霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-09
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口頭発表
屋久島におけるニホンザルのキノコ食行動
*澤田 晶子半谷 吾郎
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抄録

 屋久島のニホンザル(Macaca fuscata yakui)は、最もよくキノコを食べる霊長類種のひとつである(Hanya 2004)が、どのようなキノコを食べるのかに関してはほとんどわかっていない。一方で、屋久島の菌類相は多様性が高く、フクロツルタケ (Amanita volvata) やニガクリタケ (Naematoloma fasciculare) といった致死レベルの毒を有する種の分布も確認されている。ニホンザルは何らかの手段でこのような毒キノコを見分けて避けているのだろうか。あるいはヒトにとっては有毒であってもニホンザルには無害であるのだろうか。キノコ食に対する選択・忌避の傾向とその基準について解明するため、屋久島の野生ニホンザルがどのようなキノコを食べるのかを一年を通じて調査した。
 調査は、2009年7月から2010年9月まで屋久島西部林道域でおこなわれた。オトナメス9個体を対象に個体追跡をおこない、食べたキノコ・食べなかったキノコのサンプルを採取した。サンプルはキノコの分子種同定に用いるものである。キノコを見つけてから食べる・食べないまでの判断を下すまでの行動にも着眼したところ、いったん手に取ったキノコを一口かじって捨てる、あるいは鼻に近づけてから捨てるといった行動がみられた。このことは、ニホンザルのキノコに対する食嗜好性に味覚や嗅覚が重要な役割を果たしていることを示唆するものである。また、キノコのフェノロジー調査をおこなった結果、気温が高く降水量も多い7月前後にキノコの多様性が最も高くなり、同時期にニホンザルのキノコ食行動の頻度も高まることがわかった。
 菌類相の多様性が高い屋久島において、ニホンザルは決して無作為にキノコを食べているわけではないことが明らかになった。また、どのニホンザルも食べないキノコがあった一方で、食べる・食べないという判断が個体によって分かれるキノコもあった。これは、キノコの毒性の有無だけでなく、学習に基づく食物レパートリーの違いもニホンザルの食嗜好性に影響を与えるためだと考えられる。

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© 2011 日本霊長類学会
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