フィナンシャル・レビュー
Online ISSN : 2758-4860
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149 巻
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  • 赤井 伸郎
    2022 年 149 巻 p. 1-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
  • ―コロナ禍において地方公共団体の収支は悪化したのか?―
    石川 達哉, 赤井 伸郎
    2022 年 149 巻 p. 5-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    2020 年度の地方財政計画にも個別地方公共団体の地方交付税にもコロナ対策は全く織り込まれていなかったが,国が3 次にわたって編成した補正予算を通じて,地方が担う事業に対する財源が措置され,コロナ対策のための国庫支出金が20 兆円も交付された。その多くは,国民1 人当たり10 万円の特別定額給付金をはじめ,ほぼ同額の補助費等の歳出増に対応するためのものであった。個人・中小企業向けの制度融資拡大も,歳入と歳出を増加させ,地方全体の歳入総額は前年度比26 兆円超,歳出総額は前年度比25 兆円超の増加となり,収支は小幅改善した。 新設の国庫支出金の多くが収支に対して中立的だと言えるが,特定財源と一般財源の両方の役割を担った新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の使い方や実施事業によっては,収支が改善するケースと悪化するケースの両方があり得る。そこで,都道府県と市町村,交付団体と不交付団体,人口規模の属性毎にグループ分けして個別地方公共団体の2020 年度決算状況を見ると,都道府県では8 割超,市町村ではいずれのグループにおいても2/3 程度の団体の修正実質単年度収支(「実質単年度収支」の概念を修正した指標)が改善していることが明らかとなった。ただし,この収支を単年度収支と財政調整基金残高の変化に分解すると,両方が改善した団体が4 割,前者のみが改善した団体が2割,後者のみが改善した団体が3 割,両方が悪化した団体が1 割であり,収支変化の内訳は一様ではないことも明らかとなった。2021 年度および2022 年度も,コロナ禍の影響は残っており,引き続き,このような分析を継続していく必要がある。
  • 石田 三成, 大野 太郎, 小林 航
    2022 年 149 巻 p. 37-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,財務省が自治体の債務償還能力と資金繰り状況を明らかにするために作成した行政キャッシュフロー計算書の市町村データを用い,地震を含む自然災害が自治体の現金収支や債務などの財政状況に与えた影響を定量的に明らかにした。 東日本大震災を除く自然災害の被害を受けた特定地方公共団体では,発災直後に一人当たり収支合計,行政収支,および基礎的財政収支が一時的に悪化するという結果が得られた。収支合計が悪化した理由は,災害復旧事業の実施で悪化した行政特別収支を行政経常収支や財務収支で補填できなかったためである。そのしわ寄せは地方債現在高の増加と財政調整基金の減少というストック面に表れており,財政調整基金の残高は発災初年度から減少に転じている。被災自治体に対する国の財政支援制度は存在するが,自治体は財政調整基金を取り崩して応急・復旧のための財源に充てているという実態から,財政面で応急・復旧活動に支障が出ないよう予め財政調整基金を一定程度積み立てておくことが重要である。行政収支は発災6 年後から改善傾向が見られ始めるが,これは復興によって税収が増加したというよりは,発災後に起債した地方債の元利償還金に対する交付税措置によって地方交付税が増加したためである。 東日本大震災の影響を受けた特定被災地方公共団体では,発災後に一人当たり収支合計が増加し,行政収支も増加傾向をほぼ一貫して維持し続けていたことから,特定地方公共団体と比較して資金繰り状況にはかなり余裕が見られる。行政収支で生じた膨大な余剰は,その他特定目的基金に積み立てられ,後年度に実施する復興関連事業の原資となっている。この豊富な積立金等残高の存在により実質債務は大きく低下したが,復興事業の進展により積立金等残高は減少しつつある。現在のペースではそう遠くない時期に積立金等残高が特定被災地方公共団体以外の団体と同水準にまで低下することが見込まれる。
  • ―健全化法が財務状況把握の財務指標に与えた影響―
    広田 啓朗, 湯之上 英雄
    2022 年 149 巻 p. 67-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    本稿では,新しい財政ルールの導入が,監視対象ではない指標に与えた影響を捉えるために,市町村データを用いて健全化法と財務状況把握の財務指標に焦点を当てた分析を行った。第一に,財務状況把握のための財務指標をアウトカムとした分析を行った。第二に,健全化法による健全化指標をアウトカムとした分析を行った。第三に,財務指標や健全化指標が,どのような要因で改善もしくは悪化しているのかを調べるために,歳出・歳入項目に着目した分析を行った。市町村の財政健全化の視点から見ると,監視対象である健全化指標は改善しているが,資金繰りや債務償還能力の視点から見ると,監視対象ではない行政経常収支率や基礎的財政収支は悪化している。この結果は,歳出面の増加を上回る歳入面の増加によりもたらされており,地方交付税や臨時財政対策債の増加の影響が大きい。市町村は,現在の債務償還努力に取り組みつつも,将来の様々な危機に備えた積み立て行動を優先していると考えられる。
  • 近藤 春生, 小川 顕正
    2022 年 149 巻 p. 93-111
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    地方公会計改革は,資産債務改革などを目的として進められてきたが,その効果について定量的に分析したわが国の研究は,財務書類作成の有無のみに着目していた。本稿は,総務省主導で2006 年から進められてきた地方公会計改革の効果を,財務書類作成の有無のみではなく,作成された財務書類の活用方法と固定資産台帳整備にも着目して定量的に分析したものである。2010~2014 年もしくは2011~2015 年の市町村パネルデータを用いた分析の結果,財政運営の目標設定に財務書類を活用している自治体で基礎的歳出の伸びの抑制効果が見られること,財務書類を整備する過程で固定資産台帳を整備する自治体において普通建設事業費の伸びの抑制効果が見られることが明らかになった。
  • ―知事の属性及び就任時期の違いに着目して―
    米岡 秀眞, 赤井 伸郎
    2022 年 149 巻 p. 112-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    政治家の在職年数と財政運営の間における関係性については,これまで先行研究により,多くの議論が行われてきたが,正負いずれの影響を及ぼしているかについて論争がある。また,わが国の地方自治体の財政運営を分析した先行研究は,2000 年初頭までのデータによる検証が多かったため,2000 年の前後に生じた地方財政を取り巻く環境変化について十分な考慮が行われた上で,議論がなされてきたとも言い難い。本研究の目的は,こうした既存研究の課題を克服するために,1975 年から2017 年までの都道府県パネルデータを用いて,知事の在職年数と地方歳出との関係性を実証的に明らかにすることにある。その際,2000 年の前後を境として,地方歳出と知事の在職年数と の関係性が異なる可能性,あるいはそうした関係性が知事の属性及び就任時期によっても異なる可能性に着目して,実証分析を行った。実証分析から,以下の3 つの結論を得た。まず,知事の在職年数が長いほど地方歳出が 抑制されるかどうかに関しては,データの全体(1975~2017 年)では見出せなかったものの,2000 年以後において,その抑制傾向が確認された。2000 年の地方分権一括法の施行に伴った影響をより強く受けていたものと推察される。また,こうした2000 年以後に見られる知事の在職年数が地方歳出にもたらす影響は,知事の出身属性によって異なる効果が生み出されていること,さらには,その知事の出身属性の違いによる効果も,2000年以後に新たに知事が就任したか否かで異なることが確認された。得られた結論には,既存研究においてこれまで明らかにされてこなかった点,あるいは既存研究の見解とは異なる点がいくつかあり,少なくない示唆が含まれている。これらの結果を踏まえ,今後,首長の在職年数の長さが及ぼす効果と関連する制度のあり方について,さらに分析を深めていく必要がある。
  • ―都道府県別データによる実証分析―
    金坂 成通, 倉本 宜史, 赤井 伸郎
    2022 年 149 巻 p. 137-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    汚職は,予算権限を持った個人主体が,ある特定の団体に利益(資金)を誘導・配分する代わりに,個人での利益を得る仕組みであり,公益とは乖離し,社会全体での効率的な資源配分を歪める要因となる。新たな資金を配分する場合には,歳出総額は拡大し,また,資金配分が非効率になる場合には,特定分野の資金が拡大し,歳出の無駄が発現すると考えられる。本稿は,汚職の存在と歳出の増加との関係について,汚職は発覚するまで存在がわからないという点に注意しながら,統計データを用いて明らかにする。 先行研究の多くがクロスカントリーデータを用いており,国家間の財政制度の違いを考慮できていないという限界を踏まえ,日本国内のデータを用いたことが,本稿の新規性である。本稿では,初めて日本の都道府県データを用いて,汚職発覚が歳出(歳出総額,土木費および落札率)に与える影響を検証している。 推定結果から,汚職の発覚後に歳出を抑える可能性がある事が示された。加えて,政治的状況による汚職発覚の影響を分析した結果,選挙において得票率が高かった知事のいる地方自治体ほど(競合する他候補者の得票率が低いほど),汚職発覚による歳出削減の効果は抑制されることを示唆する結果となった。この結果より,政治構造次第では,汚職発覚が直ちに歳出削減に繋がるわけではなく,知事の行動についても注視するべきという含意も得られる。
  • ―定住自立圏を事例とした実証分析―
    宮下 量久, 鷲見 英司
    2022 年 149 巻 p. 158-201
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    本稿は,わが国における市町村間の広域連携である定住自立圏構想の成果(アウトカム)を定量的に検証することを目的としている。地方政府間連携(Intermunicipal Cooperation:IMC)には二つの効果が存在する。一つは,公共サ- ビス供給における資源配分の効率性の改善(外部経済効果の内部化)が,圏域全体に及ぶ生活機能の向上を通じて居住者の増加または,減少に歯止めをかけることが期待される。もう一つは,規模の経済性を通じた公共サービスの平均費用の低下が期待される。これを踏まえて,本稿では前者の成果指標として人口増減率と社会増減率,後者の成果指標として一人当たり実質歳出を採用し,定住自立圏の形成がこれらの成果指標に与えた影響(因果効果)を推定する。ただし,定住自立圏の形成は構成市町村の自発的な意思決定に基づくものであるから,人口の社会減少が深刻な地域ほど,圏域全体の取組みによって地域の持続可能性を高めるために,圏域形成を選択するかもしれない。このようなセレクションバイアスを回避するために,傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching:PSM)を用いるとともに,DID(Difference-in-Difference)分析を組み合わせることで,時間を通じて変化しない市町村固有効果を除去している。分析の結果,定住自立圏の形成は未形成の場合と比べて,人口増加や維持に寄与していなかった。また,一人当たり実質歳出では,定住自立圏形成後に低下するのでなく,むしろ増加傾向が見られた。定住自立圏には核となる中心市が存在し,近隣関係市町村との合意形成・利害調整を円滑に進めることが期待されたものの,実際の連携は産業政策,観光振興,災害対策等,従来の連携の延長で,比較的容易な分野での取組みに止まったため,圏域全体に及ぶ生活機能の向上や規模の経済性が実現されず,人口の維持や増加,歳出削減に繋がっていないものと考えられる。
  • 山下 耕治, 赤井 伸郎, 福田 健一郎, 関 隆宏
    2022 年 149 巻 p. 202-223
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,水道管路の老朽化や人口減少の進行は,家事用の水道料金にどのように反映されるのか,さらには,口径別か用途別かという料金体系の違いは,水道料金の格差を生む要因であるのかについて実証的に明らかにすることである。パネルデータを用いた検証から,次のようなファクト・ファインディングを得た。 第一に,老朽化した水道管路の割合が高い事業体ほど,家事用の水道料金は有意に高くはなるが,そのパラメータはゼロに近く極めて小さいことを確認した。すなわち,管路の老朽化を見据えた水道料金の設定・改定は機能していないことを示唆するものである。第二に,口径別料金体系を採用している事業体では,用途別の事業体と比較して,家事用の水道料金は高い水準にある。さらに,口径別の事業体では,老朽化した管路の割合が高いほど水道料金が高いことが確認された。すなわち,用途別の事業体では,「家事用」という区分が明示的に存在することで,家事用の水道料金を高い水準に設定・改定することへの反発を招くなど意思決定上の困難性が存在するのかも知れない。第三に,口径別料金体系を採用している事業体は収益性が高く,用途別の事業体は収益性が低いことを確認した。 地方公営企業である水道事業は,独立採算制が原則で,原価に見合った料金設定・改定が求められている。用途別の料金体系を採用することで,水の使用目的により水道料金が異なる状況は,原価に見合った料金設定が機能していないことを意味する。用途別の料金体系は,施設の老朽化や事業の収支を見据えた適正な水道料金の設定・改定を阻む制度的要因になっていると思われ,持続可能性の観点からは,口径別料金体系の導入が望まれる。
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