霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-37
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ポスター発表
動画呈示によるケージ飼育ニホンザルの異常行動の軽減と新奇性・内容・操作性の効果
*小倉 匡俊
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抄録

 いくつかの先行研究において、飼育動物に対する環境エンリッチメントとしての動画呈示の有効性が検討されてきた。しかし、一般的な実験動物種であるニホンザルMacaca fuscataを対象として動画呈示が持つ環境エンリッチメントとしての効果に影響を与える要因について検討した研究はこれまでになされていない。発表者のこれまでの実験において、ニホンザルが持つ動画に対する興味に影響する要因として、動画の新奇性・動画の内容・動画の操作性を検討してきた。その結果を受け本研究では、ケージ飼育ニホンザルを対象として、動画呈示が持つ異常行動の軽減効果と、これまでに検討してきた要因が軽減効果に与える影響の検討をおこなった。実験条件として、動画呈示装置が呈示されないコントロール条件と装置のみが呈示され動画は呈示されない条件、装置により動画が呈示される条件の3条件を設定した。動画呈示条件においては、ニホンザル・ヒト・アニメーションの3種類の内容の動画を呈示した。また、画面への近接反応により動画呈示を操作できる条件と、動画が連続再生され被験体が動画呈示を操作できない条件を比較した。以上の実験中における被験体の行動とケージ内の滞在位置を記録し、分析した。コントロール条件において高い頻度で異常行動を示していた個体で、動画呈示条件中の異常行動の頻度が有意に減少した。ニホンザルの動画を呈示中の異常行動の頻度が他の動画を呈示中の場合と比較して有意に低かった。また、動画呈示を操作可能な条件で動画が呈示される位置に滞在する頻度が動画呈示を操作できない条件と比較して有意に高かったが、この有意差が見られる動画の内容は個体により異なった。以上の結果から、動画呈示はケージ飼育ニホンザルの異常行動を軽減させる効果があると言えた。また、動画の内容に対する選好性は個体により異なり、各個体が持つ選好性に基づいて異常行動を減少させ、あるいはケージ内の滞在位置を変えることで動画呈示を操作していたと考えられた。動画呈示はケージ飼育ニホンザルの異常行動を減少させる効果を持ち、その効果に呈示動画の内容や動画に対する操作性が影響を与えることが示された。

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© 2011 日本霊長類学会
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