抄録
霊長類は、お互いに毛づくろいを交換し、互恵的に毛づくろい交渉を行っている。最近では、その場での短期的な交換と、何度か交渉を重ねることによる長期的な交換のうち、どちらの交換が、毛づくろいの互恵性に強く影響しているのかが、議論されている。Muroyama (1991)の研究では、ニホンザルが催促行動を行い、その場で短期的に毛づくろいを交換していることが示されている。本研究の目的は、ニホンザルメスが、毛づくろいを交換するときに行う催促行動の働きを示し、催促行動が個体間で行われた毛づくろいの時間を均等にし、毛づくろいの互恵性を高めているのかを検討することである。
勝山ニホンザル集団における14頭の成体メスを対象に、個体追跡法による1セッション30分の連続観察を行い、毛づくろいや催促行動を記録した。観察は2009年10月から2010年9月まで行い、総観察時間は220時間であった。毛づくろいを行ったメスとの個体間関係を、近接率と血縁関係に基づいて、血縁個体間、親密な非血縁個体間、親密でない非血縁個体間に分類し解析を行った。
ニホンザルメスが、毛づくろいした後に催促を行うことで、相手からお返しの毛づくろいを受けているのかを検討した。どの個体間関係でも、自分が毛づくろいした後で相手に毛づくろいの催促をした場合には、催促をしなかった場合よりも、お返しの毛づくろいを受けることが多かった。しかし、毛づくろいをせずに催促をした場合、他の個体間に比べて、親密でない非血縁個体間では、相手から毛づくろいを受けることが少なかった。次に、毛づくろいした後ですぐに催促を行うことが、1年間の観察期間を通した長期的な毛づくろいの互恵性に影響を与えているのかを検討した。血縁個体間と親密な非血縁個体間では、毛づくろい後に頻繁に催促している個体間でもしていない個体間でも、長期的な互恵性は同程度であった。一方、親密でない非血縁個体間のうち、毛づくろい後に頻繁には催促をしない個体間では、長期的な毛づくろいの互恵性は低くなっていた。
以上より、毛づくろい後の催促行動は、その場での短期的な交換を促進する働きがあることが示された。また、毛づくろいの互恵性は、血縁個体間や親密な非血縁個体間では、長期的な交換によって高められ、親密でない非血縁個体間では、催促を行い、短期的に交換することによって高められていることが示唆された。