抄録
ニホンザルでは、長期観察によって個体の行動や順位のデータが蓄積されている集団が多く、また地域ごとの行動の差異も報告されており、その背景となる遺伝的要因の解析に適している。ヒトでは神経伝達関連など多数の遺伝子の多様性が行動や性格に影響することが報告されている。本研究では、ニホンザルの個体間や集団間において、これら候補遺伝子の多様性を解析し、観察データと比較するシステムの作製を目指した。個体データが蓄積されている、霊長類研究所放飼場の若桜と嵐山、京都の嵐山E群、および幸島の主群とM群の、5集団のオス、計42個体で、monoamine oxidase A(MAOA)とB(MAOB)、androgen receptor(AR)、early growth response 3(EGR3)などの遺伝子の反復配列多型領域をPCR増幅して型判定し、順位など、個体の特性との関連性を解析した。また、伊豆、高崎山など10地域の127個体も加え、アリルの頻度分布を比較した。いずれの遺伝子にも、ニホンザルで多型が見られた。MAOAでは7、8回反復の2アリルが存在し、嵐山の2集団では低順位オスには7回反復アレルは認められなかったが、幸島では順位との関連は見られなかった。MAOBのイントロン領域は多型性が高く、8アリルが見いだされた。また、集団間でアリル頻度分布に差異が見られた。今後は、試料数を増やし、過去のデータをもとに、順位に影響する様々な要因についても考慮する。また、遺伝子型が個体の行動に影響するメカニズムを解明するために、転写活性など機能の差異を解析していく必要がある。