フィナンシャル・レビュー
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法人税の抜本的改革による実効税率の変化
―Forward-looking 型モデルによる資金調達の中立性の分析―
上村 敏之
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2023 年 151 巻 p. 107-131

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抄録

現行の法人税制は負債の利払費を損金算入できるが,他の資金調達についてはそのような仕組みが存在せず,「負債バイアス」をもたらす可能性がある。そこで,資金調達の中立性を目指す抜本的な税制改革として,CBIT(Comprehensive Business Income Tax:包括的事業所得税),ACE(Allowance for Corporate Equity),ACC(Allowance for Corporate Capital)が提唱されてきた。OECD の国際比較によれば,ACE 導入国の限界実効税率は相対的に低く,これらの国々は資金調達の中立性を目指す法人税改革を行っている。本稿では,日本の法人実効税率に関する実証分析を網羅的にサーベイし,それらを法人実効税率の4 類型に区分したのち,法人実効税率の国際比較研究を行っているHanappi(2018),OECD(2020),Spengel et al.(2020)に沿って,Forward-looking 型実効税率を用いた抜本的な法人税改革案の分析を行った。Spengel et al.(2020)にある日本の2020 年のパラメータに改善を加え,資金調達別,資産別の基準ケースの資本コスト,限界実効税率,平均実効税率の値を得た。その上で,法人実効税率のモデルに,改革案のパラメータを組み込み,法定税率一定のもとでシミュレーション分析を行った。第一に,利払費の損金算入を認めない単純なCBIT は,負債による資金調達の資本コストと限界実効税率,平均実効税率を高める。第二に,株式にみなし利子率による機会費用の控除を認める単純なACE は,内部留保と新株発行の資本コストと限界実効税率,平均実効税率を低める。第三に,すべての資金調達にみなし利子率による機会費用の控除を認める単純なACC は,すべての資金調達の資本コストと限界実効税率,平均実効税率を低める。ただし,これらの結果は平均実効税率が異なり,比較が困難である。そこで,平均実効税率一定のもとで同様のシミュレーションを行った結果,法定税率は基準ケースの31.30%に対して,CBIT は25.57%,ACE は42.33%,ACC は42.62%となった。したがって,CBIT は現行税率から5%ポイントの税率引き下げが可能だが,ACE/ACC は10%ポイントの引き上げが必要になる。また,CBIT は資本コストと限界実効税率を引き上げるが,ACE/ACC はこれらを引き下げることも示された。 以上のシミュレーションは,利払費の損金算入をまったく認めない単純なCBIT,みなし利子率と名目利子率が一致し,ACE/ACC を適用する税率を法人所得税の法定税率に一致させる単純なACE/ACC を前提として実施されているが,これらの条件を緩和するシミュレーションを平均実効税率一定のもとで行った。第一に,CBIT のもとで,利払費の損金算入割合を変化させた場合,資本コストや限界実効税率に与える効果は限定的であった。第二に,ACE/ACC のもとで,みなし利子率を名目利子率よりも低く設定する場合,または,ACE/ACC を適用する税率を法定税率よりも低く設定する場合,限界実効税率に与える影響は大きいことが示された。 以上の結果より,いくつかのインプリケーションを得ることができる。CBIT は資金調達の中立性を確保できるが,資本コストや限界実効税率が増加し,投資に対するネガティブな効果をもつ可能性がある。一方,ACE/ACC は,資本コストや限界実効税率を減少させ,投資に対するポジティブな効果を期待できる。特に,ACE は多くの国で導入されており,今後の日本の法人税改革においても,有力な税制改革案になると考えられる。

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© 2023 本論文著者
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