抄録
近年,ツキノワグマの大量出没が,数年に一回の頻度でみられている.大量出没時には,人間の利用場所への出没の件数が増え,本来の生息地である森林から離れた場所にも現れるという特徴がある.多くの市町村ではこうした状況を人間側からの通報,すなわち目撃や被害の情報としてとらえ,防除や捕獲などの被害対策に反映させているが,クマの行動圏や土地利用の変化を踏まえた上で対策に活かしている例は少ない.
長野県軽井沢町では,クマに関する通報情報を収集してきたほか,1999年以降 2013年 5月までに,クマの生息地と人間の居住地の境界部分で合計 96頭のクマを捕獲し,大部分の個体に電波発信器を装着してきた.今回は複数年連続して追跡できた個体の行動圏に含まれる森林面積の割合に着目し,出没が多い時期の特徴を明らかにすることを目的とした.なお,分析はゴミなどへの執着が確認された個体と確認されなかった個体に分けて行った.
年間行動圏内の森林面積割合は個体によって異なっていたが,年による増減は個体間で同調する傾向にあり,例えば 2005年から 2006年にかけては,80%以上の個体で減少していた.行動圏に含まれる森林面積割合を季節間で比較すると,ほとんどの年で夏よりも秋の方が高かった.一方で,大量出没が起きた 2006年では,複数個体において秋にも森林面積割合が低いままであり,年間を通じて,森林外の環境をよく使う年もあることがわかった.
ゴミの管理をはじめとする各種対策によって,人とクマの間に一定の距離が保たれるようにはなってきているが,一方で,ゴミや人間由来の食料に執着した個体以外でも,時期や年によって森林外の環境への要求が高まっていた.こうした事態に対しては,発生を予測して被害防止につなげることが重要であり,クマの行動に影響を及ぼしている可能性の高い食物環境や個体間関係について把握することが今後の課題である.