霊長類研究 Supplement
第24回日本霊長類学会大会
セッションID: P-37
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ポスター発表
フサオマキザルのスクリーム音声が他個体に与える情動的な影響
*森本 陽藤田 和生Q. PETRINI Ana SilviaP. LOPES MonicaG. COELHO CamilaB. OTTONI Eduardo
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抄録

集団で生活し、複雑な個体間関係を持つ霊長類にとって、他個体との相互作用は重要である。動物の音声シグナルにはreferentialな機能、affectiveな機能の両方があるとされている。referencialなシグナルは特定の出来事や物事などの情報を示し、affectiveなシグナルは情動的な発し手の状態を聞き手に伝達する。これまでの研究では捕食者の種類などreferentialな情報の伝達に焦点が当てられてきた。本研究ではサルの音声が聞き手の注意や覚醒や情動などの状態を直接変化させて聞き手の行動に影響するというaffectiveな機能を持つかを調べた。調査はブラジルサンパウロ市のチエテ州立公園にて半野生フサオマキザルを対象に2008年2月から3月にかけて行った。他個体がスクリームを発したとき、他個体がホイッスルを発したとき、他個体が何も音声を発しなかったときの3条件で観察を行った。スクリームは他個体から攻撃されたときなどに発せられる音声で、採食時や移動時に発せられるホイッスルに比べてより情動的な意味合いを含むと考えられる。グループのある個体が音声を発したときに、それを聞いた個体を5分間追跡・観察した。ストレスの指標としてセルフスクラッチの頻度を分析し、音声の聞き手の情動状態が変化するかを検討した。情動的な音声であるスクリームが聞こえたときには、音声が聞こえないときやホイッスルが聞こえたときに比べて、サルが行うセルフスクラッチが多い傾向があった。スクリームを聞いたサルのストレスが高まったと考えられる。このことから情動的な意味合いが強いスクリームは聞き手に対してaffectiveな影響を持つことが示唆される。

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© 2008 日本霊長類学会
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