抄録
背景:哺乳類の骨格の中で,距骨は比較的よく機能形態学的・古霊長類学的研究がされている.しかし,現生動物の距骨サイズの種内変異を詳しく調べた研究はまだ少ないので,化石動物の距骨の変異を考えるときの基準に乏しかった.
目的:本研究では現生霊長類の距骨サイズの種内変異を明らかにするために,例としてニホンザルの成獣個体を対象に,距骨サイズの変異および距骨サイズと臼歯サイズ・体重との関係を調べた.
資料と方法:ニホンザルの成獣193個体.デジタルノギスを用いて距骨および下顎第一臼歯(m1)を計測.個々の個体の体重は標本データベースより取得.ExcelおよびJMPにより統計解析.
結果と考察:距骨サイズの変動係数は,雌雄をまとめたときは6.7~8.4,雌雄を区別すると,4.1~6.6だった.
t検定の結果,距骨サイズに雌雄差が認められた.主成分分析をしたところ,PC1の寄与率が約80%であった.雌雄差はほぼPC1(大きさ)の違いのみで,形態の違いはほとんどなかった.また,雌雄をまとめた距骨サイズの分布はbimodalにはならなかった.したがって,同一化石産地で同じ形の成獣の距骨化石サイズの分布が明らかなbimodalになった場合は,雌雄差ではなく,種間差である可能性が高い.
距骨サイズと体重との相関は,雄雌を区別せずに一緒に解析した場合(r = 0.20~0.50)も雄雌を区別して別々に解析した場合(r = -0.17~0.31)も,どちらも弱かった.m1サイズと体重との関係,および距骨サイズとm1サイズとの関係も同様であった.この結果は,「ある一種の霊長類の成獣の距骨標本が複数個体分ある場合に,そのサイズの違いからその個体間の体重の違いを推定することは難しい」ということを示唆している.