抄録
高等生物は生息環境の影響をうけて、現在の多様な免疫遺伝子を獲得したと言われる。その遺伝的多様性の進化機構解明のために、主要組織適合性複合体(MHC: Major histocompatibility complex)遺伝子群が注目されている。MHC遺伝子群は疾病や寄生虫との関わりの中で生成消失を繰り返し、個体のもつ免疫抵抗の強さを規定していると言われる。本研究では、ニホンザルMHC遺伝子の多様性について集団・遺伝子レベルでの分布を解析し、共通祖先を持つ近縁種や共通伝染病をもつ同所的に生息する種間におけるMHC遺伝子型の比較し、霊長類におけるMHC遺伝子の多様性の進化過程を考察する。今回はニホンザル個体群におけるDRB遺伝子群の遺伝的変異の分布について報告する。
本研究の対象はニホンザルのMHCクラスII・DRB遺伝子群である。MHCクラスII・DRB遺伝子座にはDRB1、DRB3、DRB5といった機能遺伝子領域があり、さらにそれぞれで多型がみられ、対立遺伝子数や対立遺伝子タイプの個体間変異が大きいことがヒトで知られている。
霊長類研究所の放飼場群(嵐山A、B群、若狭A、B群、高浜群、小豆島由来岡崎群、小豆島由来有珠群)のニホンザル145頭から、健康診断時に血液サンプルを採取した。この血液サンプルからDNA抽出を行い、マカクMHCクラスII ・DRBローカス特異的プライマーを用いてPCRを行い、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法によってDRB遺伝子群を分離、シークエンシングを行った。
結果からニホンザルでは各個体につき1から6タイプのDRB遺伝子を保有することが判明した。また個体群間で個体のもつ対立遺伝子数に変異が見られ、小豆島由来の2群では個体差が少ないことが明らかになった。血餅や血漿、血清を用いた解析方法を確立できたため、これらの状態で冷凍保管されている古いサンプルの解析も可能になった。