霊長類研究 Supplement
第27回日本霊長類学会大会
セッションID: P-44
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ポスター発表
動物園の来園者の展示施設前での滞在時間に影響を与える要因について
*五百部 裕杉本 美鈴
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抄録

 現在、日本の動物園の展示方法は、従来の形態展示から行動展示や生態展示などへ変化してきている。このような変化の背景には、動物園の役割が、娯楽を提供する場から動物の種の存続や社会教育を考える場に移ってきていることが挙げられる。そうした中、来園者の行動に関する研究は少ない。一方で、今後の動物園の発展のためには、来園者の行動を研究し、それに基づいた動物園づくりを行うことが必要であると考えられる。そこで本研究ではこれらを踏まえ、どのような要因が来園者の展示施設前での滞在時間に影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。
 名古屋市東山動植物園で、2010年9月と10月の土日祝日の9日間、10時から16時の間に、昼間の来園者や展示動物の観察を行った。また動物園の夜間開放(ナイトZOO)の際にも来園者の観察を行った。こちらは2010年8月に5日間、17時から20時20分の間に調査を実施した。展示施設の違いによる来園者の滞在時間の違いを明らかにするための調査では、昼間、アジアゾウ舎とペンギン舎の前で観察を行った。またナイトZOOと昼間の比較を目的とした調査では、キリン舎の前で観察を行った。
 アジアゾウでは、展示施設の違い(屋内か屋外か)で滞在時間に有意な違いは認められなかった。しかしいずれの場合も飼育員がいると滞在時間は有意に長くなった。一方ペンギンの場合は、展示施設の違いによって滞在時間に違いが見られた。通常の柵の前での滞在時間が、ペンギン舎見下ろすことができる場所やペンギンの水中での行動が観察できる場所での滞在時間よりも、有意に長くなっていた。またキリン舎における昼間とナイトZOOでの比較では、昼間の滞在時間が有意に長くなっていた。しかし、ナイトZOO時の周囲の明るさの違いによる比較では、滞在時間に有意な違いは認められなかった。
 動物園の来園者の展示施設前での滞在時間は、さまざまな要因によって変化することが明らかになった。まず展示施設の広さやそこでの動物の見やすさが影響していると考えられた。また飼育員の有無などに起因する動物の行動の違いも、滞在時間に影響を与えていると考えられた。さらに来園者が動物園に来る目的の違いも、滞在時間に影響を与えている可能性が考えられた。

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