霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: B-20
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口頭発表
ナカリにおける発掘調査と初期コロブス類進化についての新知見
*中務 真人國松 豊仲谷 英夫酒井 哲弥實吉 玄貴沢田 順弘
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抄録

 ケニア中部ナカリ地域で行っているケニア国立博物館との共同古人類学発掘調査について報告する。ナカリの化石産出層の年代は980-990万年前である。ナカリでは、大型類人猿ナカリピテクスが発見されているが、それ以外に多数のオナガザル化石が発見され、その多くはコロブス亜科マイクロコロブスである。マイクロコロブスはこれまで知られている最古のコロブス亜科であり、ナカリ以外ではトゥゲン丘陵のンゲリンゲルワ層(およそ950-1000万年前)からしか知られていない。マイクロコロブスは現生のコロブス類が共有する四肢骨の派生形質を数多くもつものの、手の親指の退化傾向を示さない。一方、第四指と推定されるマイクロコロブスの基節骨についてスケーリング分析を行ったところ、現生の樹上性オナガザル亜科よりも長いことが示された。これまで、母指の退化は、オナガザル亜科や類人猿との採食競合と効率的な樹上運動への適応のトレードオフを経て進化したと考えていた。すなわち、長い外側指は樹上運動の効率を上昇させるが、指先で小さな食物をつかむ精密な手指操作には非適応的と予想される。したがって、コロブス類が葉食により特殊化することにより採食競合が緩和され、操作能力を犠牲にしても大きな不利にならなくなって以降、母指の退化と外側指の伸長が起こったという仮説を考えていた。しかし、今回の結果は、外側指の伸長と母指の退化が別の時期に発生したことを示唆しており、母指の退化理由については、さらなる検討が必要と考えられる。この研究は科研費 #22255006、#19107007の補助を受けておこなった。

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© 2011 日本霊長類学会
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