霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-08
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口頭発表
疎開林地帯に生息するチンパンジーの泊り場の植生と地形
*吉川 翠小川 秀司小金澤 正昭伊谷 原一
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抄録

 疎開林地帯のチンパンジー(Pan troglodytes)の泊り場の植生と地形を調査した。
 東アフリカのタンザニア西部に広がる疎開林地帯は、チンパンジーの生息地としては乾季が長く、乾燥した地域にあたる。面積の大部分を占める乾季に落葉する疎開林の他に、常緑林や草地がパッチ状に点在する。そうした地帯内にあるウガラ、マシト、ムクユ、リランシンバ、カロブワ、ワンシシ、ルワジの7地域(国立公園を除くタンザニアのチンパンジー生息地の全地域)で、1994年から2008年に、全長1,040kmの踏査ルートを歩き、踏査ルート上から発見したチンパンジーのベッド・クラスター(同じ場所に同日に作られたと推定されたベッドの集まり)の各位置をGPSで記録した。
 地理情報システム(GIS)を用いて、ベッド・クラスターのあった位置の植生および斜度を、踏査ルート上に占める各植生および斜度の割合と比較した。その結果、(1)常緑林には疎開林よりもベッド・クラスターが高密度に存在していた。また、(2)傾斜地には平地よりもベッド・クラスターが高密度に存在していた。
 昼間に遊動し夜間にはその日毎に選択した樹上や岩場に泊る昼行性霊長類は、捕食者の近づきにくい場所や採食樹から近い場所を泊り場に選んでいる(Anderson 1998; Chapman et al. 1989)。ライオンが熱帯雨林内よりも多いと考えられる本調査地のような疎開林地帯においては、捕食されることを回避しやすい場所を選ぶことが、チンパンジーの泊り場選択の重要な要因の1つになっているかもしれない。

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© 2011 日本霊長類学会
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