霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: B-8
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口頭発表
ニホンザルにおける苦味受容体TAS2R38の地域特異的な感受性変異
*鈴木 南美松井 淳郷 康広石丸 喜朗三坂 巧阿部 啓子平井 啓久今井 啓雄
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抄録
 苦味感覚は、採食品目に含まれる生理活性物質や毒性物質を検出する役割を持つ。そのため、苦味受容体遺伝子TAS2Rは環境の植生の違いなどに応じて進化的に柔軟な変化を示す可能性がある。ヒトを含めた霊長類では、TAS2Rの遺伝子変異と苦味感受性変異との関係が報告されている。例としては、TAS2R38に変異が生じたヒトおよびチンパンジーは人工苦味物質PTC(phenylthiocarbamide)の感受性が低いことが報告されている。我々は、様々な地域由来のニホンザルにおいてTAS2R38の遺伝子型多型解析を行い、12サイトの塩基置換、13種類の遺伝子型を同定した。このうち、紀伊半島由来のニホンザルから、開始コドンに起きた、受容体の機能を失う可能性が高い変異が同定された。リンゴ片を用いた給餌実験によって、この遺伝子変異は行動レベルにおいてPTC苦味感受性を低下させていることを明らかにした(Suzuki et al., Primates 2010)。さらに、我々は遺伝子型間での苦味感受性差の有無を明らかにするために、培養細胞を用いたカルシウムイメージング法による機能解析を行った。その結果、行動実験でも明らかにしたように、開始コドンに変異をもつ遺伝子型では細胞レベルにおいてもPTCに対する反応性を示さなかった。一方で、通常の開始コドンをもつ遺伝子型はどの遺伝子型もPTCに対して反応性を示しており、アミノ酸置換による大きな反応性の違いは見られなかった。また、苦味感受性変異個体と野生個体における苦味感受性閾値の差を明らかにするために、様々な濃度のPTC溶液を用いて、二瓶法による給水実験を行った。その結果、野生型では閾値が約30µMであったのに対して、変異型では40倍以上感度が低かった。以上の結果から、ニホンザルのTAS2R38で同定された遺伝子変異のうち、開始コドンに起きた変異のみ、細胞レベルでの受容体活性および、行動レベルでのPTC感受性を低下させていることが明らかになった。つまり、ニホンザルにおけるPTC感受性変異は紀伊半島由来の特定の集団のみに起きていることが示唆された。TAS2R38は天然苦味物質として、アブラナ科の植物に含まれるグルコシノレートや、ミカンなどの柑橘類に含まれるリモニンを受容する。これらの苦味物質をふまえて、ニホンザルにおける地域特異的な苦味感受性変異と採食行動との関係について考察する。
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© 2011 日本霊長類学会
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