抄録
(目的)オス特異的遺伝子から群れや地域個体群の変異性や遺伝的分化を評価すること。
(方法)Y染色体マイクロサテライト3座位(DYS472、DYS569、DYS645)の多型を検索し、Y染色体のハプロタイプを分類した。群れの遺伝子構成の変化を調べるため、高崎山(n=146)と波勝崎(n=81)の試料を分析した。隣接群間の分化を調べるため、高崎山の2群の試料(n=132)を比較した。また、地域個体群の遺伝子変異の分布様式、変異性の地域差を検討するため、滋賀県(n=269)と宮崎県(n=133)の試料を分析した。
(結果)反復単位はDYS472が3塩基、DYS569が4塩基、DYS645が1塩基で、高崎山で7種類、波勝崎で6種類のハプロタイプが区別できた。期間の比較から、高崎山A群で有意な構成変化(G=13.65, df=4, 0.001<p<0.01)を検出したが、C群(G=6.62, df=4, 0.1<p<0.2)と全群(G=6.58, df=6, 0.3<p<0.5)の変化は有意でなかった。波勝崎でも変化は有意でなかった(G=6.99, df=3, 0.05<p<0.1)。また、高崎山の隣接群間で構成の有意なちがいは認められなかった(G=7.12, df=3, 0.05<p<0.1)。滋賀県では21タイプ、宮崎県では15タイプが区別できた。地域集団の変異性は一般に高い。変異の分布パターンはタイプにより異なり、広域分布するものと局在するものが区別できた。また、特に滋賀県では標本サイズと変異性の相関が高かった。
(考察)ミトコンドリア遺伝子とは対照的に、Y染色体の変異性は高く、時間的にないしは空間的に集団内、集団間で分化が認められた。こうした分化は、群れのような集団単位で繁殖に関与するオスの数が限られることによる遺伝的浮動と、群間のオス移住を介した遺伝子流動の相互作用で規定されると考えられる。