抄録
混群とは、異なる種どうしがひとつの群れのように共に移動したり採食したりする現象である。霊長類の混群では、混群を形成する種どうしがお互いの音声に反応したり、音声交渉をしたりすることが報告されている。特にオトナオスのラウドコールは異種間で同期して起こることが指摘されており、声が混群状態の維持に機能しているのではないかといわれている。そこで本研究では、同期して起こる声の機能を探るべく、ブルーモンキーとレッドテイルモンキーの混群において、2種のオスのラウドコールがいつどこで起こり、どのように発声が同期しているのかを明らかにした。調査は2004年9月から2005年2月、ウガンダ共和国カリンズ森林においてブルーモンキーのB1群とレッドテイルモンキーのR1群を対象に行った。2人の観察者が2種の群れの個体を同時に終日追跡し、追跡個体の位置と行動を5分ごとに記録した。また、対象群のオスのラウドコールが起きた場合は、発声の時間と場所を記録した。その結果、ブルーモンキーのラウドコール(pyow)は連続して起こり、その合間にレッドテイルモンキーがラウドコール(hack)を発していたが、2種のラウドコールの8割近くは同じタイミングで起こっていた。レッドテイルの発声はブルーの発声の直後に起こることが多かったが、ブルーはレッドテイルの発声の有無に関わらず発声しており、2種のラウドコールは、レッドテイルによって積極的に同期していると考えられた。また、レッドテイルは大きな物音の後にもラウドコールを発していたことから、レッドテイルの発声は、ブルーの声の後である必要は必ずしもなく、大きな音の後であることが重要だと考えられた。2種は共に夕方にラウドコールの発声頻度が高く、また発声後には群れの個体の行動が変化していた。2種は場所や2種間の距離に関わらずラウドコールを発しており、発声の前後で2種間の距離は変化しなかった。よって、オスのラウドコールは混群状態の維持を第一の目的にしているわけではなく、ブルーはブルーの、レッドテイルはレッドテイルの群れ内の個体に対して発せられていると考えられた。レッドテイルの声はブルーの声に比べて音量が小さいため、レッドテイルにとってブルーの大きなラウドコールの直後に発声することには、小さい声でもより周囲に聞こえやすい効果があるのではないかと考えられた。