霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: A-13
会議情報
口頭発表
マハレのチンパンジーの遊動域―16年間のデータから
*中村 美知夫コープ ナディア藤本 麻里子藤田 志歩花村 俊吉早木 仁成保坂 和彦ハフマン マイケル A稲葉 あぐみ井上 英治伊藤 詞子川中 健二沓掛 展之清野(布施) 未恵子郡山 尚紀マーシャント リンダ F松本 晶子松阪 崇久マックグルー ウィリアム Cミタニ ジョン C西江 仁徳乗越 皓司坂巻 哲也島田 将喜ターナー リンダ A上原 重男ワキバラ ジェームズ V座馬 耕一郎西田 利貞
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抄録
【目的】
 野生チンパンジーの遊動域については数々の報告があるが、その多くは、1年から数年程度の観察を元にしたものである。タンザニアのマハレでは、研究者が可能な限り継続的に滞在して観察をしており、チンパンジーが観察された日には、その遊動ルートを記録し共有データとして蓄積している。本発表の目的は、こうした形で長期間蓄積されたデータからチンパンジーの遊動域の変動を概観することである。
【方法】
 マハレM集団の1994年~2009年の16年間の遊動データを分析に用いた。データがある日数は合計3,537日間(年平均221.1日)である。毎日の遊動ルートを250 m × 250 mのグリッドに落とし、最外郭法および利用グリッド数で、各月、各年、および全期間の遊動面積を算出した。なお、マハレでは地形的に追跡が不可能な場所があったり、研究者によって調査方法や終了時間も異なったりするため以下の値は過小評価となる点には注意が必要である。また、チンパンジーは離合集散するため、一部の個体の位置しか把握できない。
【結果と考察】
 16年間でM集団が一度でも利用した面積(以下、全遊動域)は最外郭法で27.4 km2(グリッド面積では25.2 km2)であった。年平均は18.4 km2(± 2.7 SD)であり、平均的には1年間で全遊動域の7割弱しか利用が確認されていないことになる。利用したグリッド数の累積は、5年間でも全体の8割にしかならず、95%の利用が達成されたのはじつに11年目に入ってからであった。このことは、非常に長いスパンでしか利用されない地域があることを示唆している。一方で、利用頻度上位50%までの面積は、16年間でわずか4.3 km2(全遊動域の15.7%)にしかすぎず、日常的にはM集団は限られた地域を集中的に利用していることが示唆される。年ごとの遊動面積の変化はオトナメスの数と正の相関を示したが、オトナオスの数とは相関しなかった。
 月平均の遊動面積は7.6 km2(± 3.1 SD)であったが、最大で17.3 km2を使っている月もあった。遊動面積には季節性があり、平均的には雨季後半の4月が最小で、乾季の8月に最大となる。しかし、こうした傾向から大きくずれる年もあり、おそらくその年の特定の果実の実りと関係している可能性が大きい。
 今後、果実生産量、より具体的な集団構成や社会変動などとの対応を見ていく必要がある。また、狩猟行動やメスの移入、集団間関係などを調べるための基礎データとしても本発表のデータは有用であろう。
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© 2011 日本霊長類学会
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