霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-38
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ポスター発表
大型類人猿とヒト幼児の積木の操作にみる物理的な特性の理解
*林 美里竹下 秀子
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抄録

 ヒトの子どもは1歳頃から積木をつむ。ヒト以外では、チンパンジー・ボノボ・ゴリラ・オランウータンという大型類人猿4種が積木をつむ。これら大型類人猿4種とヒト幼児を対象に、積木をつむ課題を尺度とした比較研究をおこなった。さらに、積木の形状を変えることで、物理的な特性の理解についても非言語的にはかることができる。京都大学霊長類研究所のチンパンジー6個体、ドイツ・ヴィルヘルマ動物園のボノボ2個体とゴリラ3個体、マレーシア・オランウータン島のオランウータン4個体、滋賀県立大学子育ち応援ラボ「うみかぜ」参加のヒト幼児30名を対象に研究を実施した。5センチ各の立方体の積木、および直径・高さが5センチの円柱形の積木を素材として使用した。立方体の積木はつむのに適しているが、円柱形の積木では向きによって特性の違いがでる。つむのに適した向きを選択的に使うか、つむのに適していない向きの場合には向きを適切に変えてからつむことができるか、といった行動指標を用いて分析した。立方体の積木では、チンパンジー6個体、ボノボ1個体、ゴリラ2個体、オランウータン1個体がつむ行動をみせた。そのうち、チンパンジー3個体、ゴリラ1個体のみが、はじめから円柱形の積木の向きを変えて効率的につんだ。それ以外の個体では、円柱形の積木の丸い面でつもうとしたり、円柱形の積木の丸い面の上に他の積木をつもうとしたりする行動が観察された。その後も経験をかさねると、行動の変容がみられた。また、チンパンジーを対象に、他の形の積木を用いた対面課題を実施し、はじめは効率的につむことが難しくても、経験により効率的につむことを学習できることが示された。ヒトの場合では、1歳前後で立方体の積木がつめるようになり、この頃に円柱形の積木でも向きを変えてからつむことができた。しかし、より難しい他の形の場合では、ヒト幼児においても2-3歳まで効率的につむ行動がみられない発達段階が存在することが明らかになった。概して、過去に立方体の積木をつむという操作をした経験の豊富さによって、円柱形の積木をはじめから効率的につむことができるかどうかが決まるようだ。ヒトとヒトに近縁な大型類人猿の積木つみ行動を比較することによって、物理的な特性の理解の進化的基盤と、日常生活の中で発揮される物にかかわる知性の進化および発達について考察をおこなう。

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© 2011 日本霊長類学会
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