抄録
(目的)霊長類は種子散布者として重要な役割を果たす分類群である。植物がその果実の特徴を種子散布者の果実選択に適応させる果実シンドロームが各地で報告されてきた。マダガスカルは、白亜紀後期に大陸から隔離したため、鳥類・哺乳類の多くの分類群が欠如しており、種子散布機能を持つ中型・大型果実食者はキツネザル類、特にVarecia属、Lemur属、Eulemur属に限られる。主にキツネザルに種子散布を期待するマダガスカル森林生態系では果実シンドロームは見られるだろうか?本発表では、マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園で最も大型で重要な散布者と考えられるチャイロキツネザルが採食した果実の分析を通して、キツネザル散布型果実シンドロームの可能性について考察する。
(方法)発信機付き首輪を装着した1群の終日観察を2006年12月から1年間行った。観察で採食が確認された果実は、果実サイズ、色、構造、種子数、散布体(散布される単位、種子や果実)サイズを記録した。散布体サイズは、糞分析から得られるデータも併用した。
(結果と考察)合計観察時間1252時間のうち、18056分の採食行動が観察された。果実の採食時間は64.6%を占め、87種が利用された。果皮の色は、85.7%が「目立たない色」、14.3%が「鮮やかな色」だった。散布体サイズを長さ、長径、短径の3軸で測定したとき、散布者が飲み込む限界は、2番目に長い軸が決定する。アンカラファンツィカの森林でこの軸が7.8mm以上の散布体を飲み込む可能性があるのはチャイロキツネザルだけである。こうした果実は、31種確認された(55%はマダガスカルに固有)。このうち、種子を保護する構造を持つ果実種は80.6%で、7.8mm以下の種の17.2%より多い。チャイロキツネザル以外に散布者が見当たらない植物の果実は、目立たない色で保護構造を持つ傾向が示された。