霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-12
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口頭発表
シルバールトンの個体数密度はどのように決まるのか?
*三谷雅純渡邊邦夫
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抄録

 これまでは霊長類の個体数密度を決めるのは資源量であり、霊長類が捕食されることは、さほど重要なものと考えられていなかった。しかし、霊長類にとって、互いに似た採食資源が広がる環境でも、個体数密度が大きく変化する場合がある。そこで霊長類の補食圧からの解放と栄養カスケード(trophic cascade)を考えてみるとどうなるのかを検討する。ルトン(Trachipithecus spp.)では、その生息密度はT. auratus (Pangandaran NR, secondary forest and tree plantation)の345/km2(Kool, 1989)から、T. phayrei (central Thailand, rain forest) の2.1-6.8/km2(Fooden, 1971)まで大きな幅が見られる。中でもT. auratusは、チーク(Tectona grandis)やマホガニー(Swietenia macrophylla)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)などのプランテーションでしばしば観察されるが、Pangandaran NRほど高い個体数密度で生息する例はほかにない。Pangandaran NRは約400 haの小面積の保護区であり、一部に固有種があるものの、多くはジャワ島と共通する樹種である。私たちはPangandaran NRのpublic use zoneであるplantation areaに特異的に多くのシルバールトンが生息する理由を、(1) plantation areaであること、(2) 死亡した個体数密度の補償作用、(3) 半島の先端部で、実質的に島の生態学が適応できること、などに求めてきたが、これまでのところ、高密度の原因ははっきりとは確認できなかった。そこで高密度の原因を栄養カスケード、つまり上位捕食者が滅びたために引き起こされた葉食者個体群の解放(herbivore release)と考えて、栄養カスケードであれば予想される採食資源の枯渇の可能性などを検討してみる。その時、将来的に予想できる植生とシルバールトン個体群の変化を考察する。

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© 2011 日本霊長類学会
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