抄録
【目的】ヒトにおけるShort tandem repeat(STR)多型は、親子鑑定・個体識別・人類遺伝学的解析など幅広く利用されている。さらに近年、性染色体特異的なSTRであるX‐STR、Y‐STRが開発され法科学的解析に重要な手法となっている。一方、動物においても、STR多型は個体識別・血統登録・品種分化などの手段として研究されているが、性染色体STRマーカーの開発はごく一部の種に留まっている。ニホンザルにおけるY-STR多型の開発は、ニホンザルの父系解析を可能とし、新たな集団遺伝学的知見が期待されることから、今回 ニホンザルにおけるY染色体特異的STR座位の同定を試みたので報告する。
【材料および方法】日本獣医生命科学大学野生動物教育研究機構と福島市および新福島農業協同組合の研究協力協定に基づき得られたニホンザル標本より抽出したゲノムDNAを試料とした。Y-STR座位の同定は、82種類のヒトDYS座位を基にあらかじめPCR法を実施し、ニホンザル雄特異的な候補座位と判定した12遺伝子座について、1)塩基配列の解析、2)ニホンザル雄ゲノム特異的STRマーカーの再構築、3)雄20例を用いた多型性解析により実施した。
【結果および考察】これまでに解析した82種類のヒトDYS座位のうち、ニホンザルにおいて雄特異的バンドが増幅された5座位および雌雄で増幅バンドの移動度が異なる7座位の計12座位についてダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した結果、10座位で、(TC)(TATC)、GTT、TAGAなどの雄特異的STR配列が認められた。そこで、雄特異的STR遺伝子座(Y-STR)10座位の塩基配列をリファレンスとした。リファレンス配列では、STR配列を含む領域(199bpから380bp)においてヒトゲノム配列との相同性は65%から87%と座位間で差が認められた。さらに、ニホンザルの雄ゲノムに特異的でかつヒトゲノムでバンドが増幅しない、ニホンザルY-STRマーカーの設計を試みた結果、10種類のうち7種類の座位でニホンザルY-STRの作成が可能であった。なお、20個体(福島県ニホンザル)を最初のスクリーニングパネルとし開発した10種のニホンザルY-STRマーカーで多型性の有無について解析を進めており、現在少なくとも5座位(最大対立遺伝子数、5)で多型性を見出している。以上、今回ニホンザルにおけるY染色体特異的STR座位の同定は、父系マーカーを利用した新たなニホンザル集団の遺伝子構成の解明に繋がるものと考える。