抄録
海外では、野生動物や生態系内の薬剤耐性菌が人や家畜への感染源になるのではないかという懸念から、あるいは水の糞便汚染の汚染源特定のための指標の一つとして、野生動物の薬剤耐性菌についての研究が近年行われている。国内でも、野生動物と人や人の居住地域との接触の程度を示す指標として、野生動物の耐性菌保有状況調査が行われるようになっているものの、いまだ十分な情報は得られていないのが現状である。そこで本研究では、遊動域などの生態学的データが蓄積されている青森県下北半島に生息するニホンザル(Macaca fuscata)を対象とし、薬剤耐性大腸菌の保有状況を調査した。2005年と2006年にニホンザルの糞便285検体(野生265検体、飼育20検体)を採取し、大腸菌の分離同定をした。一部の菌株に対しCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)に従い、24種類の抗菌薬と抗生物質について1濃度ディスク法による薬剤感受性試験を実施した。糞便285検体中176検体から290株の大腸菌株を分離した。感受性試験を実施した糞便71検体(野生62検体、飼育9検体)における薬剤耐性大腸菌保有率は、それぞれ野生個体で79.0%(49/62)、飼育個体で44.4%(4/9)だった。セファロチンの単剤耐性株が17株、アンピシリンの単剤耐性株が13株、両剤耐性株が27株、ストレプトマイシンの単剤耐性株が1株分離された。今回試験を実施した全ての薬剤に対して感受性の菌株は25株だった。野生のサルの耐性菌保有率は、これまで報告されている他地域の野鳥などの保有率(0-40.0%)に比べて高かった。これは、過去の報告では人口密度の低い地域の希少種を中心に調査しているのに対し、本研究では農地や道路沿いなど人の居住地域を頻繁に利用するサルの群れを中心に調査したためだと考えられた。