2024 年 25 巻 p. 129-139
本稿は,九州地方の方言談話資料を用いて,対称人称詞による文末詞を統語的及び談話的に分析した.対称人称詞による文末詞の出現環境としては他の文末詞と共起せずに独立した文末詞として用いられることが多く,表現類型のモダリティとしては意志や勧誘,行為要求という行為の実行に関わる行為系モダリティより,叙述や疑問という情報のやりとりに関わる情報系モダリティが多い.発話末の対称人称詞は,主に,自分が持つ情報を述べたり相手の知識を尋ねたりする文で用いられている.談話的には,情報の一致への志向性と親密さの表出機能がある.これらの分析から,対称人称詞の実質的な意味は漂白し,語用論的な意味の獲得,つまりポジティブ・ポライトネスとして機能していると考えた.