎, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2024 年 10 巻 2 号 p. 125-137
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    日本はここ20年来デフレ不況に陥っており、未だデフレ脱却には至っていない。そのような経済状況下にもかかわらず、日本においても新自由主義的政策が一部取られてきた。また既往研究においても新自由主義的政策を取り巻く言説には詭弁的要素が含まれている可能性があることが実証されている。本研究は、新自由主義が国民に受け入れられる要因の一つに、新自由主義政策を取り巻く言説の中に詭弁的要素が含まれている可能性が存在する、と考え、その言説を虚偽論に基づき分析する。そして、それに基づき、本研究はそれらの言説が説得的コミュニケーションにおいてどのような心理的効果を及ぼすかを検証するため、計112人の被験者に対し心理学実験を行ったところ、詭弁を含む物語記述はより大きな意見変容を被験者に生じさせる結果となった。
  • 「単身世帯」と「親と同居世帯」に着目して
    小寺 啓太, 大畑 友紀, 氏原 岳人
    2024 年 10 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究では、生涯未婚率の上昇による増加が予想される独身者に着目して、婚姻状況及び同居形態の違いによる居住環境の差異を把握した。独身者のうち「単身世帯」と「親と同居世帯」は共通して自家用車及び運転免許の所有率が低い。「単身世帯」の独身者は居住誘導区域内かつ公共交通の高利便な地域に居住する傾向にある。一方で、「親と同居世帯」の独身者は誘導区域外に居住する割合が高いものの、公共交通の利便性や転居意向は「単身世帯」の独身者と比べて高くない。「親と同居世帯」の独身者が親との死別を経て「単身世帯」になると考えられるが、「単身世帯」は要介護時や日頃の手助けについて頼れる人がいない等の傾向があると報告されている。つまり、「親と同居世帯」の独身者が「単身世帯」となった際に、公共交通機関の乏しい地域に居住し続けることは将来的な買い物難民や交通弱者を生み、新たな都市計画上の課題になりえる。
  • 田中 皓介, 中尾 聡史, 谷口 綾子
    2024 年 10 巻 2 号 p. 149-154
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    近年、自動運転システムの技術開発が進み、その社会実装について活発に議論されている。自動運転技術は、交通事故や運転手不足などの様々な交通問題を解決できると考えられていることから、自動運転技術への期待が高まっている。一方で、そうした期待は、今日早急に対応すべき交通問題から目を背けさせることに繋がる可能性が懸念される。こうした問題は、気候工学の分野で検討されているある種の「モラル・ハザード」と呼ぶことができる。本研究では、情報提示を伴うアンケート調査を行い、ランダム化比較試験により、情報提示がもたらすモラル・ハザード意識の醸成可能性について検証する。分析の結果、情報提示のない対象群と比較して、自動運転が順調に社会に受容されているということのみを情報として提示した群では、「バス・トラックの運転手不足」や「人間の操作ミスによる自動車事故」という問題は、自動運転技術によっていずれ解決するのだから大きな問題ではない、というモラル・ハザード意識が統計的に有意に高いことが確認された。一方で、そうした情報に加え、まだ人の操作が介入せざるを得ない局面があることなども提示した群では、対照群と比較して、モラル・ハザード意識の統計的有意差は検出されなかった。自動運転技術の情報提示の仕方によっては、モラル・ハザード意識の醸成、すなわち現存する交通問題に対する責任感の希薄化が生じうる可能性が示された。
  • 岐阜県高山市における市民課窓口の事例から
    浦田 真由, 谷口 友隆, 堀 涼, 遠藤 守, 安田 孝美
    2024 年 10 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    地方自治体では人口減少や高齢化による職員不足や財政難が深刻化しており、AIによる業務効率化や住民サービス向上が期待されている。市役所では窓口での混雑が課題となっており、市民を待たせてしまうことや職員の負担増加が課題となっている。そこで、本研究では、岐阜県高山市役所を対象に、市民課窓口に設置されている発券機のデータから、LightGBM(機械学習モデル)を用いて2ヶ月先までの混雑度を5段階で予測した。予測結果を分かりやすく伝えるための混雑予測カレンダーを作成し、2ヶ月先までの混雑予測を1時間ごとに確認できるようにした。このカレンダーは2023年6月より高山市役所のWebサイトで一般公開されており、市民は来庁前に混雑状況を確認することができる。混雑予測カレンダーに対する市職員からの評価が高く、来庁者が増加するお盆期間にはサイト閲覧数が大幅に増加したことから、市役所窓口の混雑期に役立つことが期待される。
  • 小幡 敏也, 藤井 聡
    2024 年 10 巻 2 号 p. 163-168
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    土木の本領である国土の開発は、それが国家的ないし国民的営為であるにもかかわらず、各事業計画が単体で検討され、総合的・長期的な視野が導入されることは時代を追うごとに少なくなっている。また、技術者や国民の内に存在する連帯感や国家発展への意志が国土開発に与える影響も、考慮されることは稀になりつつある。本論考では、日本の近現代史において明治の開国期、戦後の復興期と並んで旺盛な国土開発が行われた大日本帝国期の満洲開発を対象として、総合的・長期的な視野、技術者や国民の内に存在する連帯感や国家発展への意志等がどのような態様をとって国土開発の基礎条件となったかを日本語文献を用いて考察する。
  • 大畑 友紀
    2024 年 10 巻 2 号 p. 169-174
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    わが国では、近年「空き家」が社会問題となっており、利活用だけでなく発生の抑制が重要な課題となっている。本研究では高校生を対象として、空き家の認識を広めるための取り組みを行った。その内容として、一方的な説明だけではなく参加型にして効果を高めることとした。すごろくによる疑似体験を通じて楽しみながら正しい知識を身に付けられる工夫を行い、事前及び事後に実施するアンケート調査結果を分析し効果を検証した。分析を行った結果、短時間でのすごろくによる疑似体験では自宅に対する意識を変容させることは難しいが、正しく理解してもらい空き家の認識を広めるには効果があることが確認できた。具体的な結果としては、「だれも住んでいないけど、持ち主がいるので地域で問題視しなくてよい。」、「その家にたまたまだれも住んでいないだけで、そういう家が近所で増えていくことはなさそう。」、「だれも住んでいない家が近所にあるぐらいで、トラブルが起きたりはしない。」という設問には実施前後での差が見られ、空き家に対する正しい理解に一定の効果があることが推察される。しかし、取り組みを通じて自宅の将来に対して意識が変化するかについては効果があまり見られず、実施時間が不十分であったことが要因であると考えられる。
  • 車谷 綾花, 福島 秀哉, 福井 恒明
    2024 年 10 巻 2 号 p. 175-185
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の復興では防災集団移転促進事業が大規模に適用され、一部地域では、既存集落内に散在する土地を移転地として活用する差し込み型防災集団移転促進事業が活用された。この事業は、事業費の低減、工期の短縮、地域コミュニティの維持といった利点が評価され、今後の大規模災害後の活用が期待されている。しかし、この事業の推進では既存集落内の移転先候補地選定、地権者との合意形成等、計画プロセスにおいて地域住民間のより細やかな調整が必要不可欠である。よって移転元や移転先の地域コミュニティの状況が計画の成否に影響しやすく、計画プロセスでの地域コミュニティ・地域組織と行政の協働が求められるが、その具体的な協働のあり方の知見は未だ十分ではない。本研究の目的は、大船渡市越喜来地区の差し込み型防集事業について、地域コミュニティ・地域組織の特徴・役割に着目して、その計画プロセスを明らかにすることである。本研究の成果として、「地区・近隣コミュニティ階層型」の地域コミュニティの構造や人的ネットワークが、地区単位の復興住民組織の必要性の共有や組織の設立、その後の行政区と連動した復興プロセスでの様々な活動の実現、および差し込み型防集事業、特に事業実現上重要であった事業化以前の段階での計画プロセスに寄与した点を明らかにし、地域コミュニティの構造に配慮した官民連携の重要性を指摘した。
  • 曽屋 裕介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2024 年 10 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    我が国では財政上の制約によって整備が十分に進んでいない防災インフラが多数存在し、その解決方法の一つとして、民間の資金及び投資意欲を活用した防災投資のスキームであり、成果連動型PFI(PFS)の一種である「防災SIB」が提案されている。本研究では、地方自治体の土木及びまちづくり政策担当者にインタビューを行い、「防災SIB」を社会に実装していくにあたって地方自治体側に生まれる障壁や課題を洗い出し、改善策や制度整備の進め方について考察した。その結果、防災SIBの導入に適した業務分野がいくつか特定されるとともに、ステイクホルダー間の合意形成や説得を進める上で留意すべき点、効果測定や成果報酬の設定において工夫すべき点などが明らかになった。
  • 田村 太郎
    2024 年 10 巻 2 号 p. 199-210
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究では、言語や文化の異なる地で被災した外国人への支援の在り方について、日本での過去の災害における対応の歴史を俯瞰ながら政策や対応の傾向・変遷とその背景を整理し、外国人が持つ脆弱性の要因を分析する。1923年の関東大震災、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災での外国人の被災状況やその後の日本社会の対応から、震災以前における外国人の社会的位置づけの不明確さが、震災後の脆弱性に結びついていることを論じた。災害時の外国人支援においては言語面での課題に注目が集まりがちであるが、支援の対象から漏れる外国人が生じることや、外国人に対する誤解や偏見により地域社会から孤立することへの不安に課題があり、国や自治体における今後の取り組みでは多言語による情報提供に留まらず、外国人コミュニティとの連携を深めながら、住民間の相互理解に基づいた地域づくりを進めていくことの重要性を指摘した。
  • 公共経営研究の一視角・長野県下伊那郡大鹿村の事例を手掛かりに
    安達 卓俊
    2024 年 10 巻 2 号 p. 211-218
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    本研究は、長野県下伊那郡大鹿村おいて介護予防につながる活動をしようと同地在住の有志者らが立ち上げた任意団体「ぬくもりの会」の活動を取り上げて公共経営の1つのあり方を探るものである。現地での調査については、「ぬくもりの会」を構成する有志者、大鹿村役場担当職員、大鹿村社会福祉協議会担当職員の3者を対象として、2022年9月28日、2023年7月20日、21日の2回(3日間)において実施した。調査では、参与観察、インタビュー、フォーカスグループ、ディスカッションなど直接の観察と参加を中心に組み立て、個人の経験やストーリーに焦点を当て、それを構造化することを目指した。また、分析に当たっては、ディスコース分析を採用した。調査を通して特徴的に見えたのは、「ぬくもりの会」が互いに顔を知り合うことで住民同士、住民と行政及び社会福祉協議会などの機関が行き来しやすい環境を整える活動であった。この活動によって、住民が声を上げやすく、またそれを聞き届けやすいようなネットワークが築かれていた。「ぬくもりの会」の活動は、このような応答可能性の域の拡大によって地域の円滑油として機能し、それもまた「地域の力」として公共経営の1つとなり得ることが示された。
  • リーダーシップ開発論の視点
    大嶋 淳俊
    2024 年 10 巻 2 号 p. 219-224
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    経営リーダーの育成は、いつの時代も最重要な経営課題の一つとされる。そのリーダー人材の育成に重要な要因として、「仕事上の経験」が7割と最重要で、2割は「人との関わり」、1割が「研修等」とする「経験理論」が古くから信じられている。しかし、近年のリスキリングや越境学習の概念が広がりを見せているように、デジタル変革(DX)など大きな社会変化に対応するためには、従来の仕事の知識に固執せず、新たな知識や考え方を取り入れ、企業の枠を超えて多様な人材と関わり・学び、共創できる能力が求められている。先行き不透明な現代において組織を舵取りする経営リーダーはこれまでの職位より高い次元で意思決定が必要とされており、仕事上の経験の延長線上の知見だけで経営リーダーシップをとれるのか疑問視される。本研究では、経営リーダーに大きく成長した重要なキャリア上の経験を「飛躍的成長機会」として、これまでは「仕事上の経験」ほど重視されてこなかった「業務外での人との関わりや学び」が、経営リーダーの飛躍的成長にどうつながるのかに注目する。それを明らかにするために、大企業の経営リーダー達に飛躍的成長機会について聞き取り調査を実施し、業務外での経験・交流の有効性を検討した。さらに、政府や産業界が飛躍的成長機会の創出にかかわる可能性について論じた。
  • 西田 芽生, 藤原 菜摘, 李 婭婭, 赤木 優也, 木戸 倫子, 神出 計, 樺山 舞
    2024 年 10 巻 2 号 p. 225-232
    発行日: 2024/11/30
    公開日: 2024/12/19
    ジャーナル フリー
    社会参加をしている地域在住高齢者がもつ肯定的感情・否定的感情の実態を把握し、その性別および年齢層別の特徴を明らかにすることを目的とした。2013年大阪府A市在住の60~89歳の住民を無作為抽出し、無記名郵送自記式質問紙調査を実施した。返送率は43.3 %、社会参加している1213人(男性:56.2 %、平均年齢(SD):74.1(8.1)歳)の回答を分析した。肯定的感情では「いろいろな人と出会い、交流できる」(76.4 %)や「楽しみや生きがいが得られる」(61.7 %)等が高い割合を占め、女性では「楽しみや生きがいが得られる」(男性:56.4 %、女性:68.3 %)や「健康が維持・促進される」(43.8 %、50.0 %)が有意に高かった。一方、男性は「時間がつぶせる」(17.9 %、11.1 %)の回答が多かった。年齢層別では75~89歳の方が「楽しみや生きがいが得られる」の回答が有意に高かった(60~74歳:58.8 %、75~89歳:65.2 %)。活動に対する「不満はない」の回答は約75 %に上ったが、否定的感情としては「お金がかかる」(12.4 %)が最も多く挙げられた。男性は「あまり楽しくない」(3.5 %、1.0 %)の回答割合が高く、60~74歳では「仕事や家事とのやりくりがむずかしい」(7.1 %、3.4 %)「お金がかかる」(15.7 %、7.5 %)の割合が有意に高かった。「気力・体力が続かない」は75~89歳で有意に高かった(6.7 %、10.9 %)。以上より性別および年齢層別特徴が明らかとなり、満足感の高い社会参加の場づくりへの示唆を得ることができた。
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