抄録
野生チンパンジーは、野生・飼育下でも、果実や地上性草本のワッジ採食を頻繁に行う。しかし、野生オランウータンではわずかの例しか報告されていない。大型類人猿の前歯は後歯に比べて大きく、果実採食への適応として意義づけられてきた。しかし、Pickford (2005)は、化石類人猿、化石人類、現生大型類人猿の比較研究の結果、チンパンジーの相対的前歯の大型化は肉食への適応であると論じた。
本研究では、大型類人猿にみられるワッジ採食の進化史的位置付けを検討するため、(1)チンパンジーとオランウータンとの種間差、(2)ワッジ採食技術の年齢による発達、(3)性差などについて、サトウキビの給餌実験を行った。
チンパンジーでは、個体によってサトウキビの嗜好性が異なり、少ししゃぶって捨てるものから繊維まで飲み込むものまで様々だった。ほとんどの個体の摂食方法は同じだった。1:折り曲げながら口に入れる。2:奥歯で噛み吐き出す。3:吐き出した繊維をまとめ口内または口先で絞る。4:口先で折り曲げたり回転させたりしながら、出し入れを繰り返す。果汁吸収率に年齢差、性差は見られなかった。
多摩動物公園のオラヌータンでワッジを回収できたのはオトナオスだけであった。他の個体は、サトウキビを噛みすべてを飲み込んでしまった。オランウータンの果汁吸収率は、チンパンジーより少し高かった。また、チンジーのワッジでは、繊維は噛み切られた程度だったが、オランウータンでは細かく噛み砕かれていた。チンパンジーに比べてオランウータンの奥歯サイズが大きいことと側頭筋力が相違することが原因だろう。
東京都檜原村に生息するニホンザルにおいても、直接観察はできなかったが、ワッジ採食を行うと推測できた。2005年の冬期間に、土留めとして植栽された外来植物を採食したワッジを多数回収したので合わせて報告する。