霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-10
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口頭発表
野生チンパンジーの遊びの集まりにおける社会性
*島田 将喜
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抄録

【目的と方法】
 野生チンパンジーが社会的遊びの際に形成する集まりの特徴を明らかにするために、2010年10月から11月までの約1カ月間、タンザニア・マハレ山塊国立公園に生息するマハレM集団のチンパンジーを対象とするフィールド調査を実施した。
 1分間隔の観察ユニット(Observation Unit=OU)を設け、あるOUで社会的に遊んでいる個体とは、そのOUにおいてエソグラムに記載された社会的遊びの行動要素を他個体に向けている、または向けられている個体と定義した。追跡個体から10m以内かつ視界内において、あるOUで社会的に遊んだすべての個体は、そのOUで同一のクラスターに参加したものと定義した。隣り合うOUにクラスターが存在するとき、社会的遊びの要素が1分以上の間をおかずに生じた場合、それらのOUは連続しているものとし、連続するOUの最初から最後までを、一回の同じクラスターと定義した。
 クラスターの観察は、デジタルビデオカメラを用いた個体追跡法とワンゼロサンプリング法を併用することによって可能である。(遊び)クリークとは、各OUにおけるクラスターのうちで、直接社会的遊び行動要素を向けたまたは向けられた個体の集合である。追跡個体を含むクリーク内の遊び状態が変化したときの時刻については秒単位で記録した。
 これらのデータを用いて、ネットワークのサイズや指標、ネットワークのタイプの時間的変動を分析した。
【結果と考察】
 他個体から遊び行動が集中するような中心的な個体はおらず、それぞれのクラスターのネットワークには明確な中心がなかった。クリークのサイズは、2であることが多かった。サイズが3以上の遊びクリークは安定せず、短い時間のうちクリーク自体が二つに分かれたり、メンバーが抜けたりすることで、サイズが2のクリークとなることで安定する。
 野生チンパンジーは、狭い空間で時間的に行動を同調させることにより大きなサイズの遊びの集団を形成する。チンパンジーの社会的遊びにおいては、直接的にはダイアドでの遊びがもっとも普通の状態であり、こうしたダイアドが同時に狭い空間に生じることにより、ポリアドの遊びの集まりが形成していると見ることもできるだろう。つまり彼らは、身体的にはクリークレベルでダイアドの相互行為を行っているが、認知的にはクラスターレベルでポリアドの相互行為を行っていると考えることができる。

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© 2011 日本霊長類学会
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