霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-43
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ポスター発表
飼育環境の変化が四肢麻痺を患ったチンパンジー(Pan troglodytes)の行動にもたらす影響と今後のリハビリ計画および評価方法の検討
*櫻庭 陽子林 美里
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抄録

 京都大学霊長類研究所では、14個体のチンパンジーが飼育されている。2006年9月26日、オスのチンパンジー、レオ(当時24歳)が地面に倒れているところを発見された。レオは脊髄炎と診断され、四肢麻痺の状態になった。スタッフが懸命な治療や介護をおこなった成果があり、倒れてから約1年後には寝たきりの状態から自力で寝起きできるまでに回復した。2009年4月7日には治療用の狭いケージから広いリハビリ部屋に移り、生活環境の変化が起こった。
 そこで、狭いケージでの生活から広いリハビリ部屋での生活に生活環境が大きく変化したことで、レオの活動時間(起きている状態)がどのように変化していったかをまとめ、リハビリ部屋がレオの行動にどのような影響を与え、かつリハビリの一環として効果的だったか、評価を試みた。ケージおよびリハビリ部屋を撮影しているビデオ記録から、2007年10月~2010年3月(発症12カ月~41カ月後)の平日の日中1時間、活動している状態(体幹が地面に対してほぼ垂直)か、寝ている状態(体幹が地面に対してほぼ水平)かを1分ごとのタイムサンプリングでデータを収集した。結果、倒れてから13ヶ月までは活動時間は0%だったが、14、15、16ヶ月目にはそれぞれ3.0%、9.2%、41.6%と16ヶ月目で飛躍的に活動時間が延びていた。その後およそ50%~70%の範囲で活動時間は推移していたが、リハビリ部屋に移動した30ヶ月目には90.7%となり、33カ月目以降の活動時間は、40ヶ月目を除いて、ほぼ100%を推移している。治療用ケージとリハビリ部屋の活動時間において比率の差の検定を行ったところ、有意な差が見られた。
 このことから、リハビリ部屋に移動したことにより、レオは活動的になり、リハビリとしても大きな効果をもたらしたと考えられる。しかし、今回の調査から、改善された行動、行動レパートリーなどの特定が、ビデオ記録からでは困難であることもわかった。今後はレオの直接観察をおこない、綿密な計画を立てる必要がある。そこで、まずは野生下および飼育下のチンパンジーの行動調査をおこない、レオの行動における機能と表れる姿勢の違いなどを明らかにし、リハビリをおこなう上での目標を設定していくというプロセスを考えている。またヒトのリハビリについても参考にしてく予定である。

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© 2011 日本霊長類学会
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