抄録
京都大学霊長類研究所では、ニホンザルおよびアカゲザルが、出自地域ごとに閉鎖集団として維持されている。これらのマカク集団は、設立されて以来30余年経過しているが、その間に遺伝的多様性や集団の近交係数の経時的変化に関する調査は行われてこなかった。本研究の目的は、このような飼育下マカク集団の集団設立から現在までの遺伝的変化を解明することであるが、今回、現在の遺伝的多様性の状況を明らかにするために、マイクロサテライトDNAによる分析を行ったので報告する。ニホンザル高浜群(個体数 n=51)、嵐山群(n=41)、若桜A群(n=26)、若桜B群(n=38)、アカゲザルインド群(n=48)および中国群(n=47)を対象にして、ヒトマイクロサテライトのホモローグ15遺伝子座の遺伝子型判定を行った。遺伝子座ごとに遺伝的多様性のパラメーターを算出した後、各集団について平均ヘテロ接合率(He)を計算した。群間の遺伝的分化量をFstおよびNeiの遺伝距離によって測定した。分析したマイクロサテライト15遺伝子座の対立遺伝子数およびヘテロ接合率は、ニホンザルにおいて3~14個および0.534~0.869、アカゲザルにおいて4~12個および0.477~0.855であった。各集団のHe は、ニホンザルにおいて0.598~0.657、アカゲザルにおいて0.606および0.706であった。同様のマーカーセットを用いた庄武・山根(2002)の調査結果と比較したところ、当研究所のニホンザルおよびアカゲザルの各群は、ニホンザル野生群(日光群、波勝群、椿群など、0.559~0.646)と同等の遺伝的多様性を保持していることが明らかとなった。遺伝的分化の調査から、ニホンザル高浜群が他の群から分化している傾向が認められ、その大きさは、当研究所のアカゲザル2群間の分化量よりも大きかった。