霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-9
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ポスター発表
ヒグマの立位動作と二足歩行 ―ヒト二足歩行の初期モデルとなるか―
*藤野 健
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抄録
 【はじめに】飼育下のエゾヒグマUrsus arctos yesoensis の立位動作と二足歩行について、運動時の体幹動作を三次元直交軸回りの回転運動として定性的に解析する方法に依拠し、ヒト二足歩行能の進化獲得の観点から検討した。【観察1】観察場所の昭和新山クマ牧場では園内の路面から見下ろす様に堀り込まれた幾つかの放飼場内で、ほぼ同年齢帯のヒグマが複数頭ずつ飼育され、観光客は買い求めた林檎などを自由に投与出来る。ヒグマは通常は四足歩行するが、客の手の餌を知るとすぐに立ち上がり、両手を叩き或いは手招きして自分の元に餌を投げるよう要求する。立位のまま餌を求める個体が多いが、幾らかは餌を得ようと野球の外野手の捕球動作に類似して前肢を挙上させたままで前後或いは左右に数歩(最大で5~6 歩)二足歩行で移動するが、客が姿を消すとその場で四足姿勢に戻る。【観察2】これら動作時には股関節は伸展しまたベタ足の足先は斜め外側方を向く。二足歩行時には体幹を左右に交互に振ると同時に体長軸回りの反復回転性が軽度に認められたが、ヒトや類人猿とは異なり胸郭と腰の間の逆回転の発生は感知されなかった。【考察1】ヒグマは緩徐な四足歩行時には腰+後肢を鉛直軸回りに反復回転させつつの「腰振り」歩行が明瞭に観察される。これは後肢各関節の角度を変化させずに足を前方に突き出すのに役立ち、位置エネルギーを変動させない点ではボディサイズが大型化した動物には有利な動作と思われる。二足歩行時に観察される鉛直軸周りの反復回転も同様の理由から発現されると考えることは可能である。【考察2】それではヒグマはヒトの二足歩行獲得の初期モデルとなり得るのだろうか?即ち四足性のサルが地上で立ち上がりそれが反復回転性を伴う二足歩行動物に進化したとの仮説が成立するか否かである。この仮説の問題は、第一に四足歩行性のサルが物を抱えるなどして数歩二足歩行する例が報告されるが全く反復回転性が見られず、祖先型霊長類がこの回転運動性を得た経緯を明確に説明できない点、第二に通常のロコモーションには躊躇無く四足歩行性が選択される点、換言すれば四足歩行性を「切り離す」必然性が機能形態的に説明困難な点にある。四足性のサルの一時的な立位歩行を例に「徐々にその頻度を高め、四足歩行性を停止して常時二足歩行性に切り替わる」との単純なモデルは説得性を欠くものと考えた。
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© 2011 日本霊長類学会
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