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清野 未恵子
セッションID: A-01
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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これまでのニホンザルの採食行動に関する研究から、ニホンザルは果実・葉などの植物食が中心の雑食性であるということが明らかにされてきた。動物食は、採食時間割合が低いということくらいしか言及されてこなかったが、どのようにして昆虫類を探し出し採食しているのかを明らかにすることで、ニホンザルにとって動物食がどのような食物品目であるかということを考察した。そこで、2003年10月から2004年6月まで鹿児島県屋久島の西部海岸地域に生息するヤクシマザルを対象に調査を行った。調査対象群はNina-A群で、そのうちオトナメス5個体を調査対象個体とした。
その結果、サルは年間を通して49種類の昆虫類を採食していることが明らかになった。それらを探索する行動のなかで、虫を獲ることを目的としている、「朽木を崩して虫を探索する行動(朽木崩し行動)」について分析した。朽木崩し行動は、各月に観察されたが11月∼3月にかけて増加し、2月が最も頻度が高かった。また、朽木を崩して虫を獲得したあとに同じ朽木かまたは違う朽木で連続して探索が続けられる行動が113回中61回みられた。
以上のことから、朽木は、冬期に虫類を獲得する場所としてサルにとって重要な採食パッチであることが明らかになった。また、朽木で虫を獲得したあとにも同じ朽木や獲得した付近の朽木で探索行動が続く行動は、中に生息している虫に対する興味が持続している結果であると考えられ、朽木に生息している昆虫類はサルにとって魅力的な食物であることが示唆された。朽木から出てくる虫の種類によって採食行動が異なることから、虫の種類のなかにも好みがある可能性も考えられる。
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半谷 吾郎, 清野 未恵子, 早石 周平
セッションID: A-02
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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温帯の霊長類では、体内で熱生産を行って体温を一定に保つ体温調節はしばしば大きなコストになる。そのコストを低く抑えるため、姿勢を調整したり、温度環境がより好適な微環境を選択したり、他個体と抱き合ったりといった、さまざまな行動的体温調節を行うことが知られている。それらの方法がどの程度体温保持に貢献し、またそのような行動をとることによって逆に他の活動をどの程度制限しているのか、といった、より生態学的な側面については、まだよく分かっていない。本研究は、行動的体温調節の生態学的な意義を探ることを目的として、野生個体群でそれぞれの行動的体温調節によってどの程度の温度環境を享受することができているのかを調べた。屋久島の海岸部とヤクスギ林において、温度感受型電波発信機を装着したニホンザルのオトナメスを行動観察した。調査期間は海岸部が2003年10月から2004年3月、ヤクスギ林が2003年10月から2004年1月である。対象個体を個体追跡し、15分間隔で以下の内容を記録した。温度感受型電波発信機の温度、活動内容、個体の位置(地上、樹上何メートルか、日陰か日向か)、そのときの天気、接触している個体の名前と接触の状態、そのときの微気象(気温、風速、風向、湿度)。また、林内の地上から1.5m、10-15m、および樹木の被覆のない海岸もしくは伐採跡地で自動記録装置により温度計測を、林内の地上1.5mの場所で温度、湿度、風温、温熱指標、露点、湿球温度、気圧高度、密度高度、気圧を記録した。サルはどのような場合にどのような温度の微環境を選択しているのか、またそのような温度環境の選択やさるだんごを作るか否かによって、どの程度の温度環境を享受できているのかを明らかにする。これを絶対的な温度環境の異なる屋久島の海岸部と上部域で比較し、行動的体温調節が他の行動をどの程度制限しているのかを明らかにする。
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菅谷 和沙
セッションID: A-03
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)ヒトをはじめとする社会的な動物には状況や個体関係に依存した意思表示が多く見られる。中でも、2個体間の意思伝達に関わる行動はヒトの言語起源を探る上で重要である(Itani,1963)。動物に見られるさまざまなコミュニケーションのうち、霊長類では音声と毛づくろいを結び付けて論じられることがある。そのため、音声と毛づくろいに着目し、毛づくろい交渉に見られる音声を取り上げる。本調査ではニホンザルが他の個体に接近し毛づくろいを始める際に発する音声を対象とし、ヒトや動物に共通する音声が何を内包するかを探るために、屋久島での調査を行った。
(方法)鹿児島県屋久島西部息に生息するニホンザル(E群)のオトナメスを対象とする。調査期間は2004年5月21日―6月17日のうち、約193時間である。アドリブ観察を行った。屋久島での直接観察と幸島(Mori,1975)をはじめとする他の調査地との比較を行う。
(結果)屋久島では発声せずに接近および毛づくろいをし、幸島ではしない傾向がある。屋久島では発声後に毛づくろいが生じやすく、幸島では毛づくろいが生じにくい。屋久島では発声すると毛づくろいが生じにくくなるが、他個体からの接近を待っていた個体による毛づくろいが増加した。
(考察)以上のことから屋久島は個体間の緊張が低いため、緊張緩和のための発声は少ないということが分かった。また、幸島は個体間の緊張が高いため、発声が多い。さらに、屋久島では「毛づくろいしてくれ、あるいは毛づくろいしようよ」、幸島では「毛づくろいするよ」という意味をもつことが示唆された。また、屋久島では発声後に待機個体が毛づくろいの生起を左右する可能性が示唆された。この差が生じた原因には、餌をめぐる個体間の緊張の高さや、群れ内の個体数が考えられるが、それを判断するためには他の調査地との比較を行う必要がある。
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大西 賢治, 山田 一憲, 中道 正之, 南 徹弘, 日野林 俊彦
セッションID: A-04
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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ヒト以外の霊長類の母子関係に関するこれまでの研究では、母ザルから離れている子ザルに対して母ザルが示す行動についてはほとんど研究されていない。母子が離れた状況下では母ザルは子ザルをすぐには保護できないため、母ザルの子ザルに対する視覚的探索行動は母子が離れた場面での養育行動において重要な役割を持つと考えられる。本研究では、母ザルの「子ザルに対する視覚的探索行動」がどのような状況で生起し、どのような機能を持つのかを検討した。
勝山ニホンザル集団において、0歳齢の子ザルを持つ母ザル8頭を対象として、個体追跡法により子ザルが生後7∼ 16週齢までの期間に観察を行った。母ザルが目を開いた状態で、頭の動きによって視線の方向を変え、子ザルの方向に頭の動きを停止させる行動を「子ザルに対する視覚的探索行動」と定義し、記録した。さらに、母子間の距離や母ザルの活動状態、母ザルの子ザルに対する制限行動、回収行動、拒否的行動などの行動も記録した。
母子が離れた場面では、母子が接触した場面に比べて母ザルは子ザルに対する視覚的探索行動を頻繁に行なっていた。また、母子間の距離が大きくなるほど、母ザルは子ザルに対する視覚的探索行動をより頻繁に行っていた。子ザルの週齢が上がるにつれて、母子が接触していない時の母ザルによる子ザルへの視覚的探索行動の頻度が減少した。これらの結果から、母ザルは母子間の距離や子ザルの発達段階に応じて視覚情報を取り入れる頻度を変化させていると考えられる。さらに、母ザルが子ザルを回収する行動の多くが母ザルの子ザルに対する視覚的探索行動の後に生起した。この結果から、多くの場合母ザルは取り入れた視覚情報から回収行動が必要であるかを決定し、母ザルの視覚的探索行動には子ザルの安全を確認する機能があると考えられる。
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山田 一憲, 中道 正之
セッションID: A-05
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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子殺しはオスの繁殖戦略として進化したと考えられている。しかし、複雄複雌の社会構造と季節性のある乱交的な繁殖様式を持つニホンザルでは、子殺しが起こることは極めて稀である。それは(1)メスが複数のオスと交尾を行い、(2)子ザルの父親である可能性のある複数のオスが群れオスとして集団にとどまり、子殺しの危険から子ザルを守る、(3)子殺しを行っても、子殺しオスがその母ザルと繁殖できる機会は交尾期に限られるためである。
私たちは、勝山ニホンザル集団において、群れ外オスが4ヵ月齢のアカンボウを攻撃して、死亡させるという事例を観察し、その様子をビデオカメラで記録した。
4ヵ月齢のアカンボウが集団から取り残され餌場に単独でいる時に、群れ外オスが餌場に現れた。アカンボウはオスに気づくと即座に逃げ出したが、すぐに捕まった。オスは周囲を何度も見回しながら、アカンボウの手、足首、腕を咬んだが、その場で殺すことはなかった。5分後にアカンボウは逃げ出したが、オスが再度攻撃することはなかった。アカンボウは右上腕から大量の出血が見られ、2日後には姿を消した。
今回の事例の特徴は以下の3点にまとめられる。(1)子殺しを行ったオスはその時初めて観察した個体であった。(2)子殺しが起こる数ヶ月前に3頭の中心部成体オスが続けて死亡・姿を消しており、さらにアカンボウが単独で餌場に取り残されたため、子殺しからそのアカンボウを守る個体がいなかった。(3)子殺しは交尾期開始の数週間前に起こり、その結果、アカンボウの母ザルはすぐに発情し、翌年の出産期に次子を出産した。
ニホンザルにおける子殺しはこれまでに5つの記録があるが、本観察と同様に、(1)攻撃したオスは子ザルの父親である可能性が低く、(2)子ザルを守る群れオスがいない時、(3)交尾期直前または当初の時期には、ニホンザルにおいても、子殺しが生起していることが指摘できた。
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花村 俊吉
セッションID: A-06
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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ニホンザルの群れにいるオスは、群れを構成する多くの個体から離れているオス(周辺にいるオス)と、多くの個体の近くにいるオス(中心にいるオス)とに分化して観察されることが知られている。また、このオスの空間的位置は移行する。しかし、その分化機構や移行過程はよく分かっていない。本研究では、他個体との相互行為の積み重ねとしてオスの空間的位置の差異が観察されると考え、オスが他個体から離れることになる逃避、他個体の近くにいることになる近接に着目し、(1)周辺にいるオスがよく逃避しているかどうか、(2)オスの逃避の発端となる他個体の性、(3)オスの逃避に関わる他個体との相互行為、(4)オスの逃避の発端とならない他個体とその近接について検討した。
2004年2月から8月までの7ヶ月間、嵐山モンキーパークいわたやまのニホンザル餌づけ群のうち、10才以上のオトナオス9頭を対象に個体追跡を行い、逃避、近接、攻撃などの他個体との相互行為、およびオスの空間的位置を記録した。空間的位置は、個体追跡中の瞬間サンプリングによって得た視界内の個体数などによって評価した。
その結果、よく逃避するオスとほとんど逃避しないオスがおり、(1)周辺にいるオスは中心にいるオスより頻繁に逃避し、(2)そのほとんどはメスとの相互行為が発端となって生じていた。その際、(3)メスの悲鳴によって第3者に攻撃されることがあり、こういった状況をもたらし得るメスから逃避していることが示唆された。また、(4)周辺にいるオスでも、毛づくろいや長時間近接をするメスからは逃避せず、それらのメスとの近接時には逃避頻度が低くなる傾向があり、特定のメスとの近接によってオスの空間的位置の移行が促される可能性が示唆された。したがって、オスの空間的位置にはメスとの社会関係が強く影響していると考えられる。また、観察可能なニホンザルの群れという境界についての再検討が要求される。
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宇野 壮春
セッションID: A-07
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)金華山の野生ニホンザルについて、一つのオスグループを個体識別し、継続的に観察してきた。オスグループを形成している群れ外オスは、通常生活の中で様々な社会交渉を行う。その中で極めて重要と思われるマウンティング(馬乗り行動)について、どのような状況で行われるか、交渉相手によってどう違うか、などの調査を通して、その意味を明らかにする。
(方法)2004年に出産期(5月)、夏期(8月)、交尾期(10月)にそれぞれ100時間のオスグループの観察を目安として調査をした。そして、観察されたマウンティング(以下、M行動と呼ぶ)の状況、交渉相手、その後の行動を記録した。
(結果)調査中に観察されたM行動は出産期に52回、夏期に18回、交尾期に4回の計74回だった。M行動を行った相手はオスグループのメンバー同士とそれ以外のオスに分けられた。また前者のM行動は、メンバーが共に行動している時に行われたものとメンバーが合流した時に行われたものに、後者のM行動は、メンバーと他の群れ外オスとの間に行われたものとメンバーと群れオスとの間で行われたものに分けられた。しかし、状況の違いによって様々なバリエーションも観察された。
(考察)M行動の基本的な要因は緊張の解消にあることは間違い。ただ、M行動は大きく2つに分けることができる。すなわち、ひとつは2個体が接近したときにM行動で緊張を解消し、その後両者は離れる場合、ひとつはM行動が行われたあと、緊張が解消されている状態でなければ行われない行動に移行する場合である。その行動とはグルーミング行動、ユサユサ行動、伴食行動、連れ立ち移動などである。いずれにせよ、群れ外オス間の社会交渉は個々の相互認識や過去の経歴などによっても大きく左右されていると思われる。
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広がりに影響する要因
杉浦 秀樹, 下岡 ゆき子, 辻 大和
セッションID: A-08
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)ニホンザルの2個体間の距離を測定し、群れがどのように広がっているかを推定した。
(方法)金華山に生息する野生ニホンザル1群を対象に、夏、秋、冬の3シーズンに調査した。複数の成体メスを同時に個体追跡し、観察者の持っているGPSでその位置を測定し、直接観察でその行動を活動を記録した。群れの広がりの分析には2個体間の水平距離を用いた。
(結果)調査時期によって平均的な個体間距離は変化した。これは、群れの凝集性が時期によって変化することを示唆している。また、グルーミングや長い休憩など、個体が集まりやすいと考えられる状況では、個体間距離が狭まり、移動など、群れが広がりやすいと考えられる状況では、個体間距離が広がっていることが示唆された。
(考察)群れの広がりの大きさに影響するのは、食物の利用のしかたや、交尾期にオスからの攻撃を避けるために凝集することなどが考えられる。また、群れは常に同じ大きさを保っているわけではなく、広がったり、集まったりしていることが、示唆された。
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近接の維持とコミュニケーション
下岡 ゆき子, 杉浦 秀樹, 辻 大和
セッションID: A-09
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)ニホンザルの群れはまとまりを維持したまま遊動する。群のまとまりがどのように維持されているのかは、まとまって遊動している群れからではわかりにくく、ほとんど明らかにされていない。そこで、通常サイズの群れであり、かつ長年に渡ってメンバーの安定した群れであるにも関わらず、頻繁にサブグルーピングすることが知られている金華山島のニホンザルの群れを対象として、サブグルーピングが生じた場面での発声行動に注目し、群のまとまりにコミュニケーションがどのように関わっているのかを検討した。
(方法)宮城県金華山島に生息するニホンザルA群を対象に、2004年7月に14日間の調査を行なった。2人の調査者がそれぞれ非発情のオトナメスを個体追跡すると同時に、GPSを用いて位置を記録し、10分ごとに2個体間の距離を測定した。1セッションを2時間とし、計25セッション行った。
(結果)群れがまとまっている状態は、個体間距離が250-300m以内であるときと考えてられた。そしてそれを超えて1200mまで広がるようなサブグルーピング現象が8回観察された。そして、クーコールの発声頻度が、サブグルーピングの生じる直前には平均よりも低頻度であり、サブグルーピングの生じた直後には高頻度に発声されることが明らかになった。
(考察)ニホンザルの代表的で最も高頻度に発声される音声であるクーコールが、群れのまとまりの維持と関連していると考えられた。しかしクーコールは離れた個体に対して合流を促すというよりも、近くにいる個体が離れないようにする機能があると考えられた。
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松本 晶子, パロンビット ライン
セッションID: A-10
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)人類の祖先は進化の過程のどこかで、森林からサバンナに進出した。森林に比べて過酷なサバンナでの生活は、人類の祖先に二足歩行の完成や、マニュピレーションの発達をうながしたと考えられる。サバンナでの生活をしることは、ホミニゼーションの過程を明らかにする上で重要である。本研究は、サバンナ環境に適応しているヒヒの遊動行動を明らかにする目的で、ケニア共和国(36°50'E, 0°15'N)に生息する野生アヌビスヒヒについて、集団サイズ、遊動行動に与える季節性と年変化、遊動にともなう群れ間関係について報告する。
(方法)複数の観察者によって、複数の群れを追跡し、GPSを用いて位置計測をおこなった。また、群間の親和的、敵対的交渉の記録、採食食物の記録もおこなった。
(結果)遊動ルートは水場をつなぐように、あるいは水場を中心に決定されていた。
遊動には、季節変化があった。また、すくなからず年変化もみられた。とまり場は複数の群れが共有していた。
(考察)資源が限られている場合、その資源の利用には排他的に占有する、共有するという2つが考えられる。ヒヒでは、群れは一般に排他的だが、とまり場は複数の群れで共有されていた。そこには、限られた資源を共有するルールがあることを示唆する。今後、どのような方法で共有が可能になっているのかについて、より仔細な調査が必要である。
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田中 伊知郎
セッションID: A-11
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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ニホンザルは毛づくろい中にシラミ卵をつまみ上げて食べる。その行動の形成過程B過程を調べるため、毛づくろい中におけるつまみ上げる行動について、餌付け群である志賀A-1群で横断的調査を行った。デジタルビデオカメラを用いて毛づくろい行動を撮影L録し、DVD-Rに落として、DVDプレイヤーで静止tスローを使ってつまみ上げ行動を解析した。コドモではつまみ上げた後、つまみ上げをやめ、別のところを探索することが多かったが、年齢が上昇するにつれてつまみ上げたものを食べる割合が上昇した。このつまみ上げた後でつまみ上げたものを食べる割合は年齢と相関した(Kendall順位相関、P< 0.01)。また同じ年齢群内での食べる割合の分散も年齢が上昇するにつれて、小さくなった。一方、性別による違いは見られなかった。言い換えると、コドモではよく見られるシラミ卵処理以外のつまみ上げるs動が、オトナになると毛づくろいの中で起こらなくなっていく。まとめると、毛づくろい中のつまむ行動は、大人になるにつれて、シラミ卵処理行動に収れんする。食べる割合は、子供期に個体間分散が大きく、成長するにつれて個体間分散が小さくなることから、摘み上げるものがシラミ卵になるようにニホンザルが学習獲得していくのでないかと示唆された。
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松井 猛, 杉山 幸丸, 栗田 博之
セッションID: A-12
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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1950年代の末からニホンザルの母親は、赤ん坊が死ぬとその死体をミイラになるまで保持し続ける例が知られてきた。しかし、そのような例は各地の餌付け群で観察されたにもかかわらず頻繁に見られるものでなく、したがって量的な検討に附されることがないまま、母性愛の象徴であるかのような扱いがなされてきた。餌付けで膨張した高崎山個体群では毎年200頭前後の出産があるため、母親による死児保持の例も多く、1977年から2003年までの27年間に150例が周辺データもふくめて記録されてきた。その結果、以下のことが明らかになった。
1.保持される死児は、生後1日以内の死亡(死産を含んでいる可能性あり)と1∼10日の死亡が各約33%、11∼50日が20%で、51日以上生存してから死亡した個体はわずか14%であった。平均死亡日齢は1.57日。
2.死児を保持し続けた日数は、4日以内が80%、5∼10日が18%で、それ以上では15日と17日が各1例あったに過ぎない。平均保持日数は2.93日。
3.死児を保持していた母親の年齢は6∼7歳、したがって初産である例が30%弱に達したが、平均は11.09歳(最高25歳)で、平均出産年齢であった。
4.被保持の死児は雄69、雌81頭で、その性が死児保持に強く関係している傾向はなかった。
以上の結果、大多数の例で、赤ん坊が母親に完全依存している段階で死亡したときに、保持継続の行動が起きる;死児がミイラ状になるまで保持し続ける例は稀で、3日前後で放棄する;初産の雌が多いが、必ずしも経験の浅い母親に限定されるものではない;等のことを示していた。したがってこれは、母親が新生児に対する死亡以前の行動を継続する行動であり、死児の吸乳や発声などのアクションの欠如が放棄に至らしめると推測される。
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栗田 博之
セッションID: A-13
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)餌付け個体群は一般に純野生個体群に比べ、繁殖パラメーターが高値を示す。しかし餌付け個体群間でも、食物の現存量や気象条件などの違いによって、繁殖パラメーターに大きな変異があると予想されるが、その直接的な個体群間比較はない。本研究はニホンザルを対象として、出産率と幼児死亡率の餌付け個体群間比較を行った。検証した仮説は次のとおりである。1.出産率は餌付け個体群間(以下、個体群間)で異なる。2.幼児死亡率は個体群間で異なる。3.出産率の個体群間のばらつきよりも幼児死亡率のそれの方が大きい。4.幼児死亡率の性差の表れ方は個体群間で異なる(オスの方が死にやすい個体群とメスの方が死にやすい個体群とがある)。
(方法)資料は高崎山・幸島・嵐山・勝山・箱根の5個体群についての公表文献より収集した。出産率は5歳以上の雌数に対する出生数とした。幼児死亡率は原則として、出生数あたりの生後一年以内の消失数とした。
(結果)1.出産率は個体群間で有意な違いがあった。2.幼児死亡率は個体群間で有意な違いがあった。3.出産率の個体群間の分散よりも幼児死亡率のそれの方が有意に大きかった。4.幼児死亡率に有意な性差が見られる群れはなかったが、死亡率の性差の表れ方には個体群間で有意な違いがあった。
(考察)出産率、幼児死亡率およびその性差のいずれも個体群間で違いがあった。これらはその環境条件(特に食物環境)の違いによると推測されるが、解明には環境条件についての資料収集と分析が必要である。 出産率の個体群間のばらつきよりも幼児死亡率のそれの方が大きかったのは、出産率は雌の栄養状態に大きく左右されるのに対して、幼児死亡率は雌の栄養状態に加えて個体間関係(ハラスメント)など、より多くの要因からの影響を受けるからではないかと推測される。
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伊沢 紘生, 宇野 壮春
セッションID: A-14
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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野生ニホンザルの群れが長年にわたって生息していた地域を離れ、遠隔地に新たな行動圏を構えることは、全国各地にその例が散見されるが、きちんとした記録として残されているものは数少ない。
宮城県におけるその具体的な例として、一昨年の学会大会では、群れから分かれた41頭の集団(分裂群)が、これまで全くサルの生息していなかった地域へ直線にして50?以上も大移動し、そこに行動圏を構えた事の顛末を報告した。
今回は、同じ宮城県における別の具体例として、大規模な人為的自然改変による群れの移動について報告する。それは、宮城県で最も北に生息する群れ({崎の群れで起こった出来事で、ダム建設と周辺地域の大規模森林伐採によって、群れは直線にして12?ほど移動し、市街地により近い、これまで全く群れのいなかった地域に新たに行動圏を構えた。
このような、群れの大移動の実際とその要因に関する多くの事例を丹念に集積していくことを通して、日本列島におけるニホンザルの群れ分布の歴史的変遷について、その全貌が明らかになると期待される。
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森光 由樹, 白井 啓, 岡野 美佐夫, 奥村 忠誠, 吉田 敦久, 横山 典子, 清野 紘典, 和 秀雄, 川本 芳, 大沢 秀行, 後藤 ...
セッションID: A-15
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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1950年代に和歌山市大池地区に住み着いたタイワンザルは、その後ニホンザルの雄と交雑しながら個体数を増加させていった。1998年和歌山市大池地域から南へ約20数km離れた中津村で大池地域出生のタイワンザルとニホンザルの交雑オス個体が捕獲された。大池地域からタイワンザルおよび混血ザルの分散を防ぐために、2002年より本格的に群れの除去が開始された。
(目的)タイワンザルおよび交雑個体の行動圏および頭数をモニタリングして捕獲との関係を調査した。
(方法)ラジオテレメトリー法と直接観察法により群れの行動圏と頭数のカウントを実施した。
(結果と考察)大池地域で2002年から2004年の3カ年で計243頭が捕獲除去された。調査開始1999年に確認できた群れは孟子群と沖野々群であったが、2002年には孟子群が分裂し2群に、2003年には沖野々群が分裂し2群となり計4群となった。2004年のカウント調査では孟子1群8−約30頭、孟子2群9−30頭、沖野々1群3頭、沖野々2群30頭で合計約50−80頭と予想された。沖野々1群は2004年の8月の捕獲で発信器個体を除くすべての個体を捕獲することができた。群れの除去にほぼ成功した。過去の行動圏と比較すると孟子2群は分布域を北側へ移動させた。他3群の行動域には大きな変化はなかった。過去3カ年で3月の捕獲が最も多かったが、今年度3月の捕獲は2頭のみであった。和歌山タイワンザルの捕獲は難しい状況になってきている。
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中川 尚史, 後藤 俊二, 清野 紘典, 森光 由樹, 和 秀雄, 大沢 秀行, 川本 芳, 室山 泰之, 岡野 美佐夫, 奥村 忠誠, 吉 ...
セッションID: A-16
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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本発表では,和歌山市周辺タイワンザル交雑群の第5回個体数調査の際に試みた無人ビデオ撮影による群れの個体数カウントの成功例について報告する。
カウントの対象となった沖野々2群は,オトナ雄1頭,オトナ雌2頭に発信器が装着され群れの追跡が可能であった。またこれまでの調査からこの群れは,小池峠のやや東よりの車道を南北に横切ることが分かっていた。
今回の調査3日目の2004年9月22日にも,一部の個体が道を横切るのを確認できた。しかし,カウントの体制を整えると道のすぐ脇まで来ていてもなかなか渡らない個体が大勢おり,フルカウントは叶わなかった。この警戒性の高まりは,2003年3月から始まった大量捕獲によるものと考えられる。翌23日も夕刻になって群れが同じ場所に接近しつつあったのでカウントの体制をとり,最後は道の北側から群れを追い落として強制的に道を渡らせようと試みたが,失敗に終わった。
そこで,24日には無人ビデオ撮影によるカウントを試みることにした。無人といってもテープの巻き戻しやバッテリー交換をせねばならない。また,群れが道を横切る場所はほぼ決まっているとはいえ,群れの動きに合わせてある程度のカメラ設置場所の移動は必要であった。そして,最終的に同日16時から35分間に渡って27頭の個体が道を横切る様子が撮影できた。映像からもサルの警戒性が非常に高いことがうかがわれた。
こうした成功例から,無人ビデオ撮影は,目視によるカウントが困難なほど警戒性の高い群れの個体数を数えるための有効な手段となりうることが分かる。ただし,比較的見通しのよい特定の場所を頻繁に群れが通過することがわかっており,かつテレメーター等を利用して群れ位置のモニタリングができる,という条件が備わっていることがその成功率を高める必要条件である。
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川本 芳, 庄武 孝義, 野澤 謙, 川本 咲江, 高木 直樹
セッションID: A-17
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)オス特異的遺伝子から群れや地域個体群の変異性や遺伝的分化を評価すること。
(方法)Y染色体マイクロサテライト3座位(DYS472、DYS569、DYS645)の多型を検索し、Y染色体のハプロタイプを分類した。群れの遺伝子構成の変化を調べるため、高崎山(n=146)と波勝崎(n=81)の試料を分析した。隣接群間の分化を調べるため、高崎山の2群の試料(n=132)を比較した。また、地域個体群の遺伝子変異の分布様式、変異性の地域差を検討するため、滋賀県(n=269)と宮崎県(n=133)の試料を分析した。
(結果)反復単位はDYS472が3塩基、DYS569が4塩基、DYS645が1塩基で、高崎山で7種類、波勝崎で6種類のハプロタイプが区別できた。期間の比較から、高崎山A群で有意な構成変化(G=13.65, df=4, 0.001<p<0.01)を検出したが、C群(G=6.62, df=4, 0.1<p<0.2)と全群(G=6.58, df=6, 0.3<p<0.5)の変化は有意でなかった。波勝崎でも変化は有意でなかった(G=6.99, df=3, 0.05<p<0.1)。また、高崎山の隣接群間で構成の有意なちがいは認められなかった(G=7.12, df=3, 0.05<p<0.1)。滋賀県では21タイプ、宮崎県では15タイプが区別できた。地域集団の変異性は一般に高い。変異の分布パターンはタイプにより異なり、広域分布するものと局在するものが区別できた。また、特に滋賀県では標本サイズと変異性の相関が高かった。
(考察)ミトコンドリア遺伝子とは対照的に、Y染色体の変異性は高く、時間的にないしは空間的に集団内、集団間で分化が認められた。こうした分化は、群れのような集団単位で繁殖に関与するオスの数が限られることによる遺伝的浮動と、群間のオス移住を介した遺伝子流動の相互作用で規定されると考えられる。
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Jan R. De RUITER, Yuko UEDA, Eri NAKAI, Benoit GOOSSENS, Sri Suci UTAM ...
セッションID: A-18
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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Sumatran orang-utan (
Pongo pygmaeus) numbers have plummeted in recent time. Reductions are thought to have been as much as 99% over the last 100 years. Recently numbers are estimated to have dropped from 27000 in 1997 to 3500 a few years ago (Wich et al., 2003). Therefore it is of great importance to get a good idea of the distribution of genetic variability in their last hideouts. For this purpose we collected hairs from sleeping nests, and in addition collected faecal droppings. We sequenced DNA extracted from these samples at a locus of the mtDNA: a 540 bp region of the cytochrome-b gene. Our data set comprises 44 samples of wild individuals, as well as 6 individuals from the local zoo (Medan). We compared these with 2 Bornean samples from PRI (Inuyama) and 4 Bornean sequences and 1 Sumatran sequence from GenBank. The 44 wild samples had been collected along the west coast (n=7), from Ketambe, our main study area in the interior (n=31), and from the surrounding area, including a location across a wide river (n=6). Whole sequences were used to construct a maximum likelihood tree, and to perform additional analyses. Sequences including Sumatra and Borneo were divided into two major clusters, samples originating from Sumatra and those originating from Borneo. The Sumatran cluster was divided into tree strongly supported sub-clusters comprising (a) 7 individuals from Ketambe and surroundings and 2 zoo individuals, all with a single haplotype (b) 2 slightly different zoo individuals, and (c) the remaining 39 individuals of various geographic origin and 7 haplotypes. The results will be discussed.
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平井 啓久, 松林 清明, KIM Heui.-Soo.
セッションID: A-19
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)ヒトとチンパンジーは約500万年前に分岐したと、分子レベルで推測されている。また、両種の遺伝子レベルの差は僅か1.23%と見積られ、染色体レベルでは9個の挟動原体逆位と1つの縦列融合が認められるに過ぎない。従って、ゲノムレベルの両種間の相同性は非常に高い。しかし、外部形態等の表現型は随分異なっている。では、ゲノムレベルで非常に高い相同性を持つ両種は、遺伝子以外に表現型の相違を生む機序を持つであろうか。染色体レベルでその候補として考えられるのは、チンパンジーに特異的に存在するゲノム不毛地帯である。そこで、その領域の特性と機能を分子細胞遺伝学的に解析した。
(方法)染色体上でPCRを行う方法(PRINS)でゲノム不毛地帯内に存在すると推定されるDNAを検出した。その領域をマーカーとして、チンパンジー雄の精子形成過程の減数分裂におけるキアズマ形成を観察した。さらに、遺伝子発現の状況を細胞レベルで観察するため、リボソームDNAの転写活性変異を解析した。
(結果)PRINS解析からゲノム不毛地帯は少なくとも3種のDNA族(テロメア配列、亜末端サテライトDNA、レトロ様転移因子)から構成されていることが明らかになった。また、雄のキアズマ頻度はヒトより10個程度低いことが推定された。さらに、リボソームDNAは周辺のヘテロクロマチンの位置効果によって、発現が抑制されていることが観察された。
(考察)チンパンジーのゲノム不毛地帯は構成DNAの特性から、転移性複合反復DNA機構(RCRO)と命名した。そして、このRCROが存在することで、キアズマ頻度がヒトより低下していること、周辺に存在する遺伝子の発現が偏向される可能性があることを示唆した。もしこういった現象がヒトとチンパンジーの分岐後500万年の間蓄積されてきたと仮定すると、両種の表現型の差は遺伝子の差から生まれる相違よりも大きくなる可能性がある。
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(1)-季節繁殖サルと非季節繁殖サルの比較-
清水 慶子, 伊藤 麻里子, 託見 健, 佐藤 慎佑, 渡辺 元, 田谷 一善, 林 基治
セッションID: A-20
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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哺乳類において、個体の栄養状態、とくに体重および脂肪の貯蔵は春期発動および月経周期維持との間に関連があることが知られている。主に脂肪細胞から分泌されるホルモンであるレプチンは、ヒトや齧歯類において体の成長発達や生殖機能の調節に関与していると考えられており、血中レプチン濃度は体格指数や体脂肪率と正の相関を示すことが報告されている。これらのことから、私たちはニホンザルの季節繁殖発現機構を知ることを目的として、生殖機能調節におけるレプチンの関与について調べた。
京都大学霊長類研究所の屋内個別飼育ケージにて飼育されている性成熟後のサルのうち、季節繁殖を示すニホンザル、周年繁殖を示すカニクイザルを用い、無麻酔で一年を通して採血をおこなった。得られた血漿を用いて、血中レプチン量を放射免疫測定法(RIA法)により測定した。さらにメスでは血中黄体ホルモン (LH)、エストラジオール 17-β、プロジェステロン値を、オスではLHおよびテストステロン値をRIA法にて測定し、得られたニホンザルとカニクイザルの結果について比較検討をおこなった。その結果、いずれの種も血中レプチン値はオスよりメスが高値を示した。また、周年繁殖を示すカニクイザルではオス、メスともに血中レプチン値は一年中ほぼ一定であった。一方、季節繁殖を示すニホンザルではオス、メスともに血中レプチン値に季節性変化が見られた。また、このニホンザルに見られた血中レプチン値の変動は血中ステロイドホルモン値の変動と同様の傾向を示した。
これらの結果および先行研究結果から、マカクザルにおける血中レプチン値には種差が見られ、繁殖季節と関わりがあることが分かった。しかし、他の生殖関連ホルモンのような直接的な働きはなく、単体で機能してはいない可能性あることが示唆された。
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林 基治, 伊藤 麻理子, 清水 慶子, 託見 健, 森 琢磨, 山下 晶子
セッションID: A-21
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)海馬体は、記憶、学習に関与する脳領域である。我々はカニクイザルの中枢神経系における脳由来神経栄養因子(BDNF)を定量し、海馬体に最も多く存在することを報告した(MoriT et al., 2004)。また近年BDNFはヒトのエピソード記憶に関わることが報告され(Egan MF et al., 2003)注目されている。今回、海馬体におけるBDNFの発達加齢への生理的役割を明らかにするため、その変遷過程を調べた。
(方法)胎生140日、生後7日、生後3ヶ月、生後4ヶ月、生後6ヶ月と成熟期(12才、14才)のカニクイザルと10、26、30、32才のニホンザルを用いた。2%パラホルムアルデヒド、0.5%グルタルアルデヒドで固定した海馬体の40ミクロン切片についてBDNF免疫活性を調べた。
(結果)カニクイザル歯状回顆粒細胞やCA1、CA3の錐体細胞におけるBDNF免疫活性は、胎生140日から生後6ヶ月まで順次増加し成熟期には減少した。また顆粒細胞におけるBDNFの細胞内分布変化を調べると、免疫活性は発達とともに細胞体から樹状突起に移行した。一方ニホンザルの海馬体では、10才に比較して26才以上ではBDNF免疫活性が顕著に減少した。特に30才以上の歯状回における免疫活性は10才の約1/3に減少していた。
(考察)歯状回BDNF免疫活性が、シナプス数が一過性に増加する生後6ヶ月ごろまで増加し、それとともに細胞体から樹状突起へ移行する事実から、BDNFがシナプスを介した神経回路網形成に関与することが考えられる。また脳の老化とともにBDNF免疫活性が低下したことと、アルツハイマー病海馬体のBDNF遺伝子発現の顕著な減少が観察されている事実から(Phillips HS et al., 1991)、老齢マカクサルは本脳疾患のモデル動物として重要であると考えられる。
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市野 進一郎, 川本 芳, 宮本 直美, 小山 直樹, 平井 啓久
セッションID: B-01
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)複雄複雌群を形成する霊長類のオスは、高い繁殖成功を得るうえで様々な交尾戦略をとっていると考えられる。昼行性の原猿であるワオキツネザルの群れは、サイズが15頭程度の複雄複雌群である。オナガザル類と異なり、(1)群れ内のオスとメスの数がほぼ等しい、(2)メスがオスよりも優位、(3)交尾期が非常に短い、などの特徴がある。これらの特徴は、ワオキツネザルのオスの交尾戦略や繁殖成功に影響を与えると思われるが、どのようなオスが実際に子供を残しているかはほとんど分かっていない。本研究では、マイクロサテライトDNAマーカーを用いて、野生ワオキツネザルのオスの繁殖成功がオスの属性や交尾行動とどのように関係しているかを調べた。
(方法)マダガスカル南部のベレンティ保護区に生息するC2A群を対象に調査をおこなった。C2A群は、1989年から小山直樹らによって個体識別に基づく継続調査がおこなわれており、多くの個体の年齢、血縁関係、優劣順位、滞在年数などが明らかになっている。交尾行動の観察は1998年と1999年の交尾期におこなった。遺伝子分析に用いた試料は、1997-1999年の捕獲調査で採集された血液から調製したゲノムDNAで、マイクロサテライトDNAの多型を検索し、父性を判定した。
(結果と考察)メスが発情した時、オスどうしは激しく争い、優位なオスが必ずしも最初に交尾したわけではなかった。1998年と1999年にC2A群で生まれ、1年間以上生存した5頭の個体の父親が決定できた。これら5頭の父親は、中順位のオスで、最初に射精したと思われるオスだった。このように、最初に交尾することがワオキツネザルのオスにとって最も重要な交尾戦略のようだが、優位なオスが必ずしも最初に交尾できるわけではないようだ。
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西江 仁徳, 西田 利貞
セッションID: B-02
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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マハレM集団で2003年末に起こったアルファ雄の失踪とその後の順位下落に至る経過について報告する。1997年から約6年にわたってM集団のアルファ雄だったファナナ(推定26歳、2004年9月現在、以下同じ)は、2003年11月26日の観察を最後にM集団から姿を消し、以後おもに単独で遊動するようになった。ファナナの失踪後、M集団ではそれまで第2位だったアロフ(22歳)がくりあがってアルファ雄になったが、ファナナとの直接遭遇は長く観察されず、ファナナとアロフの優劣関係は不明瞭なままであった。
2004年4月16日、ファナナの失踪後はじめてファナナとアロフを含む集団の遭遇が観察された。このときファナナに対してボノボ(22歳、第3位雄)が威嚇や突撃誇示をしたが、アロフはファナナに対して服従的な態度を示し、他の多くの個体もアロフにではなくファナナにパントグラントを発した。この日の夕方までファナナは「アルファ雄」としてこの集団と共に遊動していたが、翌日からまたファナナはM集団から姿を消し、再び単独遊動生活に入った。
2004年8月25日、4月以来はじめてファナナとM集団ほぼ全員を含むパーティの遭遇が観察された。このときはオトナ雄全員がファナナに対して威嚇・突撃誇示をし、一部の雄は直接攻撃もおこなった。ファナナはアロフとマスディ(27歳)、プリムス(13歳)の3頭の雄に対してパントグラントを発し、アルファ位から陥落したことが確認された。
本発表では以上2つのファナナとアロフを含む集団の遭遇事例を中心に、その前後のファナナをめぐる社会交渉を含めて、野生チンパンジー社会における「アルファ雄」とはどのような社会現象として捉えられるのか、という視点から考察する。
この研究は、科学研究費基盤研究A(16255007、代表者:西田利貞)と21COEプログラム(A14、代表者:佐藤矩行)によっておこなった。
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島田 将喜
セッションID: B-03
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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パント・フート(PH)はチンパンジーに種特異的な音声であり、オスもメスもClimaxを伴うPHを発声する。PHを発声する機能については遠距離にいる特定の他個体をリクルートする機能や、採食場の情報を遠距離の他個体に伝える機能などの仮説が考えられているが、これらは基本的にPHが長距離伝達用の音声であることを仮定している。
しかし、実際のPH発声行動は近くにいる仲間の発声に自分の声を重ね合わせる場合(コーラス)が多い。この現象は、PH発声行動は、長距離にいる他個体に対してだけではなく、近くの個体の発声といった要因にも影響を受けることを示唆し、これはPHがもつ長距離伝達用音声としての側面だけでは説明できない。
本研究では、タンザニア・マハレ山塊国立公園で2001年度に実施した、個体追跡法により収集されたオスメス8個体づつのデータをもとに、追跡個体と他個体のPHが同時に発声されるコーラスに特に注目し、コーラス・パートナー間の社会関係やそれが生じる社会的状況を定量的・定性的に分析することで、複雑なコーラス現象の説明を試みた。
オスの方がメスよりもPHの頻度は高かったが、どちらの性も約半数のPH発声行動が他個体とのコーラスであった。オスはオス同士、メスはメス同士でコーラスすることが多く、オスのPHにメスがコーラスする場合の多くが、アルファ・メールのPHに対するものだった。
離合集散するチンパンジーのグルーピング・パタンの性差などを考慮に入れると、共にいることが多い性同士がコーラスをしていると解釈できる。これらの結果からPHをコーラスすることを積極的に説明する作業仮説として、コーラスしているその関係をを顕在化する機能がある、という仮説を考えた。顕在化することの利益のひとつは、コーラス・パートナーとの社会的関係を強めることであると考えられる。いくつかの定性的な証拠もまた顕在化仮説を支持するものであった。
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村井 勅裕
セッションID: B-04
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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ほとんどの霊長類では雄が自出群を出て雌は群れにとどまるというのが一般的であるが、一部の種では雌も自出群を離れるということが報告されている。テングザルは単雄群をつくり、生まれた全ての雄が群れを出てソリタリーになるか雄グループを作ることが知られているが、雌に関しても群を移動することが報告されている。本研究では、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川流域で1999年から2002年までの約3年間の研究で直接観察されたテングザルにおける雌の群の移籍について発表する。調査期間中雌の移籍を直接観察できたのは移籍が成功したのが3例、移籍が失敗したのが3例であった。群間移動の失敗例3例のうち、2例は大人雌がそれぞれの群の雄によって連れ戻され、残りの1例は若い大人雌が移動しようとした群の雌からの抵抗によって新しい群に入れないものだった。ただし、この時雄による連れ戻しは見られなかった。雄による連れ戻しは、雌への直接的な攻撃は見られず、音声によるものだけだった。また、成功例3例のうち、2例は若い雌で、移籍後にすぐに交尾をした。残りの1例は特殊な例で、子供を持つ母親がその子供を雄グループに残し、新しい単雄群に移籍した例である。成功例3例とも雄による連れ戻しは見られなかった。全体的として、大人雌に関しては元の群れの雄による連れ戻しがあり、若い雌に関しては連れ戻しが行われなかった。このことから、若雌の群の移籍は父親との近親交配を避けるために行われ、大人雌に関しては何らかの選択がかかったのではないかと推測される。
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久世 濃子, 幸島 司郎
セッションID: B-05
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)アフリカ大型類人猿では凝視行動が様々な社会的機能をもつことがすでに報告されている。しかし、単独性の強いオランウータンの凝視行動については、ほとんど知られていない。そこで本研究では、リハビリセンター出身の半野生個体を対象として、オランウータンの凝視行動の特性とその社会的機能を明らかにすることを目的に調査を行った。
(方法)リハビリテーション出身の3歳∼22歳の計36個体(コドモ24頭、ワカモノ8頭、オトナ4頭)を対象として、2000年∼2004年にリハビリセンターに隣接する森林内で観察を行った。1日に1個体を追跡し、ビデオカメラで行動を記録した。「凝視行動」を「静止した状態で3秒以上、視線を固定する行動」と定義し、次の3つに分類した。Staring:30?以上離れた相手を凝視、Peering:30?以内にいる相手の顔または手元を凝視、Mutual Gazing:同時に互いの顔を凝視。
(結果)StaringとPeeringの平均継続時間は9秒であった。また、Mutual Gazingはわずか7例しか観察されなかった(Staring484例、Peering341例)。Staringは社会交渉や採食をしている個体を対象に行われることが多く、Staring後は対象個体への接近等が観察された。また、Staringを行った個体の年齢によって、対象個体の年齢や行動に違いが見られた。また、Peeringは採食または社会交渉(遊び)をしている個体を対象とすることが多く、Peering後は食物の強奪や遊び、「隣で同じ物を食べる」という行動が観察された。
(考察)Staringは他個体に対する社会的な関心を反映している行動であると考えられる。また、Peeringは「食物や社会交渉」及び「近接することへの寛容」の懇願など、アフリカ大型類人猿と同様な社会的な機能を果たしていると考えられる。
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山崎 彩夏, 武田 庄平, 黒鳥 英俊
セッションID: B-06
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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野生下では昼夜地上から10-20mの高さで過ごす事が多く樹上性の大型類人猿であるオランウータンは、飼育下においても立体的空間の中で自発的に上層部を好み、行動のタイプ別に利用する空間を使い分けている事が知られている。この様に全ての動物種は各々の生態状況に応じて特異的な形態適応・生理学的適応を遂げ、加えて行動学的性質との総合された結果として種としての独自性を持つに至る。またこの独自性こそが、動物にとって最重要となる生存・繁殖の為に、限られた時間をどのようにやりくりするのかを決定づける要因となり、その自発的に決定された時間の配分パターンは我々に様々な示唆を与えてくれるであろう。本研究では東京都日野市の東京都多摩動物公園で飼育されるボルネオオランウータン3個体、ジプシー(メス、48才)、チャッピー(メス、31才)、ポピー(オス、4才)の3世代に渡る母子を対象として、それまでの比較的平面的な旧飼育施設から、平成17年3月に完成した、高さ12m長さ150mを超える空中施設「スカイウォーク」を含め立体的広がりを持つような新オランウータン飼育施設に移動した場合、各対象個体が展示時間内に採食・休息・移動にあてる時間の配分、そして利用空間の在り方が、従来の飼育施設と比較してどのように変容し新環境に適応を遂げてゆくのか、その行動観察の第一報を報告する。恐らくオランウータンにとってより必需な行動ほど、より時間配分レベルの変化量が少ないまま維持されると推察される。さらにはこれまで潜在的欲求としては存在するが環境要因的に表出されなかった行動が増加する可能性もある。行動時間配分の変化を比較する事で飼育下オランウータンの生活において、どの行動の比重がより高いのかも示す事ができるだろう。
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丸橋 珠樹, 鵜殿 俊史, 黒鳥 英俊, 井口 基
セッションID: B-07
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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野生チンパンジーは、野生・飼育下でも、果実や地上性草本のワッジ採食を頻繁に行う。しかし、野生オランウータンではわずかの例しか報告されていない。大型類人猿の前歯は後歯に比べて大きく、果実採食への適応として意義づけられてきた。しかし、Pickford (2005)は、化石類人猿、化石人類、現生大型類人猿の比較研究の結果、チンパンジーの相対的前歯の大型化は肉食への適応であると論じた。
本研究では、大型類人猿にみられるワッジ採食の進化史的位置付けを検討するため、(1)チンパンジーとオランウータンとの種間差、(2)ワッジ採食技術の年齢による発達、(3)性差などについて、サトウキビの給餌実験を行った。
チンパンジーでは、個体によってサトウキビの嗜好性が異なり、少ししゃぶって捨てるものから繊維まで飲み込むものまで様々だった。ほとんどの個体の摂食方法は同じだった。1:折り曲げながら口に入れる。2:奥歯で噛み吐き出す。3:吐き出した繊維をまとめ口内または口先で絞る。4:口先で折り曲げたり回転させたりしながら、出し入れを繰り返す。果汁吸収率に年齢差、性差は見られなかった。
多摩動物公園のオラヌータンでワッジを回収できたのはオトナオスだけであった。他の個体は、サトウキビを噛みすべてを飲み込んでしまった。オランウータンの果汁吸収率は、チンパンジーより少し高かった。また、チンジーのワッジでは、繊維は噛み切られた程度だったが、オランウータンでは細かく噛み砕かれていた。チンパンジーに比べてオランウータンの奥歯サイズが大きいことと側頭筋力が相違することが原因だろう。
東京都檜原村に生息するニホンザルにおいても、直接観察はできなかったが、ワッジ採食を行うと推測できた。2005年の冬期間に、土留めとして植栽された外来植物を採食したワッジを多数回収したので合わせて報告する。
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岡本 暁子
セッションID: B-08
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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優位オスが劣位オスと妊娠可能性の高いメスの近接を発見すると、その優位オスはそのペアに対し攻撃を加えることが、さまざまな種で報告されている。このような攻撃は協力的な個体間関係に影響するパニッシュメントと考えることができる。では、優位オスは劣位オスとメスのどちらを攻撃すべきであろうか。交尾を妨害するためだけなら、オスを攻撃してもメスを攻撃してもよいように思われる。本研究では、この状況を優位オス、劣位オス、メスの3者のゲームとして解析した。それぞれのプレイヤーの立場でどのような戦略がどのような条件のときに進化的に安定な戦略(ESS)になりうるのかを解析的に検討した。そしてその条件のときにそれらの戦略が実際に進化しうるのかをコンピュータ・シミュレーションで検討した。その結果、優位オスが劣位オスとメスの交尾の妨害をする場合、オスを攻撃するコストがメスを攻撃するコストより高くても、オス攻撃が進化する可能性があることが明らかになった。またオス攻撃が進化する上での一つの大きな鍵が、メスの従順ではない戦略にあることが示唆された。
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横山 浩
セッションID: B-09
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)飼育下のニホンザルを適正に飼育管理するためには個体数調整が不可欠である。しかしその方策としての余剰個体の搬出は最小限に留めるべきである。千葉市動物公園ではオトナメス(飼育頭数10∼20頭)へのホルモン剤のインプラントなどの避妊措置を実施してきたが、インプラントを行うヒトにもされるサルにも負担が重く、確実で負担が軽い方法として、ニホンザルの季節繁殖性に着目した、オスメス別居飼育による繁殖制限を中心に個体数調整を行ってきた。
(方法)1998年から完全繁殖制限のため、交尾期の始まる10月中旬からオトナオス(1∼2頭)を群れからはずし、室内ケージで別居飼育した。交尾期終了と共に、ふたたび群れに戻した。この方法で2001年まで行った。2002年は繁殖制限しなかった。2003年からは少数繁殖を目的として2∼3頭のオトナメスを選抜し、室内ケージでオトナオスと同居させて交配を試みた。
(結果)上記の方法により、1999年から2004年までの総繁殖頭数を9頭、年平均1.5頭に抑えることができた。(これ以前の年平均繁殖頭数は6頭)。また室内ケージにおいて少数繁殖が可能なことが確認できた。当初懸念されたオトナオス不在による群れの乱れや、移動に伴う激しい攻撃的行動も発生しなかった。一方で交尾期が長引き(別居飼育終了後の3月に交尾例あり)、別居飼育の期間を4月過ぎまで延長する必要があった。
(考察)上記の方法は単純、確実ではあるが、オトナオスが多数である場合、多くの飼育スペースが必要になりまた、別居飼育期間が半年近くに及ぶなどの難点がある。一方、個体選抜による交配を行うことで、近親交配を避け、計画的繁殖に基づいた個体数調整を行うことも可能である。しかしながら個体数調整を単一の方法で行うには限界がありいくつかの方法と併せて行う必要があると考えられる。
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-地域農業の多元的価値と猿害-
鈴木 克哉
セッションID: B-10
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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野生動物の被害管理においてhuman dimensions(人間側の諸要因)を取り扱う必要性は従来から指摘されている。しかしこれまでの日本の管理政策は,被害を与える野生動物の管理手法に主眼が置かれており,被害を受ける人間側の諸要因が考慮されることはほとんどなかった。本発表では,青森県下北半島の北限ニホンザルによる農業被害問題を事例に,行政主導により設置された電気柵が農家に適切に管理されず効果を失った問題について,その社会的背景と地域住民の意識から考察する。青森県下北郡佐井村では1991年ころから野生ニホンザルによる農業被害問題が発生し,1994年から県あるいは国の補助事業として電気柵の設置を開始した。電気柵は被害頻発農地から優先的に全額行政負担で設置されているが,農家に対する聞き取りを行った結果,電気柵に対する反応は,1.導入段階,2.管理への積極性,3.問題と直面した際の対応,の各段階で異なっていることがわかった。特に地域社会の土地所有制度が関わる問題は電気柵の積極的な管理を妨げる要因となっており,それを克服して管理を徹底している農家は稀であった。これらの電気柵管理に対する意識・行動の多様性が生まれる背景としては,農業の地域的特性が考えられる。当地ではほとんどの農家は家庭菜園を主とした趣向的な自給農業であるが,各個人の農業への関わり方や意義は多様であり,必ずしも経済主義的な生産性が重視されるわけではない。一方で電気柵による対策事業の目的は“食害”(=物質的な農作物の損失)防止に終始しており,地域農業の多元的価値に必ずしも適合していないと考えられる。対象種に対する生態・行動学的な見解を元にした食害防除の方向性に加え,被害を受ける農家の「被害意識」の実態を明らかにし,獣害に対して地域がどう対応した社会システムを形成していくべきか検討しなければならない。
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相見 滿
セッションID: B-11
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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これまで、霊長類の共通祖先は夜行性だとおもわれてきた。しかし最近になり、錐体視物質の研究や、化石の研究にもとづいて、昼行性だったという説があらわれてきた。一方、霊長類の活動リズムにも、夜行性と昼行性だけでなく、夜も昼も動き回るという周日行性(cathemerality)が加えられた。
そこで今回、曲鼻類の活動リズムと、錐体視物質の種類と色覚、タペタムの有無の関係を調べ、化石の資料を参考にし、霊長類の共通祖先の活動リズムを復元した。
夜行性のものはすべて、タペタムを備え、その色覚は2色性である。昼行性のエリマキキツネザル(
Varecia variegates)はタペタムを欠き、一方、シファカ(
Propithecus coquereli)はタペタムを備えるが、ともに、その色覚には2色性と3色性の多型がみとめられる。周日行性のものはすべて2色性で、タペタムを欠くものがある。
霊長類のタペタムはすべて、細胞性で、リボフラビンが有効成分とされている。夜行性のものはもちろん、昼行性、周日行性のものにもみとめられる。色覚はすくなくとも2色性であり、なかにはシファカのように3色性を示すものもいる。かつて、霊長類の共通祖先もタペタムを備え、2色性をしめしていたものと思われる。
共通祖先が夜行性だったとしたら、なぜ2色性か?昼行性だったとしたら、なぜタペタムをそなえるのか?現生の哺乳類で最も多い、周日行性だったとしたら、なぜタペタムを失ったものが現れたか?化石では、曲鼻類の最も祖先的なものとして
Notharctusがあげられるが、昼行性だったとされる。まだ、解決すべき問題が山積している。
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濱田 穣, 後藤 俊二, マライヴィジットノン スチンダ
セッションID: B-12
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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Rhesus macaques inhabiting Indochinese Peninsula, especially the “boundary zone” lying approximately 15-20°N, are supposed to be hybrids between pure rhesus and long-tailed macaques, as shown by the longer tail (50-60 % of Head & Trunk Length; Fooden, 2000) or by the sequence of mtDNA and TSPY gene (Tosi
et al., 2003). However, the determination of morphological and genetic characters by on-site samplings from local populations has never been done. We carried out catch-&-release survey on three rhesus troops inhabiting northeastern Thailand (N 16° 27’ – 18°30’), Wat Tham Pa Mak Ho (WTPMH), Ban Sang School (BSS), and Wat Pattanajit (WPT). Comparative data were rhesus (Chinese origin, CH) and long-tailed macaques (lower northern Thailand, TH). Rhesus macaques of CH are the largest in body mass (BM) and crown-rump length (CRL), and the size order in percentage of CH is from WTPMH, WPT, BSS to TH (BM: 82, 61, 57 and 60%, CRL: 87, 85, 81 and 80%, respectively). Relative tail length against CRL (%) varies widely from CH (36.5%), WTPMH (53.9%), WPT (64.7%), BSS (69.4%), to TH (112.5%). The pelage color also varies widely as shown by the contrast (difference) of red-green hue (b*) between the back and waist. The so-called bipartite pattern was found in CH (4.79) and WTPMH (6.37), but was not in TH (1.48). BSS (3.98) and WPT (2.63) were intermediate. Analysis of mtDNA offered intriguing results, that is, BSS and WPT had a “mulatta type” as CH, but WTPMH had a “fascicularis type” as TH. Interestingly, only the “mulatta type” of TSPY gene was found in five groups compared. Our morphological and genetic analysis suggested more or less of the introgression between rhesus and long-tailed macaques inhabiting northeastern Thailand. The degree and manner of gene-flow are of importance for the elucidation of evolution of these two species.
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-それは本当にオマキザル科で一番原始的なサルなのか?-
小林 秀司, 名取 真人
セッションID: B-13
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)モデステゥスティティ(
Callicebus modestus)は、オラーラ兄弟が1937年にボリビアのエル・コンスェーロ付近で捕獲した1成獣、1亜成獣の標本をもとに、E・レーンバーグが1939年に新種として記載したティティの一種である。ところが、本種は、原記載以来全く捕獲されておらず、しかも、生息地の森林が開発によって消滅したことで絶滅が示唆されるなど、もっとも稀少な霊長類の一つともいわれていた。このモデステゥスティティは、注目すべきいくつかの特徴を持ち、たとえば、ハーシュコヴィッツ(1990)は、脳容量がオマキザル科中でもっとも小さいなどの形質から、オマキザル科でもっとも原始的な種として位置づけた。しかし、この研究に用いられたのは、タイプ標本の一個体だけであり、しかも頭蓋の形状があまりにもティティ類一般とはかけ離れていたため、突然変異ではないかという指摘も出ていた(Kobayashi 1996)。このたび、著者らは、ストックホルム自然史博物館での新世界ザル標本の調査を行い、新たに一連のモデステゥスティティと思われる標本を発見した。さらに、これら標本を用いて、いったいモデステゥスティティとはどのような霊長類なのか解明を試みた。
(方法)発見された一連の新標本の、毛皮、頭骨、歯について、モデステゥスティティのタイプ標本並びに、類縁種であるドナコフィルスティティとの形態学的比較を行った。
(結果)発見された一連の新標本の形質を検討した結果、まず、毛皮標本からそれらの個体がモデステゥスティティであることが確認された。つぎに、頭骨の計測値に基づく分析結果では、タイプ標本の値は、新たに発見された標本類が示す値と明らかに異なっており、ドナコフィルスティティと近いものであることが示された。
(考察)モデステゥスティティのタイプ標本は、Kobayashi (1996)が指摘したように、著しく変形したミュータント的な個体であると考えられ、本来のモデステゥスティティは、やはりKobayashi (1996)が分析したようにドナコフィルス・グループの一種であることが明らかになった。
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高井 正成, E. マシェンコ, 樽 創, 小泉 明裕, 岩本 光雄, 長谷川 善和, 鍔本 武久
セッションID: B-14
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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中央アジアのバイカル湖南東のウドゥンガUdunga地域およびモンゴル北部のシャーマルShamar地域の鮮新世後半(約350∼250万年前)の地層からは、コロブス類のものと思われる化石がみつかっている。1980年代に発見されたこれらの化石は、当初現生のリーフモンキーと同じ
Presbytis属として記載されたが、その後新しい化石属
Parapresbytis属として再記載された。下顎骨の形態的特徴からヨーロッパの鮮新世の地層から見つかっている
Dolichopithecus属に近いと見なす研究者が多く、同属内の
Parapresbytis亜属とされることもある。本研究では、この
Parapresbytisの分類学的位置とユーラシア大陸北部におけるコロブス類の進化に関して、ヨーロッパの
Dolichopithecusおよび日本の神奈川県から見つかっているコロブス類の頭骨化石(「中津標本」)と比較して検討した。
ウドゥンガとシャーマルの化石の年代は、それぞれ約350万年前と約280万年前と推定されていて、その年代には約70万年の差がある。しかし両者の下顎歯列の形態は互いによく似ており、両者が同じ種であることを示唆している。一方、ヨーロッパの
Dolichopithecusや日本の「中津標本」と比較すると、
Parapresbytisの上下顎切歯の臼歯に対する相対的なサイズが大きく、四肢骨の形態も明瞭に違っている。
Parapresbytisは
Dolicihopithecusや「中津標本」とは別属である可能性が高い。
このころのバイカル湖周辺の古環境は、チベット高原の隆起に伴い比較的湿潤な森林から乾燥化していく過程にあったらしい。
Parapresbytisはアジア大陸の寒冷化・乾燥化による環境悪化により絶滅してしまったと思われる。
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2004年度調査における展開
中務 真人, 国松 豊, 辻川 寛, 山本 亜由美, 酒井 哲弥, 實吉 玄貴, 沢田 順弘
セッションID: B-15
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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近年6Maに遡る初期人類が発見され、人類・チンパンジー分岐後の様相の解明が進むかと期待されている。ところが、人類と現生アフリカ類人猿の最後の共通祖先の姿を巡る手がかりは、1982年のサンブルピテクスの発見以来、事実上増えていない。チンパンジー、ゴリラの分岐年代を巡っては、最近の分子生物学的研究の多くは、誤差を含んで5-8Maの中に考えるものが多いようである。いずれにしても、後期中新世のアフリカ類人猿化石資料が最重要である。この点で、9.7Maのサンブルピテクスの重要性は極めて高いものの、その追加標本は未だ発見されていない。
こうした状況を打破するために、演者らは2002年にプロジェクトN(ナカリ)を開始した。ケニア、ナカリ山周辺は、後期中新世の動物相を産出することが知られていたが、本格的な発掘、地質学的調査はこれが始めてであった。三度目の調査となる今回、新たに16の化石サイトを加えるとともに、これまでの全化石標本数をゆうに越える300点の標本を収集した。これまで収集された化石の状態は断片化が進んでおり、中型以上の動物の資料が中心であったが、今回は発掘に適したいくつかのサイトも発見し、中型以下の動物資料も発掘・収集した。資料数から見ればウシ科、キリン科、サイ科、イノシシ科、ヒッパリオンなどが多数であった。これまで、数点のコロブス類化石がナカリから報告されていたが、これをはるかに越えるコロブス類の化石が収集されるなど、霊長類化石にめざましい充実が見られた。低歯冠のウシ科動物やコロブス類の存在、サイ科やヒッパリオンの臼歯の咬耗パターンがブラウジングを示唆することから、比較的樹木の茂った環境であったことが推測される。
なお、調査は京都大学大学院理学研究科生物科学専攻21COEプログラム(A14)、科学研究費補助金(基盤B)16370104の補助を受けた。
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井上 陽一
セッションID: B-16
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)テナガザルの歌の構造や意味を明らかにする。
(方法)2004年8月3日、マレーシア・サバ州・ダナムバレー保護区で、あるミューラーテナガザル家族(S家族)が隣の家族(A家族)と縄張り境界で30mの距離を挟んで歌い交わすのが観察され、そのやりとりを録音・分析した。
(結果)5:48∼ 6:59の経過を以下に示す。
(1)5:48∼ 6:07:双方の雄が歌い交わす。
(2)6:07∼ 6:32:A・雌がグレートコールを12回歌う。この時A・雄の声も交じる。
(3)6:32∼ 6:40:双方の雄が歌い交わす。
(4)6:40∼ 6:47:S・雌がグレートコールを8回歌う。
(5)6:51∼ 6:59:A・雄が弱々しい声で歌う。
(6)その後A家族は自分の縄張りに戻り、S家族はそれを追って約100m相手方に侵入した後、自分の縄張りに戻った。
上記のうち、(1)と(3)の雄のやりとりを分析した。両者全106回のコールは多様で、同じものは一つも再現しなかった。(1)では双方が69回コールしたが、重なったのは6回のみ(17%)、(3)では37回コールしたが、重なったのは6回(32%)だった。双方の全ての音素989個のうち1000Hz以上の音を含むものの割合は、A・雄では、(1)60%、(3)58%と同じだったが、S・雄では(1)53%、(3) 5%と変動した。連続音を含むコールは、(1)(A/S:12/2)(3)(A/S:4/0)とも、A・雄の方が多かった。
(考察)ミューラーテナガザルの歌は、waとooの二つの音素で構成されるが、それに加え雄ではwa-oo、雌ではoo-waという合成音素が含まれる。雄のコールや雌のグレートコールがほぼ重ならず交互に歌われたことは、彼らが何らかのやりとりをしていたことを示す。これまでの観察を総合すると、テナガザルはコール頻度、音素の組み合わせ、声の強さ、高低、リズムや抑揚の変化、連続音の有無などによって歌に意味を持たせていると考えられる。
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西田 利貞
セッションID: B-17
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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タンザニアのマハレ山塊国立公園で、チンパンジーの遊び行動を観察した。哺乳類の遊びは、通常「移動・回転遊び」、「物体遊び」、「社会的遊び」に分けられる。「回転遊び」の範疇に入るチンパンジーの遊びには、地上では「前方でんぐり返し」、「後方でんぐり返し」、「側方でんぐり返し」、「「サークル」、「ハングサークル」、「ピルエット」の6型、樹上では「逆上がり」、「片手ハングサークル」、「スロースポジション」、「ブランコ」、「ジャンプ」の5型がある。ピルエットは、胴体を回転させつつ直線状に移動していく運動である。2歳頃から見られはじめるが、初めのうちは半周で転倒し、3歳になってやっと転倒せずに1回転できるようになる。熟達するのは5歳頃で、10回以上連続して、しかもまっすぐ進むことができる。ピルエットはオトナのチンパンジーには見られず、最年長記録は7.5歳だった。ピルエットは、将来の種内闘争と捕食者からの逃避に役立つと考えられる。オスの方がメスよりよくおこなうことは、この仮説を支持している。本研究は、科学研究費補助金基盤研究A(#16255007代表者西田利貞)によりおこなった。
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橋本 千絵, 古市 剛史
セッションID: B-18
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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(目的)これまでの調査で、カリンズ森林M集団のチンパンジーにおいて、メスの交尾頻度が非常に高いことを観察されてきた。発情メスは、1時間に2回以上という高頻度で交尾を行い、あまり採食をせず、交尾と休息を繰り返す。このような高頻度で交尾を繰り返す期間は、1∼2週間続くことが多いが、メスにとってかなりコストがかかっていると考えられる。本研究では、発情メスと非発情メスを同じ方法で追跡し、その行動を比較することによって、発情のコストがどのくらいあるのかを検討する。
(方法)ウガンダ共和国カリンズ森林保護区に生息するM集団のチンパンジーを対象に、2001年∼2004年にかけて調査を行った。M集団には、2004年の調査時において、オトナのオス19頭オトナメス20頭を含む合計61頭の個体がいた。オトナのメスを個体追跡し、5分毎に行動と10m以内にいる個体の名前と行動を記録した。遊動に関しては、GPS(エンペックス社map21ex)を用いて、1分毎に記録した。追跡個体を追っている1時間毎に観察された個体についても記録し、1 hour party size(Hashimoto他、2001)とした。
(結果)結果については、現在分析中であるが、発情メスはオスを多く含むパーティで遊動することが多いのに対し、メスは母子パーティやメスを多く含むパーティで遊動することが多かった。1日の行動割合やパーティのサイズや構成、遊動の違いなどについて分析したい。
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山極 寿一, バサボセ カニュニ
セッションID: B-19
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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これまで、ゴリラの食性をめぐって典型的な葉食者(マウンテンゴリラ)と季節的な果実食者(ニシローランドゴリラ)という二つの異なる特徴が知られている。この食性の相違は環境条件(山地林と低地熱帯雨林)を反映しているので、どちらがゴリラにとって主要な特性なのか、なかなか見極めることが難しい。私たちがここ10数年にわたって継続調査をしているコンゴ民主共和国カフジ・ビエガ国立公園のヒガシローランドゴリラは、ちょうど両植生帯の中間に当たり、1年のうちの短い期間果実が豊富に実る。ゴリラは好む果実が得られる時期は果実をよく食べ、少なくなると葉や樹皮など繊維質の食物を多く食べる。しかし、毎日寝場所から次の寝場所までゴリラ1集団の新しい通跡をたどってみると、果実の有無に関係なく年間を通して摂取している葉と樹皮が数種類あることがわかった。さらに、1日に集団で採食する食物の種類数にはほとんど月間変化が認められなかった。また、ゴリラは果実期になると遊動距離を伸ばして多くの果樹を渡り歩く傾向があった。これは、特定の果樹を繰り返し利用するチンパンジーとは対照的な特徴であり、主要な葉や樹皮を摂取する必要性から生じていると考えられる。これらの観察から、ゴリラは「果実を好む葉食者」と見なすべきである。
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小川 秀司, 伊谷 原一
セッションID: B-20
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
会議録・要旨集
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タンザニアにおけるチンパンジー(
Pan troglodytes)の生息地の現状について報告する。
1960年代に行われた調査によると,東アフリカのタンザニア西部にはヒガシチンパンジー(
Pan t. schweinfurthii)がタンガニイカ湖に沿って,ゴンベ国立公園・リランシンバ地域・マハレ国立公園からカサカティやフィラバンガを経てチンパンジー分布の東限であるウガラ川に至る地域一帯(カロブワ地域・マハレ国立公園・ムクユ地域・マシト地域・ウガラ地域)・ワンシシ地域で生息しているとされていた(Kano, 1972)。われわれは1994年から2003年までにタンザニア各地で聞き込み調査やベッドセンサス等の広域調査を行い,これらの地域には現在でもチンパンジーが生息していることを確認してきた。またルクワ南西部のルワジ地域においてチンパンジーの新たな生息地を発見した(Ogawa et. al, 1997)。
しかしながら,現在タンザニアの国立公園以外の地域では,木材利用のための特定樹種の伐採とそのための道路の拡張,他国からの難民や道路沿いに移住してきた人達による畑の開墾・薪炭燃料確保のための樹木の伐採・チンパンジーや他の動物を対象とした密猟,鉱山会社による鉱物資源の調査等,様々な人間活動が活発に行われている。そのため,チンパンジーの生息密度や生息状況はこれらの人間活動から多大な影響を受け,チンパンジーの生息環境は悪化しつつあることが予想される。タンザニア西部の乾燥疎開林帯におけるチンパンジー存続の可能性を探り,早急に対応策を講じることが望まれる。
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五百部 裕, ンドゥンダ ムワンザ
セッションID: B-21
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的)野生ピグミーチンパンジー(
Pan paniscus)は、コンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)のみに生息している。彼らの野外研究は1970年代から本格的に行われてきた。しかし1990年代半ばより、この国の政情が悪化し、ピグミーチンパンジーの野外研究は中断を余儀なくされた。こうした中、2003年に休戦協定が結ばれ、国内の情勢は落ち着きを取り戻しつつある。一方こうした不安定な政治状況下でピグミーチンパンジーの密猟は増加していると推測されており、個体数の減少が危惧されている。そこでこの研究では、長期継続調査が行われてきたワンバ村を含むジョル地区周辺で現地調査を行い、野生ピグミーチンパンジーの現状を把握することを目的として行った。
(方法)2004年8月に現地調査を行った。この調査は、ワンバ村を出発点とし、ジョル、リンゴモ、モンポノ、ベフォリといった町や村をバイクで回り、ワンバ村に帰るという行程で行った。そして途中の村でピグミーチンパンジーの生息状況や村人の森林利用についての聞き込み調査を行った。
(結果と考察)聞き込みを行ったすべての地域でピグミーチンパンジーは食用に供されており、ワンバ村のように伝統的にピグミーチンパンジーを食べない習慣を持つ村は存在していなかった。そして、調査地域内のほとんどの場所で、内戦前に比べ、ピグミーチンパンジーの個体数は減少している可能性が高いことが明らかになった。
一方、リンゴモとモンポノの間のロマコ川周辺とドゥアレ川とヤンボヨ村の間の二つの地域に、人手のあまり入っていない大きな森林ブロックが残っていることが明らかになった。そしてこれらの森林ブロック周辺の住民に対する聞き込み調査から、これらの地域のピグミーチンパンジーの生息状況は、他の調査地域に比べ良好であると推察された。
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中山 一大, 石田 貴文
セッションID: C-01
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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霊長類における精液凝集の程度は系統間で異なり、チンパンジーのような複雄複雌群の種ではより強固な凝集が観察されることから、繁殖構造の多様化と関連して進化してきた形質であることが示唆されている。セミノジェリン1タンパク質(SMG1)は、精液中に多量に存在し、トランスグルタミナーゼの標的部位を有する60アミノ酸のリピートを含む独特の構造を持っている。SMG1は凝集構造物の主成分であり、また60アミノ酸のリピート数が霊長類各種における凝集の程度と相関を示すことから、精液凝集の多様性の原因と考えられているが、実験的な証明は成されていなかった。本研究では、霊長類各種におけるSMG1の生化学的性質と精液凝集との関連性を明らかにするために、セルフリー翻訳系を用いてヒトならびにチンパンジーのSMG1を合成する実験系を確立した。SMG1のC末端に、Lumio Green蛍光色素と結合し、合成タンパク質の特異的な検出を可能にするタグ配列を付加した鋳型DNAを用いて、
in vitroタンパク合成反応を行い、合成反応後の反応液をSDS-PAGE法で解析した。その結果、ヒトでは約50kD、チンパンジーでは90kDのタンパク質の合成が確認された。また、FactorXIIIaを用いたタンパク質架橋実験の結果、これらの合成タンパク質はトランスグルタミナーゼが触媒する共有結合で架橋されることが確認された。さらに、これらの合成タンパク質は非変性・非還元状態では非共有結合的に凝集することも示された。これらの結果は、ヒトならびにチンパンジーSMG1の
in vitro合成が成功した事を示すものである。今回確立した系は、霊長類に限らず他の種をも対象にした比較生化学・生殖学的解析に利用可能である。
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光永 総子, 中村 伸
セッションID: C-02
発行日: 2005年
公開日: 2005/06/07
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(目的・背景)マカクサルBウィルス(BV)はヒトに感染すると致死的な中枢神経系の障害を引き起こす。BVはヒト単純ヘルペスウィルスと抗原的に似通っているため、これまで行われてきた通常のウィルス抗原を使用する方法では、ヒト単純ヘルペスウィルス(HSV)に感染とBV感染とを区別できない。我々はヘルペスウィルスglycoprotein D(gD)のC末端アミノ酸配列が各々のウィルスで特異性を示すことに着目し、BVのgD C末端の11アミノ酸残基からなるペプチド(BVgD-CP)を抗原とした、BV抗体特異的ELISA法を昨年報告した(Mitsunaga et al.,
Exp. Anim. 53: 229, 2004)。今回、BVgD-CP抗原ELISA法の汎用性を検討するために、異なるマカクサル種の異なる群におけるBVgD-CP抗原に対する抗体の出現頻度を調べた。
(方法)BVgD-CPを、コバリンクプレート上に共有結合させて捕捉抗原とし、BV感染したニホンザル、アカゲザル、カニクイザルの血清/血漿サンプルを適用した。
(結果)マカクサルの種、群によってBVgD-CP抗原に対する抗体の出現頻度が異なり、60%から90%の頻度で抗BVgD-CP抗体が検出できた。
(考察)異なるサル種、群におけるBVgD-CP抗原に対する抗体出現頻度の違いは、抗原認識にかかわるMHC構造の差異、或いはサルに感染しているBV株の当該配列(BVgD-CP部分のアミノ酸配列)の差異によるものだと考えられる。今回用いたBVgD-CP抗原の他にもBV特異的な抗原となるアミノ酸配列のペプチドを探索して総合的に用いる可能性が示唆された。
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