抄録
フリーアクセスは、国民皆保険や現物給付方式と並んで、日本の医療保障を支える重要な役割を果たしている。ところが、昨今社会保障財源の逼迫が喧伝されていることから、このフリーアクセスを廃止に追い込む圧力が後を絶たない。そこで、機会費用の発生可能性の視点から、フリーアクセスをめぐる政府、国民、医療者が掲げる論理、倫理問題、合意状況について考察した。その結果、このフリーアクセス制限論の中には、数多の事実誤認が含まれていることが明確になった。このため、フリーアクセスをめぐる分配問題を適切に判断するためには、政府や世論が正しい事実認識を持つことが必要である。その上で、フリーアクセスを廃止すべきか否かについて議論することが重要である。勿論、医療・社会保障財源が逼迫している状況は放置すべきではない。しかしながら、正しい事実認識を持たずに前提を安易に受け入れて、フリーアクセスを過剰に抑制すべきだという結論ありきで分配問題を評価することは一切正当化することができない。問題解決を急ぐあまり、誤った認識を前提に受け入れた政策を実践することで、医療の荒廃が生じる可能性があるならば阻止しなければならない。よって、政府や世論が適切な政策論議をするためには、これらの誤った前提を捉え直す余地がある。