抄録
急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)は胆汁うっ滞に続発する重症胆道感染症で、高頻度に敗血症から死に至る疾患である。そのため迅速な鑑別診断と治療が必要とされるが、サル類における本症の報告はほとんど見られない。今回チンパンジーにおいて本症が疑われる症例を経験したので報告する。野生由来推定27歳の経産雌で、単雄複雌群に飼育されるC型肝炎ウイルス持続感染個体で、前日までに異常は見られなかった。発病時には、うずくまり、食欲不振、歩行時のふらつき、皮膚の熱感、口唇の振戦などが見られた。血液検査所見では白血球数、直接ビリルビン値、CRP値、肝トランスアミナーゼ値、胆道系酵素値等の上昇と、血小板数、カリウム濃度の減少が認められた。尿中ビリルビンは強陽性で、腹部の超音波断層像および単純X線像では異常は認められなかった。治療は抗生物質(ABPC合剤)投与とカリウム補給を行ったが、第8病日までに状態及び検査所見は著しく悪化し、黄疸、肝腫大などが見られ、肝臓の超音波断層像では肝内胆管の拡張あるいは多発性肝膿瘍を疑わせる管形、円形像が多数認められた。さらに抗生物質(CPZ)、鎮痙剤などによる内科治療を継続したところ、第13病日以降全身状態及び検査値は徐々に改善し、約11カ月の加療で検査所見はほぼ正常化し、治癒した。本症例では、胆道閉塞の確認や胆汁性状検査を行うことが出来ず確定診断には到らなかったが、症状および血液検査所見からAOSCが疑われた。さらに、病初期の血小板数の減少はFDP高値やPT時間延長を伴っており、播種性血管内凝固症候群を併発した重篤な状態だったと思われる。しかし、外科的減黄処置なしに回復したことから、胆道閉塞は軽度であった可能性も考えられる。チンパンジーでは経皮的胆管ドレナージによる持続的体外排液処置は困難であるため、今後内視鏡的逆行性ドレナージなどの技術導入が必要であると思われた。