抄録
オナガザル科に属するいくつかの霊長類種では、重層的な社会を形成する。これは、複数の群れが集まりさらに高次の社会を形成するというものである。重層社会を形成するオナガザル科のサルに共通するのは、群れの基本単位が、単雄複雌の群であるという点である。重層社会の種間比較研究の多くは、単雄複雌の群れ間の関係性に着目して進められてきた。ところが、単雄複雌の群れ内の個体間の関係性に着目し、それを定量的に種間比較した研究例は今までにない。霊長類の重層社会を理解する上で、その根幹をなす最少ユニットである単雄複雌の群れ内の個体間関係を比較することも、群れ間の関係性を比較する研究と同様に重要である。本研究では、重層社会を形成することが報告されているコロブス亜科2種(テングザル、キンシコウ)と、オナガザル亜科2種(マントヒヒ、ゲダヒヒ)の単雄複雌の群れ内の個体間の社会交渉を、ソーシャルネットワーク分析を用いて比較・検討した。これら4種において、群れ内の個体間で観察された社会交渉をもとに、オスとメスの中心性を比較したところ、コロブス亜科とオナガザル亜科で明確な違いが見られた。コロブス亜科2種では、社会交渉の中心はメスであるのに対して、オナガザル亜科2種ではオスが、その中心となっていることがわかった。これらの違いは、オナガザル亜科に比べてより頻繁に報告されている、コロブス亜科のメス間でよく見られる、アロマザリング行動が影響している可能性が示唆された。この他にも、クラスター指数やクラスター解析の結果から、それぞれの種における個体間の社会交渉の傾向が、各種の性分散様式とどのように関係しているのかも考察する。