抄録
ヒトを除くすべての種が「絶滅危惧種」に指定されている霊長類は保全生物学的な観点からみて重要な研究対象である。絶滅が危惧されている生物種の保全のためには、系統情報が基礎データとして重要であり、また各種内の遺伝的多様性の把握も重要である。霊長類の遺伝的多様性の解析にはミトコンドリアDNAが分子マーカーとして用いられることが多いが、母系遺伝という遺伝様式のために遺伝子の系図のある側面しか知ることができない。そのため霊長類の系統関係や遺伝的多様性を包括的に理解するためには核DNAの多数の遺伝子座を分子マーカーとして用いる必要がある。そこで霊長類の保全生物学と種内の多様性研究というふたつの目的のために、“Prim-Prim”というデータベースの設立を計画した。このデータベースは既知の霊長類ゲノム配列の比較から、未解読の霊長類のDNA断片を分子マーカーとして増幅させることのできる「霊長類ユニバーサルプライマー」を収める事を目標としている。すでにゲノム配列の解読が終了しているヒト(Homo sapiens)とアカゲザル(Macaca mulatta)のゲノム配列を比較し、変異性の高いイントロン領域をはさんだエクソンが両種で完全に一致している領域を抽出した。この中からPCRプライマーとしてのよい化学的性質を持つ部分配列を”Primer3”により同定し、これら2303組を「狭鼻猿類ユニバーサルプライマー」の候補配列として予測した。
プライマー予測の妥当性を検証するためにこれらのうち10組を用いてヒト、チンパンジー(Pan troglodytes)、シロテテナガザル(Hylobates lar)、フクロテナガザル(Symphalangus syndactylus)のゲノムDNAの増幅を試みた。その結果いずれのサンプルにおいても期待される塩基配列をもつDNA断片が得られたことが確かめられた。