抄録
ギニア共和国ボッソウでは1976年以来、野生チンパンジーの長期継続研究がおこなわれてきた。遊動域はボッソウ村の中心にある4つの小さな丘が中心であり、ニンバ山系とはサバンナによって隔てられていることから、孤立した小さな森と捉えられることが多い。しかし実際には河辺林がニンバ山系まで続き、リベリアとの国境方向へは森が連続している。このような環境で、ボッソウのチンパンジー6個体がリベリアの国境を越えて遊動した。6個体の構成は3個体のオトナオス、2個体のオトナメス、1個体のワカモノオスだった。リベリア国内で調査した結果、直接観察には至らなかったものの多くの食痕を確認した。また、当該日に使用したと思われるネストを発見した。6個体は翌日の午後までリベリア側で遊動し、夕方にはギニア側に戻って泊まったようだった。当日のネストを国境近くの森で確認した。次の日の午後に6個体はボッソウに戻ってきた。また、今回訪れたリベリアの森で古いネストをいくつか確認できた。このようなリベリアへの遊動は今回が初めてではないと考えられる。今回、チンパンジーをボッソウの森で観察できなかったのは2日間だけである。遠隔地での追跡が困難なこともあり、これまでの研究で見逃されていた可能性が高い。リベリアでは近年まで内戦のために治安が不安定だった。ボッソウから国境まで近いにもかかわらず国境を越えた近隣の森で野生チンパンジーの調査はおこなわれてこなかった。2005年11月に内戦後初の選挙によって新しい大統領が就任したこともあり、国連の監視の下でリベリアの治安は改善しつつある。ボッソウのチンパンジーが国境を越えて遊動することやリベリア側での他群の存在可能性を考えると、トランスフロンティアな視点で研究および保全活動を進めていく必要があるだろう。