フィナンシャル・レビュー
Online ISSN : 2758-4860
Print ISSN : 0912-5892
市町村における広域連携の政策評価
―定住自立圏を事例とした実証分析―
宮下 量久鷲見 英司
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2022 年 149 巻 p. 158-201

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抄録

本稿は,わが国における市町村間の広域連携である定住自立圏構想の成果(アウトカム)を定量的に検証することを目的としている。地方政府間連携(Intermunicipal Cooperation:IMC)には二つの効果が存在する。一つは,公共サ- ビス供給における資源配分の効率性の改善(外部経済効果の内部化)が,圏域全体に及ぶ生活機能の向上を通じて居住者の増加または,減少に歯止めをかけることが期待される。もう一つは,規模の経済性を通じた公共サービスの平均費用の低下が期待される。これを踏まえて,本稿では前者の成果指標として人口増減率と社会増減率,後者の成果指標として一人当たり実質歳出を採用し,定住自立圏の形成がこれらの成果指標に与えた影響(因果効果)を推定する。ただし,定住自立圏の形成は構成市町村の自発的な意思決定に基づくものであるから,人口の社会減少が深刻な地域ほど,圏域全体の取組みによって地域の持続可能性を高めるために,圏域形成を選択するかもしれない。このようなセレクションバイアスを回避するために,傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching:PSM)を用いるとともに,DID(Difference-in-Difference)分析を組み合わせることで,時間を通じて変化しない市町村固有効果を除去している。分析の結果,定住自立圏の形成は未形成の場合と比べて,人口増加や維持に寄与していなかった。また,一人当たり実質歳出では,定住自立圏形成後に低下するのでなく,むしろ増加傾向が見られた。定住自立圏には核となる中心市が存在し,近隣関係市町村との合意形成・利害調整を円滑に進めることが期待されたものの,実際の連携は産業政策,観光振興,災害対策等,従来の連携の延長で,比較的容易な分野での取組みに止まったため,圏域全体に及ぶ生活機能の向上や規模の経済性が実現されず,人口の維持や増加,歳出削減に繋がっていないものと考えられる。

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© 2022 本論文著者
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