霊長類研究 Supplement
第24回日本霊長類学会大会
セッションID: B-01
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口頭発表
ニホンザルにおけるアカンボウ運搬行動に影響する要因
*原澤 牧子杉浦 秀樹
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抄録
育児中の母親は、アカンボウの生存維持と、自分自身の生存維持および将来の繁殖のために、限られた資源である時間やエネルギーを分配しなければならない。しかし、どの程度まで育児に資源を費やすべきかは、状況によっても異なると考えられる。したがって、母親はその時々の状況に応じて育児投資の配分を変え、コストと利益のバランスを調整している可能性がある。本研究では、育児投資の中でも親にかかる物理的、エネルギー的な負担が大きなアカンボウ運搬行動に着目した。そして、この運搬行動に影響する物理的、社会的環境要因について検証した。
[方法] 幸島の野生ニホンザル主群において、2007年に出産したメス全6個体を対象に、個体追跡法による観察を行った。調査期間は2007年6月から2008年2月までとし、アカンボウがそれぞれ7、14、30、60、90、120、180-210日齢のときに、各齢各個体10時間以上を目安にデータを集めた。
[結果] 樹上か地上か、斜面が急峻か平坦かといった物理的な環境の違いは、アカンボウ運搬率に影響を与えなかった。母親が移動している時と比べると、採食時は運搬率が低かった。また、群れ内の敵対的交渉頻度が高い状況では、運搬率が高かった。給餌場面では、群れ内の攻撃性が非常に高まり、高い運搬率と高頻度の運搬拒否行動が示された。
[考察] 採食行動は、移動に比べて複雑な動作を必要とするうえ、母親の生存維持に直接的に関わることから、運搬によるコストがより大きいと考えられる。攻撃性が高い場面では、運搬によってアカンボウが他個体から攻撃されるリスクを回避している可能性が示唆された。給餌場面では、質の高い餌をめぐって採食競合が熾烈化するため、群れ内の攻撃性が増すと同時に、母親はより効率的な採食を要求される。そのため、母親にとってコストとリスクの両方が高くなり、葛藤が生じる場面になっていると考えることができる。
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© 2008 日本霊長類学会
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